クリスタル・サーディア 終わりなき物語の始まりの時

蛙杖平八

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CHAPTER 17

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星岬技術研究所南研究棟2階 開発主任室(兼紀伊邦哉自室)

さてさて大変だ。今のはウチの・・・というか、我が社の連中だぞ。それも1人や2人じゃない、何十人もいたぞ。日勤の連中は早出なのか?夜勤の奴らはサボタージュ、としか考えられない。どうしてくれようか? じゃなくて、何やってんだ?まったく。
考えても仕方ない。先ずは星岬に話を・・・
邦哉は内線を使おうとして現在の状況を思い出し歯嚙みした。今、内線は使えない。
そうだった、一見雑に見えるがポイントをきっちり破壊してあるあたり、閉口するしかない。このロボット共、メモリーを解析したら強制的にフォーマットかけて雑用に再プログラムしてこき使ってやる。
チラッと見たその視線の先には針金で縛られひと塊にされたロボット2体。内1体は赤く眼を光らせてこちらをジッと観ているようだ。
こっちを見ている・・・
見て・・・
どこかで見ている、アイツが!「ターニャ!、聞こえるかターニャ!」邦哉はこの針金で縛られた2体のロボットの内、まだらに毛がむしれた黒い方がターニャのリモートで動作するのを知っていた、訳ではない。むしろ逆で、首が取れているピカピカな方に見覚えがあったのだった。それで黒い方がターニャの分身もしくは関係する何かではないかと推察したのだが・・・・・・あれ?
瞬間、邦哉は分からなくなってしまった。なんで星岬のロボットが、私のオフィスを襲撃するんだ?
なんで?

色々おかしくないか?
邦哉は勘繰り始めた。開かずの間で息も絶え絶えの星岬を介抱していた私を乱暴に払い除けたあの三角形のシルエットは、今眼の前にいる首のないこのロボットではないか? そしてこのロボットが私のオフィスを襲撃した。コイツの行動を見て、答えを導こうとするなら、自分に対して悪意の方に傾くしか考える余地がない。
そしてこのロボットは星岬の、少なくとも彼の口から何と言ったか?コイツの呼称が出ている以上、無関係ではないはずだ。コイツ独自の思考によって、行動しているのでない限り、何者かの命令によって行動していると考えられる。その何者か、というのは何者か? 
星岬はどうだ? 考えたくはないが、このロボットの行動を遡源する時、そこには星岬がいるのではないか? オゾンを弄くった犯人は、今眼の前にいる首のないこのロボットだと仮定するならば、状況を整理するほどにしっくりくるような気がするではないか。

「・・・ターニャです。誰か呼びましたか?」

思いのほか深く思考していたようだ。黒いロボットから声が聞こえている。
黒いロボットは赤く輝く目から輝度の高い光を放つと文字通り首を回して周辺をぐるりとスキャンして、邦哉に向き直った。

「旦那、呼びましたか?」

詳しくは分からない。いつぞや義手義足を手掛けたゴリラだよな、という程度の認識だった。研究所に来たのもここ1~2ヶ月だったと思う。ただの手負いのゴリラだったはず。夕べの星岬の新たな人生の門出を祝う会にて顔を合わせているが、オーダーの際に話したくらいの面識しか持っていなかった。いや、単純に興味が無かったのである。
それが今侮れない程の言語力を持っていると再認識させられた。
どういうことだ? 何が起きている?

「用がないなら、これで・・・」

ターニャが通話を終わろうとしているので、慌てて返答する。
邦哉はどこまで話が通じるものかと考えつつ、本心からの言葉をぶつけてみた。

「待ってくれ! キミに頼みたい事があるんだ。キミにしか出来ないことだ、恐らく。」

「俺に頼み事ですか? 聞くだけ聞きましょう。何です?」

邦哉は少し思考を整理した。
実は・・・と言いかけて次の言葉を発するまでにかなりの間があったらしい。
ターニャが邦哉の思考を汲み取って話を促した。
 
「姐御に何かあったんですね?」

理路整然としている。邦哉は感心しながらも、そのような相手であるなら信頼できると判断して話を進める事に決めた。

「実は困った事になっている。現在サーディアはヒューマノイドデバイスの制御データ収集の為、研究所南西5kmに拡がる緑地帯で連続走行試験を行っているところだった。
それをどこで嗅ぎ付けたのか当研究所の所員たちがぞろぞろと付いて回っている。
現在、走行試験開始から2時間半になろうかという所だ。
既にサーディアには帰還命令を出してあるが、通常人ならスタミナ切れや脱水症状を起こして倒れてもおかしくない頃合いだ。」

「事情は分かりました。それで俺は何をすれば?」

ターニャの素っ気ない言葉に若干の苛立ちを感じながら依頼事を口にする。
「星岬と連絡が取りたい。キミなら何とか」

「違うんじゃないですか?」
まだ、話の途中だというのにターニャは邦哉の話に割り込んだ。

こいつ、何を言っている!? 人を見透かしたようなことを。ええい、こうなりゃヤケだ! 邦哉は、自分が何故これ程熱くなっているのか分からなかったが、今一番やりたいことを素直に口にした。
「サーディアの回収をお願いしたい」

「そりゃいけねぇ。 回収するなら所員たちの方ですぜ、旦那」
二つ返事でOKしてくれるものと想定していた邦哉は、ターニャの返答にひっくり返りそうになった。
そんな邦哉のことなど(見ていないので)全く気にせずターニャは続けた。
「俺のような部分的に機械化している半端モノと違って、姐御はアークロボットだ。全てのパーツを有機物で構築しているヒューマノイドデバイスを完全にコントロールしている。その為のOS“SAHDEAR”は伊達じゃない。大丈夫です。」

