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「まさか、こんな直ぐ側に……」
ユナは教授が開いた隠し扉の先に広がる、重厚な湿り気を帯びた緑の匂いに目を輝かせた。
そこは学園近くの森の中、ひっそりと隠されるよう封印された洞窟の中にあった。
「ここは選ばれた五人しか入れない。私、ヴィクトール、エルフレードくん、そしてユナさんと、その侍女……これで五人だね」
教授の言葉に、エルが驚いてヴィクトールを仰ぎ見た。
「兄上、ついてくるんですか? いつも政務でお忙しいのに……」
「聖樹の異変は国家の危機だ。これも政務だよ。……それに、ここでお前がユナを抱えて逃げ出さないか、監視する役目も必要だからね」
ヴィクトールが冷淡に言い放つと、エルは少し残念そうに兄から視線を逸らした。
(エル様、本当はお兄様に構ってほしいみたいだわ……)
その子供のような表情に、ユナは思わず小さく笑ってしまった。
「リサ、準備はいい?」
「はい、お嬢様。天井が低い場所が多いようですので、いつでも王子の頭上に落下できる準備は整っております」
「それはやめてあげなさいね。今は普通に私の隣を歩いて」
「お嬢様のお隣など滅相もない。私は後ろから影に徹します!」
五人は教授を先頭にして、ダンジョンの深部へと足を踏み入れた。入ってすぐ、暗闇の中に可愛らしいスライムのような生物『プヨン』が点滅しながらプヨンプヨンと飛び回っているのが見える。
(あら、可愛らしい案内人ね)
ユナは和みながら教授の後をついていくが、ふと足を止めた。教授がプヨンの動く方向を無視して進もうとしたからだ。
「教授、そちらに何かあるのですか?」
「え? 正規ルートを通っているんだが……どうしたんだね?」
突然止められ、教授は驚いて振り向く。
「いえ、プヨンが案内してくれているので、なぜ無視するのかと……。そちらが正規ルートなのは、何か意味があるのですか?」
「いや……このプヨンはただ居心地が良いからここに居るだけだと思っていたんだが。案内してくれているのかい?」
教授は何度もここへ足を踏み入れているが、無数の光るプヨンは「明るくて良いなあ」程度にしか思っていなかった。踏破者が作った地図を鵜呑みにし、迷子を恐れるあまり他のルートを詮索したことなどなかったのだ。
「ええ、まあ……私の勘なんですけど」
「面白いね。新しいルートが見つかるかもしれない。試しに行ってみよう。先頭をユナさんに交代だ」
教授も好奇心が芽生え、ユナに先頭を譲ることにした。
ユナが先頭になったため、当然エルは彼女の隣をキープしようとしたが、それをヴィクトールが制する。
「エル、駄目だよ。ユナの隣はこのダンジョンに詳しい教授に任せるべきだね。ユナの後ろはリサが陣取っているから、僕とエルはその後ろから並んで行こう」
「……はい」
エルは兄・ヴィクトールへの憧れから、隣を歩けることが嬉しく、同時に気恥ずかしい。
ユナはチラリと後ろを振り返り、初々しい様子で兄の隣を歩くエルを見て微笑ましくなった。
(いつもああならいいんだけど……)
「ユナさん、ここは行き止まりの壁なんだが……」
教授の困った声に、ユナは前を向き直す。確かにそこは他の壁と同じように聳え立っているが、これはモンスターである。壁に擬態しているのだ。
ユナが壁に手を置くと、表面に「♡」と「?」が浮かび上がった。
「えっと……全員が一人ずつ『最も愛する人』を発表しろ、ですって」
「ええっ……それはどういうことかな?」
「この壁のモンスター、恋バナが好きみたいですよ」
ユナが通訳すると、教授は困惑して地図を書き記す手を止めた。
「毎回この質問をするのかい?」
「いえ、この子の気分次第なので、次は別の質問かもしれません」
「この道を通るには、ユナさんが必須だな……」
地図を書いても意味が無いかと、教授は途中まで書いた紙を手放そうとした。しかし、せっかくだし、一応書き留めておこうと握り直す。
「じゃあ、ユナさんから順番に行こうか」
「私は薬草が好きだけど」
壁が「×」を表示する。やはり「人」でないと駄目なようだ。
「そうね……。親愛しているのはリサよ」
ユナが照れながら言うと、壁は「◎」を表示した。リサはすかさず「私もユナ様を愛しておりますよ!!」と背後から叫び、壁は二人を祝福するようにクラッカーを鳴らした。
「私、リサはお友達だと思っているわ。リサも私をお友達だと思ってね」
「お嬢様……!」
感動的な主従の絆。そこにエルが割り込む。
「僕は兄を敬愛しているが、最も愛している女性はユナ一人だけだ!」
堂々と壁に愛をぶつけたエル。壁は「◎」を出す。
「そうですね。私は生徒全員を愛していますが……一人選ぶならヴィクトール殿下ですかね。友愛です」
教授が言うと、ヴィクトールも淡々と応えた。
「じゃあ、僕も教授を愛しているよ」
壁は「◎」を表示し、盛大にクラッカーを鳴らして扉を開いた。
教授の顔は真っ赤である。
(おやおや、もしかして……)
(禁断の愛の予感ですね)
ユナとリサは視線で会話しながら、顔を見合わせてニコニコと笑ってしまうのだった。
