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未来が想像できない
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100 未来が想像できない
「フェルちゃん。またそこの目を飛ばしているわ。もう一度そこからやり直しなさい」
エリママが私に優しく声をかける。
1日おきにこうしてエリママのところに押しかけて編み物を習っている。
私は今ケイに贈るマフラーを作っている。毛糸は私が選んだ物だ。
エリママはお揃いの色がいいと言ったが、少し気恥ずかしかったので、私のマフラーとは違う色にした。
最初に出来上がった私のマフラーは、今エリママが手直ししてくれている。
とにかく最初は最後まで編み上げるのが大事だと、エリママは多少の失敗も無視して完成させることにとにかく集中させた。
完成したものは私にしてみたらみすぼらしい物だったが、エリママは私の頭を撫でて褒めてくれた。
そしてエリママの手が入ると、私のマフラーはきちんと店で買える商品のような状態になっていくのだ。
「多少の失敗なんて後でなんとかなることが多いわ。気にせず前に進んでいきなさい」
エリママはそう言って柔らかく微笑む。
私もこんな魅力的な女性になれるだろうか?そう聞くたびにエリママは、ケイくんのことをいっぱい好きになりなさいと言う。私はその度に顔を赤くしてしまうのだが。
エリママが指摘するところを直すと、途端に仕上がりが良くなる。まあ間違っていたのだから当然かもしれないが、エリママがいなければここまで完成度の高いものは作れなかっただろう。
「もうそろそろ完成ねー。新年の贈り物には間に合うと思うわー」
8割くらい編み上がった私のマフラーを見てエリママが言う。
「今日はケイがエリママたちの分もお弁当を作ってくれたのだ。ゼランド氏も呼んで一緒に昼食はどうだろうか?」
「まあ!それは楽しみね。それなら今日はうちで食べましょう。夫も声をかければすぐ来ると思うわ」
ゼランド氏の屋敷は中央区の北側。店から馬車で10分も行かない場所にある。
貴族街の端、比較的大きめの屋敷が並ぶなか、周りと比べて少しだけ質素な、派手すぎないけれど趣味のいい可愛い屋敷がゼランド氏とエリママの家だ。
少しだけ実家の屋敷に似ていた。私の家も派手に飾ることはなく、落ち着いた雰囲気のする家だった。
ゼランド氏は私たちが屋敷に行くと伝えると、すぐに馬車に乗り込んできた。
そんなゼランド氏にエリママはニコニコしながらお礼を言っている。
私の持って来たお弁当箱は、料理長によって温められて食卓に運ばれて来た。おにぎりも同じように、少しだけ温めてもらった。
お弁当箱をワクワクしながら開けると、このところ毎日入っていたオムレツの姿がなかった。今の時期に採れる野菜が色鮮やかに並ぶ。これはオーク肉の生姜焼きだろうか?今日の主役となるおかずはこれらしい。
最近よく入っているピクルスも、とても美味しそうだ。
だが、オムレツは入っていない。
オムレツがないことに少しがっかりしたが、おにぎりの包みを開けてみて私は驚いた。
「これは、オムライスではないか!」
そう思わず声に出してしまった私を2人が不思議そうに見る。
「どうしたのフェルちゃん。あら?これはいつものおにぎりとは違うみたいだけど……」
「これは私が好きな料理をおにぎりにしたものだ。オムライスとケイは言っていたが、普段はけちゃっぷで味付けされたお米を薄く焼いたタマゴで包んだものなのだが、まさかおにぎりにするとは思わなかった」
すぐに食べたい気持ちを抑えて、食前の祈りを捧げる。
そしてまずはこの黄色いタマゴで包まれた今日のおにぎりに齧り付く。
ああ。オムライスだ。私が食べたいと思ったのがなぜわかったのか。
「あら?これとっても美味しいじゃない。これだけでもう完成した料理だわ」
