追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

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第18話 鏡花の告白

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 “偽りの婚礼”が暴かれた翌日、王都は混乱に包まれていた。
 神殿は封鎖され、貴族たちは互いを疑い、
 街の空気には、焦げたような緊張と――かすかなハーブの香りが漂っていた。

 クラリッサは王城の客間で、静かに椅子に腰を下ろしていた。
 「まったく……どこへ行っても、騒ぎばかりですわね」

 彼女の前に現れたのは、黒いマントを羽織ったユージン。
 以前よりもやつれ、瞳の光は鋭く、それでもどこか悲しげだった。

 「……クラリッサ。お前に話さなければならないことがある」
 「“ようやく”ですわね。あの夜、わたくしを追放した真実を――聞かせていただきましょうか」

 窓の外では、風が王城の旗を鳴らしていた。
 その音がまるで“裁き”の鐘のように響く。



 ユージンは手袋を外し、机の上に一枚の古びた書簡を置いた。
 王家の紋章とともに、赤い封蝋。

 「これは……?」
 「お前を追放せよ――それが、王の命令だった」

 クラリッサの瞳が一瞬だけ揺れた。

 「理由は単純だ。ヴァレンティーヌ家の“香技”を、
  王室専属の錬香師に移すためだ。
  お前が“香鏡”の技を継いでいたことを、王は恐れた」

 「……恐れ?」
 「香りは“真実”を暴く。
  王は、国の秘密を嗅ぎ取る者を生かしてはおけないと考えたんだ」

 ユージンは拳を握りしめた。
 「俺は……逆らえなかった。
  もし命令を拒めば、家も、母も失う。
  だから――お前を、守るふりをして追放した」

 沈黙。
 クラリッサは目を閉じ、深く息を吸い込む。
 香りの中に、微かに漂う“後悔”の匂い。

 「……つまり、あなたは“救った”つもりだったのですわね」

 「そうだ。だが結局、何も守れなかった」
 ユージンの声は震えていた。


 クラリッサは席を立ち、ゆっくりと彼の前に歩み寄る。
 懐から小瓶を取り出し、机の上に置いた。

 「“鏡花の香”ですの。
  これを嗅げば、あなたの言葉が真実かどうか、すぐに分かりますわ」

 ユージンは頷き、瓶を開ける。
 黄金の光が淡く広がり、部屋の空気を包み込む。
 その中で、彼の記憶が香りとなって現れた――。

 幼き日のクラリッサ。
 春の庭で、花を摘み、笑う姿。
 その背後で、彼女の父が密かに王家に書簡を送る。

 > “香鏡の術は、王に不利益をもたらす恐れあり。
 > 娘を追放せよ――”

 「……まさか、父上が……」
 「お前の父上は、王に“従った”のだ。
  王家の信用を得るために、娘を差し出した」

 香りが消えると同時に、ユージンの膝が床についた。
 「すべて……俺たちの罪だ。
  クラリッサ、お前は何も悪くなかった」

 沈黙。
 クラリッサの頬を、ひとすじの涙が伝う。
 それは香りよりも儚く、しかし確かに温かい。


 「……あなたの罪を赦すことはできませんわ」
 クラリッサの声は穏やかだった。
 ユージンが顔を上げる。

 「ですが――忘れもしませんの。
  わたくしを追放したその選択が、
  わたくしを“香りの女王”に変えたのですもの」

 扇子を開き、クラリッサは微笑んだ。
 「赦しとは、“価値を奪わないこと”。
  あなたが苦しむ姿を見るよりも、
  わたくしが香りで生きる方が、ずっと痛快ですわ」

 ユージンは苦笑しながらも、目に涙を滲ませた。
 「……やはり、君は強い」
 「図太いだけですわ。――でも、それで十分」

 風が吹き、窓辺のカーテンが揺れた。
 その香りは、過去と未来を結ぶように優しく流れていく。

 「さぁ、殿下。次はわたくしの番ですの。
  王家の偽りを、この香りで洗い流して差し上げますわ」

 “鏡花の香”が再び輝く。
 赦しでも断罪でもない――真実の香り。
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