追放された悪役令嬢は貧乏になっても図太く生きますわ!

ワールド

文字の大きさ
55 / 60

王国連盟会議

しおりを挟む
王都の議事堂には、各国の旗が並び、香木の煙が静かに立ち上っていた。
 ――今日、歴史が動く。
 クラリッサ・ヴァレンティーヌはそう感じながら扇子を閉じ、壇上へと歩を進めた。

 この日、王国主催による「王国連盟会議」が開かれる。
 テーマは――“香りによる国際交流の可能性”。

 各国の使者たちが円卓を囲む。
 北の鉱山国《グリムス》、南の教国《セレヴァナ》、東の商業都市連邦、そして西の帝国《ヴァルド》。
 香りが結んだ縁が、初めて一堂に会したのだ。

 議長が声を張る。
 「本日、王国代表として発言するのは――クラリッサ・ヴァレンティーヌ殿!」

 会場が静まる。
 クラリッサはゆっくりと立ち上がり、柔らかい笑みを浮かべた。

 「皆さま。
  わたくしが今日お話ししたいのは、“香りは力ではなく、対話の言葉”であるということですわ。」

 ざわめきが走る。
 「言葉だと? 香りは物理的現象に過ぎぬ!」と帝国代表が鼻で笑った。

 クラリッサは微笑みを崩さない。
 「ええ、ですが――風に乗る香りは、国境を知りませんの。
  だからこそ、国が変わっても“記憶”を繋げることができますわ。」

 彼女は香瓶を一つ取り出し、会場中央で蓋を開けた。
 漂うのは“誓いの香り”――学院の象徴でもある香。

 北の使者が目を細める。
 「これは……我々の鉱山で嗅いだ香りだ。」
 南の教国代表が頷く。
 「セレヴァナの修道女も、この香りで祈っていた。」
 東の商人が続ける。
 「我が連邦の市でも、この香りが“正直な取引”の象徴になっておる。」

 クラリッサは穏やかに言う。
 「つまり、この香りはもう“わたくしのもの”ではありません。
  あなた方の国に吹いた“風”が、この場に集まったのですわ。」

 帝国代表は腕を組み、薄く笑った。
 「しかし、それは“制御不能”ということでもある。
  香りは感情を動かす。利用すれば、人を導くこともできよう。」

 「導く?」
 クラリッサの瞳が鋭く光った。
 「それは導きではなく、支配ですわ。
  香りが人を縛る瞬間、それは“風”ではなく“毒”になります。」

 帝国代表の声が低く響く。
 「理想論だ。世界は美辞麗句では回らぬ。」

 クラリッサは静かに扇子を開き、風を一筋起こした。
 「理想とは、風のようなものですわ。
  掴めないけれど、確かに“流れを変える”力がありますの。」

 風が吹き抜け、香りが広間を包む。
 その中で、帝国代表の背後に控えていた青年が、ふと目を細めた。

 「……懐かしい匂いだ。」
 「何?」
 「昔、辺境の村で嗅いだ。飢えた子どもにパンを配っていた女が、同じ香りをしていた。」

 クラリッサは小さく微笑んだ。
 「その女は、きっと“風を信じる人”でしたのね。」

 帝国代表が黙り込む。
 会場に柔らかな沈黙が訪れる。

 その後、各国の代表が順に発言した。
 北の代表:「この香りを“友好の象徴”としたい。」
 南の教国:「祈りと調和の儀式に取り入れよう。」
 東の商人:「商会連合で“風の印章”を作ろう。」

 クラリッサは深く一礼した。
 「ありがとうございます。
  この瞬間、風は国を越えました。
  どうか、香りを武器ではなく――“理解の風”としてお使いくださいませ。」

 大広間に拍手が鳴り響く。
 その音は、まるで新しい時代の鐘のようだった。

 会議の後。
 王都のテラスでレオンが待っていた。
 「やったな、クラリッサ。」
 「ええ。でも、これからが本番ですわ。
  風が広がるほど、影もまた生まれますもの。」

 遠くに帝国の使者が馬車で去っていく。
 その瞳にはまだ、どこか野心の色が残っていた。

 クラリッサは扇子を閉じ、夜空を見上げる。
 「それでも、風は止まりませんわ。
  誰かが受け継ぎ、どこかで新しい香りになるのです。」

 レオンが隣で笑った。
 「まったく、風に負けない女だな。」
 「当然ですわ。“図太く生きる令嬢”ですもの。」

 二人の笑い声が、夜風に溶けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。 困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。 さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず…… ────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの? ────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……? などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。 そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……? ついには、主人公を溺愛するように! ────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

処理中です...