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21:祓い師
しおりを挟む葵衣と話をした俺と柚梨は、その足で集合場所まで移動をすることにした。
気を逸らせるような話題も思い浮かばずに、道中は何も話さずにいたのだが。
不安げな柚梨の手は、ずっと俺のコートの裾を握っていた。
「樹、柚梨ちゃん、こっち!」
待ち合わせ場所に指定されたのは、俺たちが最初に出会ったカフェだった。
先に到着していた葵衣が声を掛けてきたので、店員に待ち合わせであることを伝えて、そちらの席へと足を向ける。
今日の葵衣は、制服を身に着けていた。
「お前……そういえば学校は?」
「抜けてきたわよ。授業受けてる場合じゃないでしょ」
「いや、そうだけど……」
「とりあえず、いいから座れや」
俺と柚梨もサボりなので人のことは言えないのだが、葵衣はまだ高校生だ。
こんな風に授業を抜けさせていいものかと思ったが、彼女の隣に座る丈介は特にそれを気にした様子もなく、俺たちに席につくよう促した。
「アンタに心配されなくたって、少し休んだくらいで成績が落ちるようなバカな頭はしてないから」
「ごめんね、葵衣ちゃん。こんな風に巻き込んじゃって……」
「柚梨ちゃんは気にしなくていいの! っていうか、巻き込まれたわけじゃなくて、アタシにだって関係あるんだからね」
申し訳なさそうにする柚梨に、彼女のせいではないのだとフォローを入れた葵衣は、こちらにメニュー表を押し付けてくる。
ひとまず飲み物を注文すると、俺たちは買い替えたばかりのスマホを二人に見せた。
「ホントだ、アプリ入ってる……」
「本当に、オメェらがインストールしたわけじゃねえんだよな?」
「はい。設定しようと思って電源を入れたら、もうこの状態でした」
信じられないのも無理はないが、俺たちだって目を疑ったのだ。
試しにアプリを起動してみると、すでにログインされた状態となっていて、自分の入力した会員情報を見ることができるようになっている。
データの引き継ぎをしたのであればまだしも、アプリに紐づけされるような情報は何もないのだ。
「身代わり人形もダメ、スマホを壊してもダメ。……一筋縄じゃいかないっていうのはわかってたけど、しつこすぎるでしょ」
「スマホを持たずに一生過ごすって手もあるかもしれないけど……現実的じゃないよな」
これは俺の予想でしかないのだが、スマホを手放せば良いのなら、ガラケーを使い続ければいい。
けれど、ガラケーだっていつかは無くなる。
それに、スマホを手放したところで、このアプリはパソコンやその他の電子機器を介して、俺たちに近づこうとしてくるような気がしてならないのだ。
やはりどうにかして、根本的な原因を解決する必要がある。
「人形での身代わりがダメなら、他の人間を身代わりにするっつー手もあるがな」
「ちょ、丈介さん……!? 何言ってるんですか!?」
「たとえばの話だよ。人形を使ったとき、一時的にとはいえ逃れることができたんだ。それが本物の人間だったなら、正式な身代わりになるんじゃねーかと思ったんだよ」
確かに、丈介の言うことも一理あるのかもしれない。
身代わり人形で祝言を挙げた時、怪異は俺たちの前からその姿を消したのだ。間違いなく、効果はあったと言っていい。
それならば、その身代わりが生身の人間であったとしたら……彼の言う通り、怪異は満足してくれるのかもしれない。
「そんなのダメです……!」
ほんの一瞬、揺らぎかけた俺の思考を現実に引き戻したのは、柚梨の声だった。
この状況から一番逃げ出したいであろう彼女が、気丈にもひとつの案を否定していた。
「私が助かるために、他の人を犠牲にするってことですよね? そんなの、絶対にダメです……死にたくないけど、そんな手段を使ってまで、生きたいとは思いません」
「柚梨……」
ほんの僅かでも、身代わりの案を検討すべきかもしれない。そんな風に考えた自分が恥ずかしかった。
