この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん

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16話

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 放課後の学園棟は、橙に染まった夕陽が廊下の床を斜めに照らし、静かな余韻に包まれていた。

 文哉は一人、教室棟の端にある資料室へ向かって歩いていた。護衛は一時的に離れており、気配を紛らわせるようにゆっくりと足を運ぶ。だが、静寂を破る声が背後から響いた。

「そちらの方……お待ちなさいな」

 凛とした、だがどこか気品を含んだ女性の声。振り向いた文哉の視線の先に現れたのは、完璧な制服姿と規律そのものを体現したような少女だった。

 黒崎 美苑。

 艶やかな黒髪に深紅の瞳を湛え、胸元には“風紀委員長”のバッジが燦然と輝く。姿勢、所作、眼差し──どこを取っても、彼女は“正しさ”の権化のようだった。

「あなたが文哉様でいらっしゃいますわね?」

「……はい、そうですけど」

「よろしい。では、少々お時間をいただけますかしら。風紀委員会として、確認しておきたい事項がございますの」

 彼女は手元の端末を軽く操作し、ホログラムウィンドウを開いた。そこには朝の教室での“肌見せ事件”──無防備にシャツをめくった文哉の姿が映し出されていた。

「本来ならば、男子の露出に関しては自由が保障されております……けれども、それは“節度を弁えた範囲内である”という条件付きでございますわ」

「……すみません、あれは本当に無意識で」

 真剣な眼差しの中に、わずかな戸惑いと──羞恥があった。

 彼女の耳が、かすかに赤く染まっていたのだ。

 この完璧な風紀委員長もまた、“男子”という存在に慣れているわけではないのだと、文哉は内心で思った。

「……誤解なさらないでくださいませね。わたくし、あなたを責め立てるつもりなどございませんの」

「それなら……どうして、わざわざ俺に?」

 問いかけに、一瞬だけ美苑の視線が泳いだ。

 そして、小さく息を整えた後、いつもの調子で──しかしほんのわずかにトーンを落として語りかけた。

「それは……その……あまりに不意打ちでございましたもの。あのような……無防備な姿を、突然……っ」

 言葉が詰まり、頬が朱に染まる。

「だっ、だからっ! 風紀の観点から申し上げておりますのよ! 決して、わたくし個人の……その……そういう意味ではなくっ!」

 文哉は、少しだけ笑った。いつものように女子たちを意識せずに過ごしていた自分にとって、こうして強く出てくる少女はどこか新鮮だった。

 ──ただ、強いだけではない。

 その内側には、まっすぐで、不器用で、純粋な想いが見え隠れしている。

「黒崎さんって、すごく真面目なんですね」

「っ……っ当たり前でございましょう!? わたくしは風紀委員長ですのよ! それに……」

 美苑は、少しだけ視線を落として、ためらいながらも言った。

「……あまり、誰にでも、そうして笑いかけないでいただけますか?」

「え?」

「そ、その……ほかの女子が……その……っ、混乱いたしますわ。男子からの優しさは……反則なのでございますっ」

 言い終えたあと、彼女はくるりと踵を返した。その背中には、張りつめたような気高さと、どこか後悔にも似た余韻が残されていた。

 ──完璧に見えて、その実、とても人間らしい。

 文哉の胸には、不思議と強く残る出会いだった。

✿✿✿✿

 その日、特別演習棟の試験フィールドは、ひんやりとした静けさに包まれていた。

 天井の照明は薄暗く、バイオギアの起動演出が際立つよう、あえて光量を絞ってある。観客席には誰もいない。これは、風紀委員による「非公開試験」、言い換えれば“非公式な初披露”だった。

「……お待たせしましたわね、文哉様」

 訓練場の中央に現れた黒崎美苑は、純白の制服から淡い紺のスーツインナーに着替えていた。襟元まで閉じられたその服装は、彼女の厳格さと端正な美しさを際立たせている。

「えっと……今日は、何の試験なんですか?」

「これは、風紀委員長としての責務の一環にございます。……男子であるあなた様に、今後、間接的にでも関わる可能性のある戦闘を、然るべき形で“確認”しておかねばなりませんの」

 硬い言い回しだが、要するに「自分の戦う姿を、あなたに見てほしい」ということだった。

 文哉は静かに頷き、演習スペースの安全圏に下がった。フィールド中央に立つ美苑は、静かに呼吸を整え、左手首に装着したブレスレット型の起動装置に指をかけた。

「コード、フェイド=ヴァニッシャ。展開――認可、黒崎 美苑」

 その瞬間。

 空間に淡い光粒子が舞い、彼女の身体を包むように装甲が形成されていく。白と金の輪郭が幾重にも重なりながら、美しく、そして妖艶に形を成していく。

 〈フェイド=ヴァニッシャ〉――

 光学迷彩型バイオギア、その名の通り「視覚から消える」能力を持つ精密機動タイプ。その装甲は半透明の粒子構造でできており、見る角度によっては内部のスーツ、さらには彼女の肌までが“ちらり”と視認できる。

 文哉は思わず息を呑んだ。

 美苑の体を包む装甲は、どこか女神像のような静謐さを保ちながらも、密着したスキンタイト素材が腰や腿にかけて露出を演出していた。肩と胸元には浮遊する金色の装飾装甲が漂い、まるで“意志を持った盾”のように舞う。

 背中には、ホログラフィックの羽根のようなフィンがふわりと展開し、ゆらめく光が残像を描く。歩を進めるたび、彼女の足元には霞のような視覚拡散粒子が漂い、視線を惑わせた。

「このギアは、“気配を断ち、風紀を律する”ために設計されておりますの」

 声はいつものように澄んでいたが、その頬にはほんのりと赤みが差している。

「……けれども、実際に装着してみて、少々……いえ、かなり、視線を意識いたしますわ。とくに、文哉様のように、まっすぐに見られてしまうと……っ」

 彼女は視線を逸らしながら、小さく唇を噛んだ。

 文哉は、目の前の彼女がどれほど勇気を振り絞ってこの場に立っているかを察した。

「……すごく、綺麗だと思うよ」

「っ……っ!!」

 その言葉に、美苑の肩がぴくりと震えた。

「か、かかか……か、綺麗などと、男子が軽々しく女子に……っ!」

 いつも通りの調子で怒鳴るかと思いきや、声はなぜか裏返り、すぐにしぼんだ。

「……そ、その……どうして……そうやって……優しくなさるの……?」

 かすれた声でそう言った彼女は、今にも消えそうな光の中に立っていた。透明に近い装甲が、彼女の“隠しておきたい気持ち”すら透かしてしまうようで──文哉はそっと言葉を返した。

「風紀委員長でも、こうやって頑張ってるの、ちゃんと見てるから。俺、誰かが本気で向き合ってくれるの、すごく嬉しいんだ」

 沈黙。

 数秒の間ののち、美苑は仮面のようなバイザーマスクを静かに取り外した。装甲の解除と共に、緩やかな吐息が漏れ、彼女の素顔が夕陽の中に浮かび上がる。

 そこには、いつもの高慢で堂々とした表情はなかった。

 代わりにあったのは──少し泣きそうで、けれどもほんの少し、安堵したような、そんな少女の顔だった。

「……次にお見せするときは、もう少し格好良くきめてみせますわ」

「うん。楽しみにしてる」

 互いに微笑んだ、その瞬間。

 バイオギアの光がふわりと散り、美苑の姿はまた制服姿へと戻っていた。

 だが、文哉の中には、しっかりと焼き付いていた。

 ──彼女は“誰よりも強く、そして誰よりも繊細”な風紀委員長だと。
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