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沈黙の王冠
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王都に、再び沈黙が訪れた。
それは安らぎではなく、嵐の前の静けさだった。
“香りの自由流通制度”が公布されてから一週間。
街では香草市場が開かれ、人々は久しぶりの穏やかな笑顔を取り戻していた。
だが、その裏で――別の香りが、密やかに広がっていた。
夜の王宮。
薄暗い会議室で、数名の貴族が密談していた。
「クラリッサ・ヴァレンティーヌ……奴は香りで国を支配する気だ」
「自由だと? あれは放任だ。王国は、再び秩序を失う」
「ならば――我々に“新たな王”が必要だ」
そのとき、扉が音もなく開いた。
黒いヴェールをまとった女が入ってくる。
その姿を見て、貴族たちは息を呑んだ。
「……その顔……まさか」
「お久しぶりですわ。
セシリア・バートラム――いいえ、“セシリア二世”とお呼びくださいませ」
ヴェールの下の瞳は、かつてのセシリアと瓜二つ。
だが、その香りはまったく違っていた。
冷たく、甘く、そして――空虚。
「わたくしは、あの方の遺志を継ぐ者。
香りを王家に還し、再びこの国を“正しい秩序”に戻しますわ」
“沈黙の王冠計画”――その夜、密かに動き出した。
一方、王都の高台にて。
クラリッサは夜風に当たりながら、再建された宮殿を見下ろしていた。
扇子を閉じ、深く息を吸う。
「……変な香りですわね」
淡い甘さの中に、違和感。
まるで“心の空洞”を覆い隠すような香り。
そのとき、背後からレオンが現れた。
「気づいたか。王都の南区で異常な香気が観測された。
香料の配合が……誰かに似ている」
クラリッサの表情が険しくなる。
「まさか、“セシリア”の再現?」
「ああ。名義は“セシリア・バートラム二世”。だが正体は不明だ」
クラリッサは静かに微笑んだ。
「また“偽り”が現れたのですのね。
でも、もう二度と負けませんわ。
わたくしの香りは、真実でできていますもの」
翌朝。
王都の中央広場に、人々が集まっていた。
壇上には白衣の女性が立ち、透明な香炉を掲げる。
「――この香りこそ、王の証。
秩序をもたらす聖なる香気、“王冠の息吹”!」
香りが広がり、人々が陶酔したように跪く。
レオンがその様子を見て叫んだ。
「クラリッサ、危険だ! あの香り、精神誘導成分が含まれている!」
クラリッサは扇子を広げ、香りの風を打ち払った。
「――風は奪わせませんの!」
彼女の香りが拮抗する。
“誓いの香り”と“王冠の香り”――二つの風が激しくぶつかり合い、空気が震える。
群衆の間に、戸惑いの声が広がる。
「これは……何だ……?」
「どっちが……本物の香りだ……?」
クラリッサは一歩前に出た。
「皆さま、香りは人を縛るためのものではありません!