ユナは教授が開いた隠し扉の先に広がる、重厚な湿り気を帯びた緑の匂いに目を輝かせた。
そこは学園近くの森の中、ひっそりと隠されるよう封印された洞窟の中にあった。
「ここは選ばれた五人しか入れない。私、ヴィクトール、エルフレードくん、そしてユナさんと、その侍女……これで五人だね」
教授の言葉に、エルが驚いてヴィクトールを仰ぎ見た。
「兄上、ついてくるんですか? いつも政務でお忙しいのに……」
「聖樹の異変は国家の危機だ。これも政務だよ。……それに、ここでお前がユナを抱えて逃げ出さないか、監視する役目も必要だからね」
ヴィクトールが冷淡に言い放つと、エルは少し残念そうに兄から視線を逸らした。
(エル様、本当はお兄様に構ってほしいみたいだわ……)
その子供のような表情に、ユナは思わず小さく笑ってしまった。
「リサ、準備はいい?」
「はい、お嬢様。天井が低い場所が多いようですので、いつでも王子の頭上に落下できる準備は整っております」
「それはやめてあげなさいね。今は普通に私の隣を歩いて」
「お嬢様のお隣など滅相もない。私は後ろから影に徹します!」
五人は教授を先頭にして、ダンジョンの深部へと足を踏み入れた。入ってすぐ、暗闇の中に可愛らしいスライムのような生物『プヨン』が点滅しながらプヨンプヨンと飛び回っているのが見える。
(あら、可愛らしい案内人ね)
ユナは和みながら教授の後をついていくが、ふと足を止めた。教授がプヨンの動く方向を無視して進もうとしたからだ。
「教授、そちらに何かあるのですか?」
「え? 正規ルートを通っているんだが……どうしたんだね?」
突然止められ、教授は驚いて振り向く。
「いえ、プヨンが案内してくれているので、なぜ無視するのかと……。そちらが正規ルートなのは、何か意味があるのですか?」
「いや……このプヨンはただ居心地が良いからここに居るだけだと思っていたんだが。案内してくれているのかい?」
教授は何度もここへ足を踏み入れているが、無数の光るプヨンは「明るくて良いなあ」程度にしか思っていなかった。踏破者が作った地図を鵜呑みにし、迷子を恐れるあまり他のルートを詮索したことなどなかったのだ。
「ええ、まあ……私の勘なんですけど」
「面白いね。新しいルートが見つかるかもしれない。試しに行ってみよう。先頭をユナさんに交代だ」
教授も好奇心が芽生え、ユナに先頭を譲ることにした。
ユナが先頭になったため、当然エルは彼女の隣をキープしようとしたが、それをヴィクトールが制する。
「エル、駄目だよ。ユナの隣はこのダンジョンに詳しい教授に任せるべきだね。ユナの後ろはリサが陣取っているから、僕とエルはその後ろから並んで行こう」
「……はい」
エルは兄・ヴィクトールへの憧れから、隣を歩けることが嬉しく、同時に気恥ずかしい。
ユナはチラリと後ろを振り返り、初々しい様子で兄の隣を歩くエルを見て微笑ましくなった。
(いつもああならいいんだけど……)
「ユナさん、ここは行き止まりの壁なんだが……」
教授の困った声に、ユナは前を向き直す。確かにそこは他の壁と同じように聳え立っているが、これはモンスターである。壁に擬態しているのだ。
ユナが壁に手を置くと、表面に「♡」と「?」が浮かび上がった。
「えっと……全員が一人ずつ『最も愛する人』を発表しろ、ですって」
「ええっ……それはどういうことかな?」
「この壁のモンスター、恋バナが好きみたいですよ」
ユナが通訳すると、教授は困惑して地図を書き記す手を止めた。
「毎回この質問をするのかい?」
「いえ、この子の気分次第なので、次は別の質問かもしれません」
「この道を通るには、ユナさんが必須だな……」
地図を書いても意味が無いかと、教授は途中まで書いた紙を手放そうとした。しかし、せっかくだし、一応書き留めておこうと握り直す。
「じゃあ、ユナさんから順番に行こうか」
「私は薬草が好きだけど」
壁が「×」を表示する。やはり「人」でないと駄目なようだ。
「そうね……。親愛しているのはリサよ」
ユナが照れながら言うと、壁は「◎」を表示した。リサはすかさず「私もユナ様を愛しておりますよ!!」と背後から叫び、壁は二人を祝福するようにクラッカーを鳴らした。
「私、リサはお友達だと思っているわ。リサも私をお友達だと思ってね」
「お嬢様……!」
感動的な主従の絆。そこにエルが割り込む。
「僕は兄を敬愛しているが、最も愛している女性はユナ一人だけだ!」
堂々と壁に愛をぶつけたエル。壁は「◎」を出す。
「そうですね。私は生徒全員を愛していますが……一人選ぶならヴィクトール殿下ですかね。友愛です」
教授が言うと、ヴィクトールも淡々と応えた。
「じゃあ、僕も教授を愛しているよ」
壁は「◎」を表示し、盛大にクラッカーを鳴らして扉を開いた。
教授の顔は真っ赤である。
(おやおや、もしかして……)
(禁断の愛の予感ですね)
ユナとリサは視線で会話しながら、顔を見合わせてニコニコと笑ってしまうのだった。
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