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35.記憶の彼方
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キースが王都を離れてから、二年が経った。
その間、彼はシャーロットはもちろん、兄のアルバートにさえも連絡を寄越さず、音信不通だった。
もう自分には手紙を貰うような資格も無いが、騎士になったというキースは、息災にしているだろうかと、時折シャーロットは思った。
◇
そんなある日、彼女はアルバートから、キースが帰ってきたという連絡を受けた。
手紙の内容には、とにかく彼に会ってほしいから来るように、という事だけしか書かれていない。
アルバートは手紙になると、いつも肝心な部分を端折ってしまう癖があるらしい。
彼がキースの推薦状を書いてくれた時のことを思い出したシャーロットは、小さく笑った。
シャーロットは、今更自分がキースに会いに行っても良いのだろうかと疑問に感じつつも、理由が何であれキースの顔を一目でも見られるのならそれで良いと思うことにした。
もしかすると、彼の正式な婚約者が決まったという知らせかもしれない。
その時は、笑顔で祝福できるように努めなくては・・・。
◇
公爵家に向かったシャーロットは、想像もしなかった事実に愕然とした。
任務中に仲間を庇い、高所から落下したというキースは、そのショックから記憶喪失になってしまっていたのだった。
外傷は殆ど完治し、日常生活にも大した支障は無いが、ところどころ記憶が抜け落ちてしまっている状態だという。
アルバートは、キースがシャーロットに会えば失った記憶を取り戻すのではないかと思い、彼女を呼んだのだった。
だが、キースは彼女のことも忘れてしまっていた。
大事をとってベッドに座らされていたキース。
その横に立ったシャーロットの顔を見た彼は言った。
「はじめまして、キース・グレアムと申します」
そして、よそ行きの顔で彼女に微笑みかけた。
可愛らしい弟の顔でもなく、恋に焦がれる男の顔でもない。
シャーロットが知らないキースだった。
まるで初対面にしか思えなかった。
そして、キースはアルバートの方を向いて訊いた。
「・・・兄さん、こちらのご令嬢はどなたですか?」
その問いに、アルバートは何と答えて良いのか言葉を詰まらせた。
その間、彼はシャーロットはもちろん、兄のアルバートにさえも連絡を寄越さず、音信不通だった。
もう自分には手紙を貰うような資格も無いが、騎士になったというキースは、息災にしているだろうかと、時折シャーロットは思った。
◇
そんなある日、彼女はアルバートから、キースが帰ってきたという連絡を受けた。
手紙の内容には、とにかく彼に会ってほしいから来るように、という事だけしか書かれていない。
アルバートは手紙になると、いつも肝心な部分を端折ってしまう癖があるらしい。
彼がキースの推薦状を書いてくれた時のことを思い出したシャーロットは、小さく笑った。
シャーロットは、今更自分がキースに会いに行っても良いのだろうかと疑問に感じつつも、理由が何であれキースの顔を一目でも見られるのならそれで良いと思うことにした。
もしかすると、彼の正式な婚約者が決まったという知らせかもしれない。
その時は、笑顔で祝福できるように努めなくては・・・。
◇
公爵家に向かったシャーロットは、想像もしなかった事実に愕然とした。
任務中に仲間を庇い、高所から落下したというキースは、そのショックから記憶喪失になってしまっていたのだった。
外傷は殆ど完治し、日常生活にも大した支障は無いが、ところどころ記憶が抜け落ちてしまっている状態だという。
アルバートは、キースがシャーロットに会えば失った記憶を取り戻すのではないかと思い、彼女を呼んだのだった。
だが、キースは彼女のことも忘れてしまっていた。
大事をとってベッドに座らされていたキース。
その横に立ったシャーロットの顔を見た彼は言った。
「はじめまして、キース・グレアムと申します」
そして、よそ行きの顔で彼女に微笑みかけた。
可愛らしい弟の顔でもなく、恋に焦がれる男の顔でもない。
シャーロットが知らないキースだった。
まるで初対面にしか思えなかった。
そして、キースはアルバートの方を向いて訊いた。
「・・・兄さん、こちらのご令嬢はどなたですか?」
その問いに、アルバートは何と答えて良いのか言葉を詰まらせた。
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