冷遇王子を匿ったらまさかのアレがついてきた

すずね

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第1話 2

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 広間には、大勢の招待客が集まっている。
 湯浴みと着替えを済ませたエリアスは、時間ぎりぎりで会場に到着した。

 式典では、最初にサムエルから挨拶があり、王からの祝辞を代理の者が読み上げる。
 代理の少年は黒髪黒目でやや黄みがかった肌の色をしていた。
 日本人の様な容貌に一瞬だけ懐かしい気持ちになったが、すぐにその感情は頭の隅に追いやられた。
 その後は、貴族達から祝いの言葉を受け、それに対し感謝の言葉を定型文で返すという退屈な儀式が続いた。
 でも良いのだ。それくらいは耐えられる。
 エリアスにとっての最優先事項は式典後の食事なのだから。

 退屈な時間が終わり、やっとお待ちかねの正餐会となる。
 一番大きな広間に移動して招待客が席に着いた頃、エリアス達も結婚式の高砂のような席に着く。
 早くも美味しそうな匂いが広間中に満ちており、招待客もどこかそわそわしているようだ。
 食前酒が配られ、サムエルがグラスを持って立ち上がる。
「我が息子、エリアスが、皆様に喜んでいただけるよう何か月も前から考えておりました特別なメニューです。今、我が領地で一番美味いものと珍しいものを用意しました。皆様存分に飲んで食べて、楽しんでください」
 皆グラスを掲げ、エリアスの誕生日を祝った。
「武力と土いじりしか能のない野蛮な田舎貴族が、どんなもてなしをしてくれるのやら」
 ひそひそ話がどこからか聞こえてきた。
 グラナート家を田舎者と貶めようとする者達がいるのは知っている。
 だが、エリアスは気にしない。
 この世界、力が無くては生きていけないし、農耕でこの国を支えていることも誇りに思っている。
 サムエルがちらりと視線を向けただけで、その声は消えてしまった。

 最初に配られたのは前菜盛り合わせのプレートだった。
 新鮮な野菜のマリネや蒸し煮に手製マヨネーズを活用したソース、テリーヌやキッシュ、燻製した肉とチーズが大きな皿に少しずつ乗っている。
 カラフルなソースや食用花、ハーブなどで飾り付け、1枚の絵画のように仕上げてもらった。
 手間はかかるが目で見ても美しい。
 また、これらのいくつかは、王都から採用した料理人も知らない料理だから、多くの人に珍しさと美味しさを楽しんでもらえるはずだ。
 パンは最近流行りの柔らかい白パンだけでなく、クロワッサンと全粒粉パンも用意した。
 クロワッサンはこの世にまだ存在していないようなので、皆の興味を引くはずだ。
 全粒粉パンは麦の香ばしさが味わえるのでエリアスのお気に入りだ。
 スープは、芳醇な風味だがあっさりしていて何杯でも飲めそうなコンソメスープ。
 白身魚のポワレには、定番のバターソースのほかに、最近やっと手に入れた醤油ベースのオニオンソースを小皿に入れて添えた。
 肉料理はローストビーフ。
 こちらのソースも定番のほかに醤油味のソースを添えてみた。
 ゆっくりと味わったり、気に入ってお代わりを求めたり、恐る恐る口に入れている者もいたが、おおむね満足しているようだ。
 誰よりも先に、エリアスの家族がおいしそうにもりもり食べている。
「んまーい♡」
 ついつい満面の笑みになってしまう。
(美味しいって幸せだ。大好きな家族と美味しいご飯を食べて、自分がいいと思ったものをお客さん達が美味しいって喜んでくれて、これ以上の幸せはないよなぁ)

 皆、満足そうにしているが、次はエリアスの一番のサプライズ、デザートの時間である。
 侍女に目配せをしたら、サッと使用人達が動き出す。
 キンキンに冷やしてもすぐに溶けてしまうものだから、食事が終わった席から順に一気に配膳をする。
 エリアス達の席にも、アイスクリームと紅茶が用意された。
「はぁ~たまらん」
 スプーンを咥えたまま両手で包む。
「こら、お行儀が悪いぞ」
 ラウラに睨まれた。
「エヘ」
 愛嬌のある笑みを浮かべれば、弟に弱い姉の頬も緩んでしまう。

 皆の反応はどうかと見てみれば、こそこそと文句を言っていた敵対派閥の貴族達も黙々と残さず食べており、持ち帰り用にクロワッサンを包ませている。
 そして極めつけはお土産の焼き菓子セットだ。
 小豆のバターケーキと胡麻のクッキーをメインに、それぞれプレーンとナッツ入りも詰め合わせにした。
 抹茶パウンドケーキが美味しくできたのでお土産にするつもりだったが、甘さを求めるお菓子に対して甘さ控えめの配慮は今世では求められていないようで、家族全員と厨房スタッフに反対されてしまった。
 バターケーキは日持ちするものではあるが、連日の猛暑から風味が落ちる可能性があるので早めに食べてもらい、クッキーは長持ちするが、こちらもなるべく日陰で保管するよう伝え、大満足の様子の招待客を見送った。

 本当はもっと色々とやりたかったのだが、やりすぎて注目をされると危険だからほどほどにとサムエルから釘を刺され、多少は自制したつもりだ。
 お土産の焼き菓子も、特別に取り寄せた材料なので販売はできないと、あらかじめ伝えておいた。
 だが、この調子であれば、量産が可能になったら相当な売り上げが期待できるだろう。
(父上に、我が家お抱えの商会を呼んでもらうか……)

 エリアスは昼間は駆け回り、式典では行儀よく振舞い、食事は楽しかったが客の反応を観察し続けていたのですっかり疲れてしまい、客を見送った途端に電池切れで眠り込んでしまった。
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