大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―

甘塩ます☆

文字の大きさ
14 / 23

14

しおりを挟む
「まさか、こんな直ぐ側に……」

 ユナは教授が開いた隠し扉の先に広がる、重厚な湿り気を帯びた緑の匂いに目を輝かせた。
 そこは学園近くの森の中、ひっそりと隠されるよう封印された洞窟の中にあった。

「ここは選ばれた五人しか入れない。私、ヴィクトール、エルフレードくん、そしてユナさんと、その侍女……これで五人だね」

 教授の言葉に、エルが驚いてヴィクトールを仰ぎ見た。

「兄上、ついてくるんですか? いつも政務でお忙しいのに……」

「聖樹の異変は国家の危機だ。これも政務だよ。……それに、ここでお前がユナを抱えて逃げ出さないか、監視する役目も必要だからね」

 ヴィクトールが冷淡に言い放つと、エルは少し残念そうに兄から視線を逸らした。

(エル様、本当はお兄様に構ってほしいみたいだわ……)

 その子供のような表情に、ユナは思わず小さく笑ってしまった。

「リサ、準備はいい?」
 
「はい、お嬢様。天井が低い場所が多いようですので、いつでも王子の頭上に落下できる準備は整っております」

「それはやめてあげなさいね。今は普通に私の隣を歩いて」

「お嬢様のお隣など滅相もない。私は後ろから影に徹します!」



 五人は教授を先頭にして、ダンジョンの深部へと足を踏み入れた。入ってすぐ、暗闇の中に可愛らしいスライムのような生物『プヨン』が点滅しながらプヨンプヨンと飛び回っているのが見える。

(あら、可愛らしい案内人ね)

 ユナは和みながら教授の後をついていくが、ふと足を止めた。教授がプヨンの動く方向を無視して進もうとしたからだ。

「教授、そちらに何かあるのですか?」

「え? 正規ルートを通っているんだが……どうしたんだね?」

 突然止められ、教授は驚いて振り向く。

「いえ、プヨンが案内してくれているので、なぜ無視するのかと……。そちらが正規ルートなのは、何か意味があるのですか?」

「いや……このプヨンはただ居心地が良いからここに居るだけだと思っていたんだが。案内してくれているのかい?」

 教授は何度もここへ足を踏み入れているが、無数の光るプヨンは「明るくて良いなあ」程度にしか思っていなかった。踏破者が作った地図を鵜呑みにし、迷子を恐れるあまり他のルートを詮索したことなどなかったのだ。

「ええ、まあ……私の勘なんですけど」

「面白いね。新しいルートが見つかるかもしれない。試しに行ってみよう。先頭をユナさんに交代だ」

 教授も好奇心が芽生え、ユナに先頭を譲ることにした。

 ユナが先頭になったため、当然エルは彼女の隣をキープしようとしたが、それをヴィクトールが制する。

「エル、駄目だよ。ユナの隣はこのダンジョンに詳しい教授に任せるべきだね。ユナの後ろはリサが陣取っているから、僕とエルはその後ろから並んで行こう」

「……はい」

 エルは兄・ヴィクトールへの憧れから、隣を歩けることが嬉しく、同時に気恥ずかしい。
 ユナはチラリと後ろを振り返り、初々しい様子で兄の隣を歩くエルを見て微笑ましくなった。

(いつもああならいいんだけど……)


「ユナさん、ここは行き止まりの壁なんだが……」

 教授の困った声に、ユナは前を向き直す。確かにそこは他の壁と同じように聳え立っているが、これはモンスターである。壁に擬態しているのだ。
 ユナが壁に手を置くと、表面に「♡」と「?」が浮かび上がった。

「えっと……全員が一人ずつ『最も愛する人』を発表しろ、ですって」

「ええっ……それはどういうことかな?」

「この壁のモンスター、恋バナが好きみたいですよ」

 ユナが通訳すると、教授は困惑して地図を書き記す手を止めた。

「毎回この質問をするのかい?」

「いえ、この子の気分次第なので、次は別の質問かもしれません」

「この道を通るには、ユナさんが必須だな……」

 地図を書いても意味が無いかと、教授は途中まで書いた紙を手放そうとした。しかし、せっかくだし、一応書き留めておこうと握り直す。

「じゃあ、ユナさんから順番に行こうか」

「私は薬草が好きだけど」

 壁が「×」を表示する。やはり「人」でないと駄目なようだ。

「そうね……。親愛しているのはリサよ」

 ユナが照れながら言うと、壁は「◎」を表示した。リサはすかさず「私もユナ様を愛しておりますよ!!」と背後から叫び、壁は二人を祝福するようにクラッカーを鳴らした。

「私、リサはお友達だと思っているわ。リサも私をお友達だと思ってね」

「お嬢様……!」

 感動的な主従の絆。そこにエルが割り込む。

「僕は兄を敬愛しているが、最も愛している女性はユナ一人だけだ!」

 堂々と壁に愛をぶつけたエル。壁は「◎」を出す。

「そうですね。私は生徒全員を愛していますが……一人選ぶならヴィクトール殿下ですかね。友愛です」

 教授が言うと、ヴィクトールも淡々と応えた。

 「じゃあ、僕も教授を愛しているよ」

 壁は「◎」を表示し、盛大にクラッカーを鳴らして扉を開いた。
 教授の顔は真っ赤である。

(おやおや、もしかして……)
(禁断の愛の予感ですね)

 ユナとリサは視線で会話しながら、顔を見合わせてニコニコと笑ってしまうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿 心刃
恋愛
僕の幼馴染で姉的な存在である西田香奈は、眉目秀麗・品行方正・成績優秀と三拍子揃った女の子だ。彼女は、この辺りじゃ有名な女子校に通っている。僕とは何の接点もないように思える香奈姉ちゃんが、ある日、急に僕に急接近してきた。 僕の名は、周防楓。 女子校とは反対側にある男子校に通う、ごく普通の男子だ。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

愛情に気づかない鈍感な私

はなおくら
恋愛
幼少の頃、まだ5歳にも満たない私たちは政略結婚という形で夫婦になった。初めて顔を合わせた時、嬉し恥ずかしながら笑い合い、私たちは友達になった。大きくなるにつれて、夫婦が友人同士というのにも違和感を覚えた私は、成人を迎えるその日離婚をするつもりでいた。だけど、彼は私の考えを聞いた瞬間豹変した。

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

狭山雪菜
恋愛
アリカ・シュワルツは、この春社交界デビューを果たした18歳のシュワルツ公爵家の長女だ。 社交会デビューの時に知り合ったユルア・ムーゲル公爵令嬢のお茶会で仮面舞踏会に誘われ、参加する事に決めた。 しかし、そこで会ったのは…? 全編甘々を目指してます。 この作品は「アルファポリス」にも掲載しております。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。ユリウスに一目で恋に落ちたマリナは彼の幸せを願い、ゲームとは全く違う行動をとることにした。するとマリナが思っていたのとは違う展開になってしまった。

処理中です...