「これは……すごいな。こんな料理は私も初めて食べた。君、悪いがちょっと料理長を呼んでくれないか?実際に彼らに食べてみて欲しいんだ」
しばらくして料理長と他数名の料理人達がやってくる。オムライスのおにぎりの一つをナイフで小分けにして試食会が始まる。
だが私はその様子などどうでも良かった。ケイの作ってくれたオムライスのおにぎりに夢中だったからだ。
そしてお弁当はあっという間になくなり、少し寂しくなったが、エリママの淹れてくれたお茶が美味しくて、私の心は少しだけ慰められた。
「お米って美味しいのねー。今度陛下、じゃなかった、兄にも教えてあげたいわー。こんな美味しいタマゴ料理なら毎日でも食べたいわ。あー、もうケイくんもフェルちゃんも、うちの子になりなさい。あなたケイくん達の住むところを探しているのだったわよね。この家に2人で住んで貰えばいいのよ。ねえ、フェルちゃんそうしなさい」
そう言われても私は困る。ケイはそういう貴族のような人たちに囲われる暮らしは好きではないだろう。むしろそういうものから必死で逃げている気がする。
私はエリママの提案を断った。
「あー、フェルさん。後でケイくんに伝えてくれないか?」
ゼランド氏は少し顔を赤らめながら、オムライスの作り方をできるなら屋敷の料理人に作り方を教えて欲しいこと、それと、明日の仕事が終わったら2人で商会に来て欲しいということを私に伝えて来た。
ケイが頼んだ物の試作品が完成したらしい。部屋の件はまだ待って欲しいそうだ。物件を今探している最中だが、あまり上手く行ってないらしい。
「……ゼランドさん。その……私からも部屋の条件を追加でお願いすることは可能だろうか?」
「フェルさん。なんでも構わないよ。2人で住む家だろう?君の意見も大切だ」
「その……ケイは広い台所があったほうが嬉しいと思うのだ。私は部屋が狭くても構わないと思っている。……むしろ狭いほうがいい。だが、厨房というほどではないが、料理を作る広めの場所があればケイは喜ぶと思う。その……できればそういう物件が良いのだが……」
「あらー。フェルちゃん。狭くてもいいだなんて、わかるわー。うちの寝室もよそと比べたらかなり狭いんだから。そうよね。そのほうが良いのよ。ねえあなた。西区の方にうちの倉庫があるじゃない。そこにケイくん達の家を建てて住んでもらうっていうのはどう?確か休憩所にしてる小さな建物があったわよね。警備の人が使ってる。あそこを改装したら良いじゃない。そしてケイくんとフェルちゃんに倉庫の夜間の警備を任せることにすれば良いわ。それで家賃も安くしてあげて……」
ゼランド氏ははじめ驚いた顔をしていたが、少し考えてから笑顔になる。
「なるほど。ケイくんにあった物件を探すより作ってしまえばいいのか。エリー、それは良い考えだね。さっそくライツに連絡を取ることにしよう」
「そうなると家具も私たちで揃えてあげるべきだわ。でもケイくんそういうのはあまり好きじゃなさそうじゃない。あなたガンツにも相談して?どこまで揃えたら良いか、加減が難しいと思うの」
ゼランド氏とエリママの話がどんどん盛り上がっていき、すっかり私は蚊帳の外になる。
美味しい紅茶をいただきながら、私はこの先のケイとの暮らしのことを想ったが、これから先の、ケイとの未来が上手く想像ができなかった。
夕方、ガンツのところでケイに贈る物を注文した。ガンツはワシにも半額ださせろと言って、喜んで引き受けてくれた。帰り際ガンツは、最高のものを作るからなと言ってくれた。
月の光に照らされた王都を歩き、ケイの働く店に向かっていた時、私はなぜケイとの未来が想像できなかったのかがわかった。
私は今、人生で1番幸せなのだ。
これ以上の暮らしは、今の私には想像できなかった。
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作者の今後の励みになりますのでどうぞよろしくお願いいたします。
続きが気になる!
