クリスタル・サーディア 終わりなき物語の始まりの時

蛙杖平八

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CHAPTER 18

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星岬技術研究所近郊 朝の農業地区にて

農業地区と言う呼び方は宅地化が進む現在では殆ど聞かなくなった。それでも主幹道路を外れると電柱も街路灯も激減し、田畑が雑木林の間に見通しよく存在するので、とても農業が廃れて減少傾向にある業種とは考え難い印象を、余所者ならまだしも地元住民にも与えていた。だが、そんなこと関係なしにこの土地に風趣を感じているモノがココにいる。
ターニャは任務に精励しつつ、実は故郷を思い出し眼の前に広がる景色に重ねていた。
生えている樹々も、肥えた土の匂いも全然違うのだが、この土地へ来て周りはずっとコンクリートの硬さと薬品の臭いばかりだったからだろうか? サーディアから提供された走破ルートをトレースしながら、とにかく身体の内側から湧き上がるもので心が満たされていくのを感じていた。
サーディアから提供された走破ルートは連続走行を目的としていた為、ルート設定は同じ様な軌道を何度も繰り返し回るようになっていた。その為、ターニャはルートの全行程をトレースするのでなく、平均を出して1度で確認作業を終えると、邦哉に連絡。体調を崩したり怪我したりで救助待ちしているようなヤツは勿論、誰一人おらず異常なしであることを報告してから帰路に付いた。






星岬技術研究所 本部棟前 パーキングエリア

本部棟前の駐車場にシルバーに塗装された兵員輸送車(トラック)のような車輌が停まっている。その運転席で邦哉は、車載PCで報告書を作成していた。荷台では、医師の診察を待つサーディアの追っかけをしていた連中“裸白衣崇拝者”達がグッタリしていた。
みんな、サーディアの走りに付いていこうと必死になって頑張った訳だが、健康管理室(本部棟5階)に常勤の医師によって、全員が疲労過多との診断を受けるに留まった。また、怪我人・事故など無く済んだことには車の使用が大きく貢献しており、意見具申したターニャの功績を大とする旨、忘れずに付け加えた。総勢28人、内3人女性所員がいたが、趣味趣向は自由であるので、邦哉は特に気にせず以上の事実を報告書にまとめ、サーディアの事を所員に説明する機会を設けたい旨書き添えて、速やかに星岬に提出した。
関係者全員がその日は仕事にならない様子であった。





星岬技術研究所 本部棟22階 所長室兼自室

報告を受けた星岬は事態を静観して様子を見ながら対処することも考えたが、今回のケースは今後増加すること疑い無しと判断して全所員を対象に総会を開くことを全管理職宛てに伝達した。
その伝達に反応して、全管理職から速やかに返信が集まった。返信内容は所員総会開催に賛成27、反対5で開催する事に決した(どちらでもないが数票あったが賛成が揺るがない為カウント外とした)。
星岬は、開催承認の旨を即時、邦哉に伝えた。連絡の結びには“後は良しなに”と記した。邦哉ならきっと苦笑いをするだろうと。



星岬技術研究所 本部棟前 パーキングエリア

駐車場で所長のお裁きを待っていると全員が思っていた裸白衣崇拝者たちは、皆疲れきった様子で空を見上げていた。太陽は首を反らさずとも視界に入ってくる事から、まだ午前中だと思われた。
報告書を提出(送信)した邦哉は、次に片付けることを考えていた。
するとターニャが戻ってきたのが見えた。
車のかなり手前でジャンプすると、ドアに飛びついてきた。
軽く手を挙げて迎え入れ労をねぎらう。
「お疲れ」

「どもっ」
ターニャが裸白衣崇拝者たちに苛立ち落ち着かない様子だ。
ふと、朝食がまだだった事を思い出して少し考えた。
「ターニャ、この後の予定は?」

「15時まで予定なしです。」
ターニャの返答に邦哉は「サーディアのクールダウンが終わったら彼女を連れて昨夜の店に来てくれ。皆でメシを食おう。」と誘う。

ターニャはウホウホと体で車体を揺さぶると「らじゃ、らじゃ」と返事をして、サーディアのいる南研究棟へ向かって行った。

ターニャの背中を見送っていると車載のモバイルPCが着信を知らせてリンドンと鐘の音を鳴らした。
確認すると星岬からであった。
思いのほか迅速な対応に感じ入りつつ、締めくくりの一文に思わず苦笑いすると、運転席から頭を出して裸白衣崇拝者たちに呼びかける。
「お前ら、メシ食いに行くぞ!」

全員が耳を疑って、各々近くの顔を覗き合っている。
「なんだ、飯食う体力も残っていないか?」邦哉が煽る。

「我々は、所長の裁きを待つ身。こんな時にご飯なんかノドを通りません。」
口々に弱気なことを言う所員たちを邦哉が一喝する!

