追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

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誓いの果て

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朝。
 夜の焚き火の跡がまだ残る丘に、クラリッサは静かに立っていた。
 風が吹き、昨日の香り――“誓いの香り”が淡く漂う。
 だが、その香りには、ほんのわずかな違和感があった。

 「……少し、重たすぎますわね」
 クラリッサは扇子で風を仰ぎながら、苦笑する。
 “誓い”という言葉が、こんなにも強く残るものだとは。
 香りは心を映す。
 きっと、昨夜のレオンの想いがそのまま空気に溶け込んだのだろう。

 ――優しさも、痛みも。



 村では、復興が始まっていた。
 倒れた家を立て直す者、焼けた畑を耕す者、そして子どもたちの笑い声。
 クラリッサは袖をまくり、作業の指揮をとっていた。

 「水をもっと北の井戸から運びなさい! ええ、そっちの方が香草に適していますわ!」
 「はいっ、クラリッサ様!」

 村人たちの声には、もう“恐れ”の色はない。
 彼女の“図太さ”は伝染し、村全体が強くなっていた。

 そんな中、レオンが姿を見せる。
 彼はいつもより険しい表情だった。
 「……王都から、伝令が来た」
 「伝令?」
 「“辺境開拓許可の再審議”だ。つまり――この村が正式に王国の支配下に戻るかどうか」

 クラリッサの手が止まる。
 「それは、つまり……」
 「王都が、またお前を“取り戻し”に来るということだ」

 沈黙。
 彼女は小さく笑った。
 「誓いを試すには、少し早すぎますわね」



 夜。
 再び風が強まる。
 村の広場では、人々が小さな焚き火を囲み、笑いながら歌っていた。
 クラリッサは少し離れた場所で、空を見上げる。

 「誓いって、不思議ですわね」
 隣に立つレオンが問い返す。
 「何がだ?」
 「誰かと交わした瞬間から、壊れそうで怖くなるのですもの。
  でも、壊れるのが怖いということは、きっとそれだけ大切ということ」

 レオンは短く頷いた。
 「俺は壊さない。あの約束は、守る」
 「ええ、信じていますわ」

 そう言いながらも、クラリッサの胸の奥には微かなざわめきがあった。
 風の流れが、どこか違う。
 香りの粒子が、別の方向へと引き寄せられている――。



 その夜の終わり、村の外れ。
 月明かりの下、黒い外套の影が立っていた。

 「ここが……ヴァレンティーヌの村か」

 低く響く声。
 その手には、王家の紋章が刻まれた封書が握られていた。
 “辺境監察官 派遣命令”――送り主、セシリア・バートラム。

 「王都の“香りの王国計画”……始めるとしよう」

 冷たい風が吹き、香りが散る。
 それはまるで、誓いの残り香をかき消すように――。



 翌朝。
 クラリッサが目を覚ましたとき、扇子の中の香りが微かに変化していた。
 “誓いの香り”のはずなのに――どこか、不安を孕んだ匂いに。

 「……また、風向きが変わりますわね」
 彼女は立ち上がり、窓の外を見つめる。
 遠くに黒い旗――王都の監察団の影が、ゆっくりと近づいていた。
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