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第一楽章
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しおりを挟むsubito
”突然 ただちに”
暗がりの室内で、ベッドサイドテーブルに置かれたモバイルが鳴動した。しばらくの間、低い振動音を立てながら、機能の限り自己主張していたが、ベッドにもぐりこんだ主人が無視を決め込んでいることを理解したと言わんばかりに、ぱたりと静かになった。
頭からかぶったブランケットの下では、至福の時間を守りきったと半覚醒状態で満足げな息を吐き出したジムは眠りの深みへそそくさと踵を返していた。その安らぎの中で、左腕に装着されたウェアラブル端末、Rugiet(ルジェット/轟音)が、小賢しい機能満載のモバイルには今回の任務は荷が重すぎたとでも言いたげに、にやりと不気味にその数ミリの薄いディスプレイへ鈍い光と簡潔なコードを浮かべると、対岸のモバイルを尻目に、その名に相応しい呼び出し音、ジムが枕で仕立てた防音壁、柔らかな羽毛で築いた塹壕をいとも簡単に吹き飛ばす音で寝室を震わせた。
「――――――ッ!」
ジムは、瞬時に目を開き、塹壕を払いのけると左腕を掴み上げ非常ベルを黙らせた。
あの時の爆発が蘇ったかと思った。
夢うつつの中で響いた爆音に、フラッシュバックを起こしそうな自分を、深呼吸一つ、落ち着かせた。静かになったディスプレイを確認したジムは、非常事態レベルを表すコードに、落ち着いたのも束の間、思わず神に悪態をついた。姿も見えず声も聴こえたことのない神など信じてはいなかったが。最低限の通信機能しか持ち合わせていないルジェットでは、詳細を確認する事が出来ないが、最悪の事態が起きたことは、たった今思いしらされた。
「そうじゃなきゃ、コイツを喚かせたヤツを黙らす。永久に」
物騒な独り言を呪いのように唱えながらベッドの周囲に散らばった衣類を身に付け、思考は状況の想定と対処に奔走させた。目まぐるしく想定されるパターンが脳裏に展開されたが、数秒後、ピタリとジムは動きを止めた。
「何が起きた」
静かになった室内に、ジムの呟きがポツリと落ちた。
十五分も経たないうちに、ジムは出掛ける準備を済ませ、最後にモバイルからキャシーに連絡を入れた。
「キャシー。すまない。呼び出しだ。そうだ。スケジュール管理の出来ないボスのせいだ」
通話の向こうには、どうやら、アマンダが近くにいるらしい。
「いや、長くはない」
電話の向こうでいつも以上に期間を気にして発言している自分に気付いた彼女は、ジムの内心も自分の不安もひっくるめて打ち消すように慌てて笑いながら「あんまり長いと、待ってられないよ。この子」と口早に伝えてきた。
「長くはない。大丈夫だ」
キャシーを安心させるために口にした言葉は、かえって不吉な予感をジムに呼び起こさせた。
長くはない。
もう一度、電話の向こうのキャシーに「大丈夫だ」と告げ、ジムは通話を切った。
長くは保たない。
根拠が無い、と振り払おうとしたが振り払えるだけの根拠が無いことにも、ジムは気付いていた。
ガレージから車を出すと、ルジェットに送られて来たポイントコードを車載端末に指示するが反応が無い。舌打ちを一つ、右手でダッシュボードに拳を一つくれると、思い出したように、<ハイ! ジミー!>と、挨拶が投影され、登録してあるネットラジオから音楽が流れ始めた。次にシステムが良く出来た合成音声で、四角四面の<ご用は何でしょう?>と尋ねてくる前に、ジムはポイントの地図表示と本部への通話を指示すると、ダッシュボードの上にノイズ混じりのマップが表示され、2コールでブライアンの声が聞こえてきた。
「ジム、家を出たか。三十分でランデブーだぞ。急げよ」
こちらの動きは当然確認済みだろう。
「コミュニティ病院だな。どっち側の駐車場だ?ノイズだらけで見えやしない」
「南側の地下だ。なんだ、また宙空投影の調子が悪いのか? 新しい車に変えろよ。チャイルドシート付きのファミリーカーに」
「ブライアン、お前もか……」
「? 何のことだ?」
「いや、いい。こっちの話しだ。それで? 俺はその車で仕事に行くのか?」
「どうせポイントまでさ。今だってそうだろ。カモフラージュにもちょうどいい。お前のGT500(スネーキー)は目立つからな」
スピーカーの向こう、ブライアンの声は表面上いつも通りに聴こえてくるが内心穏やかではなさそうだ。ブライアンの指がデスクを絶えずノックする後ろでは不穏な音が飛び交っている。騒然とした中で、一際大きく不快な声が聴こえた。
そうか。爆音はコイツの仕業か。道理で。また俺を爆殺する気か。
あの爆音から蘇りたがっている記憶を、アクセルを踏み込むことでジムは押しつぶした。
「何があった」
「ロストだ」
「何?」
「完全にロストだ。双子の映像も音声も、長耳たちがハッキングしていた屋敷内のカメラの映像も途中で消えて、状況が全くわからない。ロンとホリーの反応も、ルジェット経由での非常事態コード発信後、消えた」
馬鹿な。ルジェットが黙るだと?
「どう言うことだ。バックアップはどうした? 突入したのか?」
「それがな……下手に正体を晒したくないらしい」
うさぎは逃げ足が速いだろ?
ブライアンがジムにだけ聴こえるように声のトーンを落として呟いた。ジムが状況をさらに尋ねる前に、ブライアンは背後の不快な声に呼び付けられ、早く来いよと言って通話を切った。
走る騒音と揶揄される愛車に取り残されたジムは、無意識に胸ポケットに手を伸ばしたが厚みの無さに気付き苦笑する。
そうだよ。煙草やめたんだよな。落ち着けよ、俺。
ああ。畜生。何で、禁煙なんかした。
ジムは、無性に吸いたくなった煙への飢餓感そのままにアクセルを踏み込んだ。
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