ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず

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プロローグ フィーナ・フィンザートン視点(1)

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「お待たせいたしました、アゼット様」

 とある日の放課後。ここ王立リザエンドワール学院内にある、『別棟』こと第2学舎3階の踊り場。指定された場所にたどり着いた私は、姿勢を正して会釈を行いました。

《貴方様にお渡ししたいものがありますの。放課後になったらおひとりで、同封された地図にある場所までお越しくださいまし》

 今朝『白ユリ棟女子生徒専用寄宿舎』を出る際にお手紙をいただき、そちらにはこういった内容が記されていました。ですので私は今、こうしてこの場を訪れていたのです。

「先生方に速やかに提出しなければならないものがあり、教員室を訪れておりました。少々遅くなってしまい、申し訳ございません」
「いいえ、こちらは急であり我が儘なお願いなんですもの。お気になさらないでくださいまし」

 学院内外で『生きる芸術品』と呼ばれている、ジュリアルス侯爵令嬢アゼット様。そんなアゼット様は金糸の如きロングヘア―を静かに左右に揺らし、気品に満ちたお顔に優雅な笑みを携えられました。

「フィーナ様、わざわざお越しいただき感謝いたします。それでは早速ですけれど…………こちらをお受け取りください」
「は、はい。ありがとうございます」

 品と可愛らしさが両立した、ピンク色のリボンがかけられた小さな箱。「よかったら開けてくださいまし」と仰られたので、ゆっくりと開封してみると――。
 蓋の下からは、ヒマワリのブローチが現れました。

「改めて、ご婚約おめでとうございます。こちらは、わたくしから仲間への――生徒会メンバーへのお祝いですわ」

 私はおよそ1年の交際を経て、今から1か月前に同じクラスの――3年B組に籍を置く、ハランテワ伯爵家の嫡男ジョルジュ様と婚約を結びました。
 そして私は現在アゼット様が会長を務める第177期生徒会で書記を務めており、そういった御縁でご用意オーダーしてくださっていたそうです。

「アゼット様……。痛み入ります。一生涯、大切にいたします」
「うふふ、気に入っていただけてよかった。わたくしも嬉しいですわ――? あら?」

 嬉しそうに微笑んでくださっていた、アゼット様の動きがふと止まる。細まっていたブルーの瞳が急に少しばかり大きくなり、肩越しにご自身の背中を見やるようになりました。

「アゼット様? どうかなされましたか?」
「なんだか急に、背中に違和感が表れましたの。こちら…………背の中央を、一度だけ両手で軽く叩いてみてくださいまし」
「両手で、ですね? 承知いたし――え?」
「……え? フィーナ様? どうされましたの?」
「ぁ、いえ、なんでもありません。承知いたしました」

 箱を一旦脇に置いて、言われた通りの動作を行ってみました。そうすれば程なく、「ありがとうございましたわ」というお言葉が返ってきて――

 ニヤリ

 向き直られたアゼット様のお顔には、悪意に満ちた薄笑いが浮かび上がったのでした。




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