柚梨は誰かを犠牲にして、自分が助かって喜ぶような人間じゃない。そうなるくらいならむしろ、自分から怪異に身を捧げるような奴だ。
だからこそ、俺は柚梨を守りたいと思ったのだから。
「悪い、オレも実際にそんなことやろうと思ってねェよ。第一、誰を身代わりに連れてくんだって話だしな」
「いえ、私もムキになってしまってごめんなさい……」
肩を竦めて見せた丈介は、それ以上身代わりの話を続けるつもりはないらしい。
柚梨の謝罪をもって、この話題は終わりとなった。
「なあ、葵衣が言ってたお祓いって……?」
今日はそれを聞くためにこの場所に来たようなものなのだ。身代わりの話に心を揺らがせている場合ではない。
運ばれてきたカップが並べられている間、葵衣は自身のスマホを何やら操作していた。
「アタシも、調べただけだから確実かどうかはわからない。だけど、祓い師をやってるって有名な人がいるって、聞いたことがあったんだ」
「祓い師?」
「悪霊とか、そういうのを祓ってくれるんだって。謝礼はそれなりに必要になるけど、ネットじゃ有名な人みたい」
そう言って見せられたのは、あるホームページだった。
真っ黒な背景に赤い文字で『祓い師・呪離安凪の館』と書かれている。
その周りには、『驚異の依頼達成率!』『お困りの方は即日ご連絡を』などといった文言も記載されていた。
「祓い師、のろ、り……?」
「ジュリアンナ! ハンドルネームみたいなもんでしょ。ホラ、この人」
葵衣が指差した先には、ゴテゴテとした宝石で着飾った、濃い化粧の派手な女性が映っていた。
恰幅のいいこの写真の女性が、恐らく呪離安凪なのだろう。
「……何か、胡散臭くないか?」
「…………」
俺だけではない。間違いなく、この場にいる全員がそう思っていたのだろう。
だが、他に案があるかと問われれば、俺も口を閉ざすしかなくなる。
「見た目は確かに胡散臭いけど、人は見かけによらないかもしれないでしょ! 丈介を見なさいよ!」
「オメェはナチュラルに失礼だな」
失礼だとは思ったが、確かに丈介さんに対する印象も、初対面から随分変わったのは否定できない。
この呪離安凪という女性も、胡散臭さは全開だ。
だが、実際に彼女に依頼をした人から、評価を受けていることも間違いないらしい。
どれほど怪しい人物だったとしても、この怪異から逃れる方法があるのなら、試してみる価値はあるのかもしれない。
「連絡、取ってみようか」
「そうだね。まずは会ってみないと、どんな人かもわからないし」
柚梨もそれを嫌がる様子はなかったので、俺は早速ホームページに記載されている番号に電話をかけてみることにした。
一度店の外に出て電話をすると、対応をしてくれたのは男性だった。
恐らく、呪離安凪のところで働いている、事務員か何かなのだろう。
人気がある人物なら待たされる可能性もあると思ったのだが、意外にもすんなりと予約を取ることができた。
「今日にでも来てくれていいって」
「マジ!? ならグズグズしてらんない、さっさと行くわよ!」
驚きはしたものの決断が早い葵衣は、飲みかけのカップもそのままに立ち上がる。
俺たちもそれに続いて会計を済ませると、店を出て丈介が駐車場に停めていた車へと乗り込んだ。
呪離安凪の指定した場所は、隣の県だ。車でなら、二時間も走れば到着する距離だった。
「……柚梨、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。お祓い、上手くいってくれるといいね」
「そうだな」
後部座席に座った俺は、隣に座る柚梨の顔色を窺う。
平気なふりをしているが、実際は昨日までの恐怖が蘇ってきているのだろう。
このお祓いが上手くいくことを願いながら、俺たちは車が現地に到着するのを待った。
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