もしそう思っていただけたのならカクヨム様で検索してみてください。
そちらの方が更新が早いです。
今後とも「フェル」のこと。よろしくお願い致します。
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エリママはお揃いの色がいいと言ったが、少し気恥ずかしかったので、私のマフラーとは違う色にした。
最初に出来上がった私のマフラーは、今エリママが手直ししてくれている。
とにかく最初は最後まで編み上げるのが大事だと、エリママは多少の失敗も無視して完成させることにとにかく集中させた。
完成したものは私にしてみたらみすぼらしい物だったが、エリママは私の頭を撫でて褒めてくれた。
そしてエリママの手が入ると、私のマフラーはきちんと店で買える商品のような状態になっていくのだ。
「多少の失敗なんて後でなんとかなることが多いわ。気にせず前に進んでいきなさい」
エリママはそう言って柔らかく微笑む。
私もこんな魅力的な女性になれるだろうか?そう聞くたびにエリママは、ケイくんのことをいっぱい好きになりなさいと言う。私はその度に顔を赤くしてしまうのだが。
エリママが指摘するところを直すと、途端に仕上がりが良くなる。まあ間違っていたのだから当然かもしれないが、エリママがいなければここまで完成度の高いものは作れなかっただろう。
「もうそろそろ完成ねー。新年の贈り物には間に合うと思うわー」
8割くらい編み上がった私のマフラーを見てエリママが言う。
「今日はケイがエリママたちの分もお弁当を作ってくれたのだ。ゼランド氏も呼んで一緒に昼食はどうだろうか?」
「まあ!それは楽しみね。それなら今日はうちで食べましょう。夫も声をかければすぐ来ると思うわ」
ゼランド氏の屋敷は中央区の北側。店から馬車で10分も行かない場所にある。
貴族街の端、比較的大きめの屋敷が並ぶなか、周りと比べて少しだけ質素な、派手すぎないけれど趣味のいい可愛い屋敷がゼランド氏とエリママの家だ。
少しだけ実家の屋敷に似ていた。私の家も派手に飾ることはなく、落ち着いた雰囲気のする家だった。
ゼランド氏は私たちが屋敷に行くと伝えると、すぐに馬車に乗り込んできた。
そんなゼランド氏にエリママはニコニコしながらお礼を言っている。
私の持って来たお弁当箱は、料理長によって温められて食卓に運ばれて来た。おにぎりも同じように、少しだけ温めてもらった。
お弁当箱をワクワクしながら開けると、このところ毎日入っていたオムレツの姿がなかった。今の時期に採れる野菜が色鮮やかに並ぶ。これはオーク肉の生姜焼きだろうか?今日の主役となるおかずはこれらしい。
最近よく入っているピクルスも、とても美味しそうだ。
だが、オムレツは入っていない。
オムレツがないことに少しがっかりしたが、おにぎりの包みを開けてみて私は驚いた。
「これは、オムライスではないか!」
そう思わず声に出してしまった私を2人が不思議そうに見る。
「どうしたのフェルちゃん。あら?これはいつものおにぎりとは違うみたいだけど……」
「これは私が好きな料理をおにぎりにしたものだ。オムライスとケイは言っていたが、普段はけちゃっぷで味付けされたお米を薄く焼いたタマゴで包んだものなのだが、まさかおにぎりにするとは思わなかった」
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しばらくして料理長と他数名の料理人達がやってくる。オムライスのおにぎりの一つをナイフで小分けにして試食会が始まる。
だが私はその様子などどうでも良かった。ケイの作ってくれたオムライスのおにぎりに夢中だったからだ。
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夕方、ガンツのところでケイに贈る物を注文した。ガンツはワシにも半額ださせろと言って、喜んで引き受けてくれた。帰り際ガンツは、最高のものを作るからなと言ってくれた。
月の光に照らされた王都を歩き、ケイの働く店に向かっていた時、私はなぜケイとの未来が想像できなかったのかがわかった。
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