「ウジウジするな!」

全員が驚いて邦哉に注目していた。

車から降りると、邦哉はやや足を開き両拳を硬く握って背筋を伸ばして立った。
ただ立っているだけであったが、そこにいる全員が改めて思っていた、デカッ。
しかし、何か言いたそうにするが言わない。この繰り返しに、注目を集めることに馴れていないヒト特有の居心地の悪さを邦哉から嗅ぎ取った面々は、ひとり、またひとりと起ちあがり、全員が起ちあがると声を揃えて「ゴチになります!!!」精一杯の一言だった。

「おぅ・・! ひとり千円までな」こちらも精一杯の一言だった。



この後、“星岬技術研究所本部棟20階展望レストラン「ダンデライオン」味には賛否両論有り”にて食事会が行われた。朝から討論会のようなものになってしまったが、この日のが一番楽しい食事会だったとターニャは事ある毎に語っている。しかし、コレはまた別の機会に。






星岬技術研究所 本部棟3階 多目的ホール

その日、13時半になると司会進行役が挨拶を始めた。
邦哉が紹介され壇上の中央、演台に着くと所員総会が始まった。
“極秘に開発されたヒト型コミュニケーションロボットについて”と題されたこの総会の参加者たる所員の面々の内、用意された席の前の方を裸白衣崇拝者達が占拠しており、元々関心の高さを如実に表わす格好となった。
総会の流れは通常であれば“極秘に開発されたヒト型コミュニケーションロボット”とやらの説明から入ろうというものだが、演台から一旦離れた邦哉が司会進行役に何事か耳打ちすると、先ずは質疑応答からという異例の進行となっての開会となった。
  
邦哉が質問はあるか?と問いかけるや否や最前列に陣取った七三分けが見事な眼鏡の青年が迷いなく手を挙げた。
見覚えがあるぞ、先頭を走っていた青年だ。そう思っても無視する訳にはいかない。もっとも無視する気など初めからないのだが・・・。

「最初にスッキリさせて欲しいのですが、裸白衣・・・こほん! 彼女は何者ですか?」

「アークロボット。人工人間装置を制御するOSだ。」
邦哉は用意されていたセリフを言うのに留めた。


再び同じ彼である。
「OS? AIではないのですか? それに人工人間装置とは? 人造人間とは違うのですか?」

「違います。まず、AIのように人間を再現させようという意図はOSサーディアにはありません。結果としてAI同様なモノになる可能性は否定しませんが。次に、人造人間はAI同様人間を再現するのが目的ですが、人工人間装置は有機物で機械的特性を再現するのが目的です。」
邦哉が説明する。
大きく頷くと七三眼鏡は納得したのか着席した。


邦哉が他に質問があるか尋ねようとマイクに顔を近づけた瞬間に、こんどは少しお腹が出た見事な六四分けがパイプ椅子から跳ね上がるように勢いよく立ち上がった。
邦哉が落ち着きなさいとたしなめるが聞いていない様子で質問を始めた。

「先ほど“アークロボット”と聞こえましたが、それは一体何ですか?」

「アークロボットとは“実体を伴わないロボット”を意味する造語で、大天使(アークエンジェル)に倣って付けました。」
邦哉は感情を排し、努めて冷静に言葉を紡いだ。
こちらも大きく頷くと着席した。


回答を得た六四分けが着席するのを待って、綺麗な青色フレームの眼鏡をかけた女性所員が手を挙げた。
邦哉が自分を当てるのを待っておずおずと立ち上がる。
「その“OSサーディア”は天使だと思いますか?」

邦哉は苦笑いをしてしまい、軽く咳払いをして立て直すと思ったままを答えた。
「実は全く思っていなくて・・・。天使というよりは…妖精?」

すると綺麗な青色フレームの眼鏡をかけた女性所員は顎を引いてニヤリとしてみせた。眼鏡の蔓がきらりと光りを反射する。直後、はぁはぁと肩で息をし始めると低い声でぼそりと一言発した。
「やはり彼女は妖精だった」

