追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

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再統合会議

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 王宮の大広間――。
 重厚な香炉が四隅に置かれ、香煙がゆらゆらと立ち上っていた。
 円卓の周りには、王家の代行者・貴族代表・学術院長、
 そして“香師顧問”クラリッサ・ヴァレンティーヌの名が刻まれた席が並ぶ。

 扉が開き、クラリッサが静かに入場した。
 淡い群青のドレス、金の刺繍を施した扇子を手に。
 その姿に、ざわめきが広がる。

 「――あれが“辺境の令嬢”か」
 「香りで王国を救った女、と言われているが……」

 クラリッサは、そうした視線を一つも恐れず、
 扇子を軽く開いて空気を整えた。
 「……お香の配合が重すぎますわ。議論の場には清香が必要ですの」

 貴族たちの間に、苦笑とも嘲笑ともつかぬ笑いが漏れる。
 しかし、議長が咳払いをし、会議が始まった。

 ⸻

 「本日の議題――“香りの王国再統合案”について」

 ラザール卿が立ち上がり、王家の代理として口を開いた。
 「王国は再び秩序を必要としている。
  香りの流通、製法、販売、すべてを中央で統制する。
  香りは民の感情を穏やかに保つ“管理装置”として再導入するのが妥当だ」

 その言葉に、一部の貴族たちが頷く。
 しかし、クラリッサは立ち上がり、はっきりと言った。

 「それは誤りですわ」

 沈黙。
 全員の視線が彼女に向けられる。

 「香りは支配の道具ではありませんの。
  人を癒し、導くための“記憶”です。
  もしもそれを再び統制すれば、私たちはまた――あの“香りの牢獄”に戻りますわ」

 ユージンがゆっくりと立ち上がった。
 「君は理想を語る。だが、現実を見ろ。
  民は不安を恐れ、香りの支配を望んでいる。
  混乱を防ぐためには、“均一な幸福”が必要だ」

 クラリッサは真っ直ぐに彼を見た。
 「――それは幸福ではなく、“静かな絶望”ですの」
 ユージンの眉がわずかに動く。
 「……相変わらず、言葉が鋭いな」

 ⸻

 そのとき、ラザール卿が口を挟む。
 「君たち二人の論争は興味深い。
  だが、理想も現実も、証拠なくしては語れん。
  クラリッサ、君は“香りの自由”を証明できるのか?」

 クラリッサは扇子を閉じ、静かに頷いた。
 「ええ。香りは、心を映しますの。
  ならば――皆さまの“心”を、香りでお見せいたしますわ」

 そう言って、机の上に小瓶を置く。
 “誓いの香り”をもとに、再調合した新しい香り――“希望の息吹”。

 彼女が栓を開けた瞬間、空気が揺れた。
 甘く、けれど力強い香りが広がり、
 会議室にいた全員の表情が、一瞬で変わった。

 険しさが和らぎ、記憶の奥にある温かな瞬間が蘇る。
 子どもの笑い声、恋人の微笑み、家族の食卓。
 ――“誰かを想う”という記憶。

 「これが、“自由の香り”ですわ」
 クラリッサの声は穏やかでありながら、確固としていた。
 「心を縛らず、ただ寄り添う香り。
  この香りを“王国の中心”にすれば、人々は自らの手で幸せを選びますの」

 ラザールがゆっくりと息を吐いた。
 「……なるほど。“選ぶ幸福”か」

 ユージンは沈黙していた。
 だが、その目の奥には、微かな笑みと――後悔の色があった。

 ⸻

 数時間後、会議は閉会した。
 “中央集権による香り統制案”は棄却。
 代わりに、“香りの自由流通制度”が採択された。

 王都は再び、自由な香りの風を取り戻した。

 ラザール卿がクラリッサに歩み寄る。
 「君は見事だった。“誇り”の意味を思い出させてもらったよ」
 クラリッサは微笑み、扇子を軽く揺らした。
 「香りは風と同じですわ。
  閉じ込めれば腐りますの。――自由であるから、美しいのです」

 ⸻

 夜。
 レオンが会議の報告を終え、クラリッサのもとに現れる。
 「……また勝ったな」
 「ええ。でも、勝ち負けではありませんの。
  香りを守ることは、心を守ることですもの」

 「そうだな」
 彼は彼女の隣に立ち、夜風を見上げた。
 香りが流れ、星が瞬く。

 クラリッサは扇子を開き、柔らかく微笑んだ。
 「この風がある限り――わたくしたちは何度でも立ち上がれますわ」
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