どうか――ご自身の“心の香り”を思い出してくださいませ!」
その瞬間、風が変わった。
人々の胸の奥に残っていた記憶――母の手の香り、恋人の微笑み、幼い日の草原の匂い。
それらが次々と蘇る。
“王冠の香り”が崩れ、群衆が立ち上がる。
セシリア二世は後ずさり、香炉を落とした。
「なぜ……なぜ人々が逆らうの!?」
クラリッサは静かに微笑む。
「あなたの香りには、“命”がありませんの。
だから――風が味方しませんのよ」
戦いのあと、広場には静けさが戻った。
クラリッサは壊れた香炉を拾い上げ、囁く。
「……セシリア。あなたの名前は、風の中で眠らせますわ」
レオンが隣で頷く。
「終わったか?」
「いいえ。風が止まらない限り、終わりはありませんの」
彼女は扇子を閉じ、空を見上げた。
朝日が昇り、香りが風に溶けていく。
“沈黙の王冠”は崩れ去り、再び自由の香りが街を包んだ。
それは安らぎではなく、嵐の前の静けさだった。
“香りの自由流通制度”が公布されてから一週間。
街では香草市場が開かれ、人々は久しぶりの穏やかな笑顔を取り戻していた。
だが、その裏で――別の香りが、密やかに広がっていた。
夜の王宮。
薄暗い会議室で、数名の貴族が密談していた。
「クラリッサ・ヴァレンティーヌ……奴は香りで国を支配する気だ」
「自由だと? あれは放任だ。王国は、再び秩序を失う」
「ならば――我々に“新たな王”が必要だ」
そのとき、扉が音もなく開いた。
黒いヴェールをまとった女が入ってくる。
その姿を見て、貴族たちは息を呑んだ。
「……その顔……まさか」
「お久しぶりですわ。
セシリア・バートラム――いいえ、“セシリア二世”とお呼びくださいませ」
ヴェールの下の瞳は、かつてのセシリアと瓜二つ。
だが、その香りはまったく違っていた。
冷たく、甘く、そして――空虚。
「わたくしは、あの方の遺志を継ぐ者。
香りを王家に還し、再びこの国を“正しい秩序”に戻しますわ」
“沈黙の王冠計画”――その夜、密かに動き出した。
一方、王都の高台にて。
クラリッサは夜風に当たりながら、再建された宮殿を見下ろしていた。
扇子を閉じ、深く息を吸う。
「……変な香りですわね」
淡い甘さの中に、違和感。
まるで“心の空洞”を覆い隠すような香り。
そのとき、背後からレオンが現れた。
「気づいたか。王都の南区で異常な香気が観測された。
香料の配合が……誰かに似ている」
クラリッサの表情が険しくなる。
「まさか、“セシリア”の再現?」
「ああ。名義は“セシリア・バートラム二世”。だが正体は不明だ」
クラリッサは静かに微笑んだ。
「また“偽り”が現れたのですのね。
でも、もう二度と負けませんわ。
わたくしの香りは、真実でできていますもの」
翌朝。
王都の中央広場に、人々が集まっていた。
壇上には白衣の女性が立ち、透明な香炉を掲げる。
「――この香りこそ、王の証。
秩序をもたらす聖なる香気、“王冠の息吹”!」
香りが広がり、人々が陶酔したように跪く。
レオンがその様子を見て叫んだ。
「クラリッサ、危険だ! あの香り、精神誘導成分が含まれている!」
クラリッサは扇子を広げ、香りの風を打ち払った。
「――風は奪わせませんの!」
彼女の香りが拮抗する。
“誓いの香り”と“王冠の香り”――二つの風が激しくぶつかり合い、空気が震える。
群衆の間に、戸惑いの声が広がる。
「これは……何だ……?」
「どっちが……本物の香りだ……?」
クラリッサは一歩前に出た。
「皆さま、香りは人を縛るためのものではありません!
どうか――ご自身の“心の香り”を思い出してくださいませ!」
その瞬間、風が変わった。
人々の胸の奥に残っていた記憶――母の手の香り、恋人の微笑み、幼い日の草原の匂い。
それらが次々と蘇る。
“王冠の香り”が崩れ、群衆が立ち上がる。
セシリア二世は後ずさり、香炉を落とした。
「なぜ……なぜ人々が逆らうの!?」
クラリッサは静かに微笑む。
「あなたの香りには、“命”がありませんの。
だから――風が味方しませんのよ」
戦いのあと、広場には静けさが戻った。
クラリッサは壊れた香炉を拾い上げ、囁く。
「……セシリア。あなたの名前は、風の中で眠らせますわ」
レオンが隣で頷く。
「終わったか?」
「いいえ。風が止まらない限り、終わりはありませんの」
彼女は扇子を閉じ、空を見上げた。
朝日が昇り、香りが風に溶けていく。
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