邦哉は驚きを隠せなかった。この猿はいったいどこまで把握しているのか?
「キミは随分と詳しいんだな。」

「姐御とはOSという盃を交わした義姉妹だと勝手に思ってます。だから、少しは分かります。それよりこういう時、人間の集団心理は普段抑制されている部分が解放される傾向にある。暴力、闘争心、破壊衝動。ここ(星岬技術研究所)の連中が暴徒と化す。一人が始めたら、もう止まらない。最悪の場合、集団レイプが行なわれる! 急げ、旦那!」

ターニャの仮説に大きく頷くと邦哉は行動に入った。
「もっともな意見だ。悠長に連絡とってる場合ではないな。手を貸してくれるか? ターニャ!」

「はい、喜んで!」 
今度こそ二つ返事でOKをしたターニャに対して、邦哉はもう無関心ではいられなくなっていた。
どこで話をしていたのか分からなかったが、一瞬外が騒がしくなった所を勘繰るに、ターニャが出場していったと思われる。全く、騒がしい奴がまた増えたか。だが悪くない。
「旦那、俺は先に行って先頭集団を食い止めます。なるべく大きな車で来て下さい。」

「現場で落ち合おう!」
車の手続きのため本部棟総務部へ急ぐ。内線が使えていたら・・・そう思って初めて気づいた。内線が使えていたら、自分は星岬と直接連絡を取り合っていただろう。そうしたらこの出会いは無かった。この出会いは果たして偶然か必然か?




星岬技術研究所近郊 朝の農業地区にて

雑木林と畑と住宅地が整然と混じり合った景色が拡がる農業地区、小鳥のさえずりが聞こえてくる頃には、通勤通学で道路は混み始めていた。たくさんの人が往来しているその頭上を、街路樹だったり或いは街路灯だったりを雲梯のように利用してターニャがサーディアを目指して道を急いでいる。
ターニャは口に出さずにサーディアに呼び掛けてみた。
何度か呼んでいると返答があった。                           
「はい、こちらサーディア。ターニャ? どしたん?」最後の所は“どうしたの”の意味であろう。なんにせよ通話が可能になったので、ターニャは手短に状況を説明した。
走りながらサーディアは「そう、ありがと。あたしはこのまま行くね。」と言うと、何の愛想もなく行ってしまった。
兎にも角にも姐御の無事は確認できた。これ以上の進攻は意味を失ったわけだ。
器用に街路灯のてっぺんに留まると、研究所スタッフの一団を待つことにする。



待つ事にしたのだが、サトウキビの味が無くなる時間くらい待っても、バケツの枝豆が全部腹に収まる時間くらい待っても、一団は一向に現れずに人々の往来も落ち着いてきた。

さすがに退屈して、もとい待つことに焦れて移動しようとした時、一団が歩いて来るのが見えた。

「ここから先にはオレを倒さなけりゃ行けないものと承知してもらおうか?」
街路灯のてっぺんからひらりと歩道に降り立つと、ターニャはどこで仕入れたのかネタ元不明のセリフを芝居っ気たっぷりに演じてみせた。

それを受けて、こちらも芝居っ気を出して・・・いや、こっちはマジ、らしいです。
「昨日はよくも後ろ頭をどついてくれたな!?」

「あん時の助兵衛か」ターニャはやや冷ややかに、しかしハッキリと聞き取れるように言った。

「そこを除け! シルバーバック」こちらはターニャに対して斜に構えて決然と言ってみせた。

「シルバーバックと言ったか?」ターニャの表情が曇る。

「おう、言ったがどうした?全身シルバーバック!」明らかに目標をバカにしているモノ言いだ。

「重ね重ねふざけたことを。シルバーバックはオスに与えられる強者の称号」声のトーンを落としてターニャが呟く。

「そうかい? だったら良かったじゃないか。」これ以上ないくらい嫌みな言い方で、無駄に相手の怒りを煽っていることに案外気付いていない悲しさよ。

「俺は! 俺はメスだあああああ!!」魂の叫び。
 
「え?」やっちゃいました。
ぐしゃっと鼻骨骨折。 怒りと悲しみの鉄拳制裁、キミは拳の先に何を見たのか・・・

当初の目標を見失って間もない。未だ劣情の臭いを漂わせている先頭集団(特に先頭の二人)に少しだけオスを嗅ぎ取ったターニャからまさかの一言が出る!
「そんなにスケベがしたいなら俺が相手をしてやるよ」

「失せろ発情メスゴリラ! 我らが求めるは白衣の妖精のみ!」酷い奴らです。

「は、は、は、発情メスゴリラぁ? オレを色ボケ呼ばわりするな!」愛と憎しみの鉄拳制裁、キミはそれでも立ち上がるのか?

そうこうやってるうちに、最後尾が追い付いてきた様子。
ごく普通の緑多き街角に、白衣の集団が結集しつつある。
それを単身で食い止めているモノに声が掛かる。
「ターニャ!」

呼ばれたターニャは一気に元気を回復させた様子。覇気が戻った声で応じた。
「旦那!」

遅くなったことを詫びながら邦哉は車を路肩に停めた。

「旦那、姐御は?」ターニャは、まず安心したくて確認した。

「無事に帰還したよ。キミのおかげだ、ありがとう。今は部屋でクールダウンの最中だろう」
車の使用許可に時間を取られている間にサーディアは開発主任室に帰還していた。
すっかり安心したターニャに勢いが出てきた。

「ほら、お前ら、お迎えが来たぞ。サッサと乗りやがれ!」

荷台のアオリを開放する事無く、一人づつではあるが荷台に放り込む。
白衣姿がもういないのを確認したターニャだったが、念のため自分はひと回りしてくると言って、サーディアに走破ルートを教えてもらうと、速やかに任務に着手した。
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