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プロローグ フィーナ視点(2)
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「ふふふ、ふふふふふ。今の『ありがとう』は、『お願いを聞いてくれてありがとう』ではないんですの。『指紋をつけてくれてありがとう』、なんですのよ」
普段のお顔とは、まるで違うソレ。別人だと思ってしまうほどの邪悪な笑みを浮かべられたアゼット様は、ご自身の背部を一瞥された。
「私の、指紋……。そのようなものを取って、なにをなさるおつもりなのですか……?」
「婚約者であるジョルジュ様は人気者で、実はずっと『最愛の人を誰に奪われるのではないか?』と危惧しついには被害妄想を抱くようになっていたフィーナ。その結果自分へのプレゼントにはジョルジュ様への点数稼ぎという意図があると思い込み、激昂して相手を階段から突き落としてしまった。……こんな風にしようと、考えていますのよ」
今回こうして人気(ひとけ)がない場所で待ち合わせをしたのも、ヒマワリのブローチを用意したのも、すべてはそちらを実現するため。アゼット様に祝福してくださる気持ちは、微塵もありませんでした。
「……貴方様は、どうして……。そのようなことをなさるのですか……?」
「わたくしが、こうする理由。それは――この場で説明してあげるつもりだったけれど、残念。時間切れですわ」
アゼット様は懐中時計を取り出し、はぁと嘆息しました。
「貴方が遅れてきたせいで、もうすぐ音楽室を利用する生徒が来てしまいますわ。そのやり取りを聞かれてしまったら、台無しになってしまいますものね。そこは省かせてもらいますわ」
「……………………」
「とにかくわたくしは貴方を加害者にして、自分を被害者にしようとしていますの。そのためには尤もらしい証拠が必要で、それが『制服の背部に両手の指紋がべったりと付着している』なんですのよ」
普通に生活していたらまず、そんな部分にそのような形でつきはしません。確かに、大きな意味を持つものとなりますね。
「わたくしの家は侯爵家で、そちらは子爵家。貴方にこの件をもみ消すだけの力はない」
「……そう、ですね」
「なのでこれとあの言い分があれば少なくとも、退学には持っていける。わたくしがこんな話をした証拠は残らないけれど、指紋はしっかりと残っているから――。貴方をやっと、この学院から消せますわ」
クスリ――。しっかりと嘲笑を浮かべたアゼット様は踵を返し、踊り場の端に――階段の手前に、移動を行いました。
「さぁて。わたくしがここからこの体勢で転げ落ちたら、罪の捏造が完成しますわ」
「…………アゼット様、おやめください。そちらを実行された場合は、大変なことになってしまいます」
「うふふ。大変なことになるのは、貴方の方ですわよ?」
「………………アゼット様。今ならまだ、取り返しがつきます。やり直せます。こういったやり取りはなかったことに致しますので、どうかおやめくだ――」
「懇願ではなく、偉そうに命令してくるだなんて。あの方と結婚できると思って調子に乗っているんですのねぇ。ああ不愉快、ますます嫌いになりましたわ」
私の訴えは刺々しい声音に遮られ、冷たく攻撃的な視線による睥睨がやってきました。
……そう、なのですね。でしたら、仕方がありませんね。
「だから、会話はもう終わり。……貴方のせいで実際に痛い思いをするのは腹立たしいけれど、一石二鳥なのだからよしとしましょうか」
正しい状況を把握されていないアゼット様は私を鼻で嗤い、そのあと上機嫌で前方へと身体を倒してゆきます。そうして――
「きゃあああああああああああああああああああああああ!?」
――離れた場所にもしっかりと聞こえるよう大きな大きな悲鳴を上げ、派手に階段を転げ落ちていったのでした。
普段のお顔とは、まるで違うソレ。別人だと思ってしまうほどの邪悪な笑みを浮かべられたアゼット様は、ご自身の背部を一瞥された。
「私の、指紋……。そのようなものを取って、なにをなさるおつもりなのですか……?」
「婚約者であるジョルジュ様は人気者で、実はずっと『最愛の人を誰に奪われるのではないか?』と危惧しついには被害妄想を抱くようになっていたフィーナ。その結果自分へのプレゼントにはジョルジュ様への点数稼ぎという意図があると思い込み、激昂して相手を階段から突き落としてしまった。……こんな風にしようと、考えていますのよ」
今回こうして人気(ひとけ)がない場所で待ち合わせをしたのも、ヒマワリのブローチを用意したのも、すべてはそちらを実現するため。アゼット様に祝福してくださる気持ちは、微塵もありませんでした。
「……貴方様は、どうして……。そのようなことをなさるのですか……?」
「わたくしが、こうする理由。それは――この場で説明してあげるつもりだったけれど、残念。時間切れですわ」
アゼット様は懐中時計を取り出し、はぁと嘆息しました。
「貴方が遅れてきたせいで、もうすぐ音楽室を利用する生徒が来てしまいますわ。そのやり取りを聞かれてしまったら、台無しになってしまいますものね。そこは省かせてもらいますわ」
「……………………」
「とにかくわたくしは貴方を加害者にして、自分を被害者にしようとしていますの。そのためには尤もらしい証拠が必要で、それが『制服の背部に両手の指紋がべったりと付着している』なんですのよ」
普通に生活していたらまず、そんな部分にそのような形でつきはしません。確かに、大きな意味を持つものとなりますね。
「わたくしの家は侯爵家で、そちらは子爵家。貴方にこの件をもみ消すだけの力はない」
「……そう、ですね」
「なのでこれとあの言い分があれば少なくとも、退学には持っていける。わたくしがこんな話をした証拠は残らないけれど、指紋はしっかりと残っているから――。貴方をやっと、この学院から消せますわ」
クスリ――。しっかりと嘲笑を浮かべたアゼット様は踵を返し、踊り場の端に――階段の手前に、移動を行いました。
「さぁて。わたくしがここからこの体勢で転げ落ちたら、罪の捏造が完成しますわ」
「…………アゼット様、おやめください。そちらを実行された場合は、大変なことになってしまいます」
「うふふ。大変なことになるのは、貴方の方ですわよ?」
「………………アゼット様。今ならまだ、取り返しがつきます。やり直せます。こういったやり取りはなかったことに致しますので、どうかおやめくだ――」
「懇願ではなく、偉そうに命令してくるだなんて。あの方と結婚できると思って調子に乗っているんですのねぇ。ああ不愉快、ますます嫌いになりましたわ」
私の訴えは刺々しい声音に遮られ、冷たく攻撃的な視線による睥睨がやってきました。
……そう、なのですね。でしたら、仕方がありませんね。
「だから、会話はもう終わり。……貴方のせいで実際に痛い思いをするのは腹立たしいけれど、一石二鳥なのだからよしとしましょうか」
正しい状況を把握されていないアゼット様は私を鼻で嗤い、そのあと上機嫌で前方へと身体を倒してゆきます。そうして――
「きゃあああああああああああああああああああああああ!?」
――離れた場所にもしっかりと聞こえるよう大きな大きな悲鳴を上げ、派手に階段を転げ落ちていったのでした。
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