追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

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扇子と剣

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 夜明け前の王都。
 霧が薄く流れ、鐘の音が遠くで鳴る。
 クラリッサは宿の窓辺に立ち、手紙を握りしめていた。
 “辺境ヴァルデン村、反逆の疑いにより査察隊を派遣する”――
 王家の紋章入りの命令書。送り主は、セシリア・バートラム。

 「……予想通りですわね」
 扇子の骨がきしむほどに、クラリッサは強く握りしめた。
 「香りで勝てなければ、“力”で潰す……。本当に、下品な人たち」

 背後から足音がした。
 レオンが、無言のまま剣の鞘を腰に装着している。
 「もう準備してるの?」
 「お前がその顔をした時点で、もう決まりだ」
 「どんな顔?」
 「戦う顔だ」

 クラリッサは微笑んだ。
 「図太くて、気高い顔――ってところですわね」

 レオンが頷く。
 「行こう。村を守る。あの場所は、お前の誇りだろ」
 「ええ。そして、あなたの“贖い”でもありますわ」

 同じ頃。
 辺境のヴァルデン村では、夜明け前の薄闇の中、王都の査察隊が姿を見せていた。
 セシリア直属の傭兵団――“白衣の刃”と呼ばれる私兵組織。
 彼らは火薬と油を積み、無言で村の畑を囲んでいる。

 「命令だ。女と子どもを避難させろ。残りは捕らえる」
 冷酷な指令に、村人たちは震え上がった。
 そのとき――馬の蹄の音が響いた。

 「止まりなさい!」

 風を切って現れたのは、クラリッサとレオン。
 彼女は馬から降り、扇子を高く掲げる。
 「この村は――王都の所有物ではありませんわ!」

 傭兵の一人が嘲るように笑う。
 「誰だ。貴族を気取った田舎女が……」
 「“元”公爵令嬢ですの。田舎女に格下げされたからこそ、よく見えるものがございますの」

 クラリッサは足元の土を一掬いし、扇子で空に撒いた。
 風に舞う粉塵の中に、淡い香りが混じる――初恋草とミント、そして焙煎ハーブ。

 「な、何だこの匂いは……目が……」
 「香りは風を選びますの。正しき者には穏やかに、欲深き者には刃となって届く」

 香りの霧が傭兵たちを包み、隊列が乱れる。
 その隙に、レオンが前へと躍り出た。
 「香りが届くまでの数秒、十分だ!」
 剣が閃き、音もなく二人の傭兵を薙ぎ払う。
 レオンの動きは無駄がなく、まるで風そのもの。

 「あなた、本当に香りの弟子とは思えませんわ」
 「剣で香りを守るのが弟子の仕事だ」
 「それは合格点を差し上げてもいいですわね」

 傭兵団の長が怒号を上げる。
 「退くな! 奴らを捕らえろ!」
 火薬が投げ込まれる――その瞬間、クラリッサは叫んだ。

 「レオン、火を恐れないで! 風を導きますわ!」

 クラリッサの扇子が開かれ、炎の流れが変わる。
 香草の煙と火薬が混ざり、甘く青い炎が広がった。
 それはまるで夜空を切り裂く花のようだった。

 レオンはその光を背に、最後の一撃を放つ。
 刃が月光を受けて輝き、指揮官の剣を叩き落とす。

 「……これ以上、民を巻き込むな」
 レオンの低い声に、男は膝をついた。

 クラリッサはゆっくりと歩み寄り、扇子を閉じる。
 「王都に伝えなさい。“ヴァレンティーヌの誇り”は、香りも剣も奪えませんの」

 戦いのあと、朝日が昇る。
 村人たちが泣きながら抱き合い、香草の畑が淡く光る。
 クラリッサは土に膝をつき、泥を握った。
 「……これが、わたくしの居場所ですのね」

 レオンが隣で静かに言った。
 「扇子と剣。まるで不釣り合いだが――いい組み合わせだ」
 「そうですわね。優雅さと力、どちらが欠けてもこの村は守れませんの」
 クラリッサは微笑み、扇子を空に掲げた。
 「これが、図太く生きるということ。――わたくしの誇りですわ」
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