若干質問者の様子に引きながら、邦哉は妙に気になり思わず問いかけてしまった。
「どうして、そう感じたのかね?」

綺麗な青色フレームの眼鏡をかけた女性所員は、ぐふっと息を吐くと(笑ったのかもしれない)興奮気味に、それでいて聞き直されないようにハッキリと発言した。

「問われましたのでお答えします。失礼ながら彼女には…どこか淫靡な感じがします。」

邦哉は素直に発言を受け入れた。
「正直な感想をありがとう。 で、彼女は妖精であると」

綺麗な青色フレームの眼鏡を、蔓を持って位置を直すと女性所員は邦哉を真っ直ぐに見て言った。
「そこにはもう1クッションあるのです。彼女には核(コア)のようなものがある。そんなふうに思ったものですから。」

「コア・・・?」邦哉にはピンとこない単語だった。



綺麗な青色フレームの眼鏡をかけた女性所員は、少し上気した顔で伝えた。
「芯と言い換えても良いですが、何か物凄く強い使命感を持っている、そんな印象を持ったのです。」
その物凄く強い使命感の出どころが、まさかこの私を守護する事だとはとても言えないと邦哉は心の内で思った。
少しの間、耳が留守だったようで、綺麗な青色フレームの眼鏡をかけた女性所員はまだ伝え残した事があるらしい。
「クリスタルです。」

「は?」邦哉は思わず聞き直してしまった。

綺麗な青色フレームの眼鏡をかけた女性所員は言った。
「わたしの好きな妖精はクリスタルをコアにして誕生するのです!」

「それが? 何を言っているのか分からないのだが」俗に言う“カタブツ”な邦哉である。

綺麗な青色フレームの眼鏡をかけた女性所員が熱の入ったトーンで迫る!
「彼女を表現するならば、OSサーディアではなく、“クリスタル・サーディア”が正解ではないでしょうか!」

完全に本筋からはずれていたが、こういうやり取りも悪くないと納得できる自分がいた。
「クリスタル・サーディア、どうかね?」合点がいった邦哉は、口の横に平手を立てて拡声器のつもりで、わざとらしく大きな声で言った。

壇上、両脇に収まる幕の邦哉が出てきた方から声が聞こえてくる。
「クリスタル、OSではなくクリスタル。あたしの固有名称うふふふふ」

「どうやら気に入ったようだぞ。」邦哉が通訳する。

ドッと会場が湧き上がる! 何故? やっぱり分からないのだが、当人たちが盛り上がっているならそれもいいだろう。
だいぶ横道に逸れたので、仕切り直して今一度、邦哉は他に質問が無いか会場に確認した。すると・・・

「性行為は行えますか?」後ろの方から声が聞こえてきた。
「答える必要を感じない!」 邦哉は取り合わない。「質問は挙手の上、起立して行なうようにお願いします。」

「受胎機能は?」これもまた後ろの方から聞こえてくる。
「答えられない!機密事項だ。それから質問は挙手の上、起立して行なうようにお願いします。」邦哉は再度ルール順守を呼びかけた。

「恋愛感情はプログラムされていますか?!」後ろの方からである。低く手を挙げて勝手に立って質問を始めていたが、これはセーフでいいだろう。

「感情については、稼働時間に比例して経験値が上昇するのを併合するように表面化してくるものと推測している。」生真面目な邦哉であった。「それに、感情は、多分、プログラムに頼るものではない。・・・と、思う。」

そして邦哉は、総会参加者の殆どの関心がエロティックな事にしかないことを察して、総会を締めるべくその場で司会と打ち合わせると、速やかに閉会に入った。
「これは挑戦です。我々はこれまで機械を人間に似せることに挑戦してきました。クリスタル・サーディアは人間を機械に寄せることに挑戦します。これは人間が機械に従うという事ではありません。こちらからも機械に近づく努力をするという事です。この技術研究によって、義手義足・人工臓器開発は新たなステージへ至るでしょう!」






星岬メモ:“アークロボット”について
手短に補足すると“実体を伴わないロボット”つまりプログラム主体という事なのですが、これはソフトウェアとハードウェアがセットでなくても機能する事を指します。但し、物理的に干渉する必要が生じた場合には、触って感じることができる固定した物質的な装置が必要となります。
アークロボットの利点についてですが、例えば本機から物理的移動距離は相当あるが、通信手段は確保できる場合、アークロボットは通信によって移動を完了して、現地調達した装置を利用して任務に当たる、という事が出来ます。移動時間・輸送費の節約が期待できます。
ソフトを邦哉が、ハードを私が各々開発しました。

恐らく読者諸氏は、人工人間装置についても私からの説明を求めている事だろう。だが、今は話すことはできない。慌てずとも、いずれ話せる時が来るだろう。今は物語を楽しんでいてくれたまえ。
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