クリスタル・サーディア 終わりなき物語の始まりの時

蛙杖平八

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CHAPTER 16

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星岬技術研究所南研究棟2階 開発主任室(兼紀伊邦哉自室)

「・・・何をしようというのかね? サーディアさん」

邦哉はちょっとだけどきどきしながら、出し抜けに脱ぎだしたサーディアに尋ねた。

「データ取るんでしょ? なら、初期値を設定しなくちゃ」

「それで、どうして裸になるのかな?」邦哉は若い娘が放つむせるような体臭を感じて
目まいを覚えた。

「初期値と云ったら、装置のみの状態をいうのじゃなくて?」

「そ、そうか」この辺が手打ちプログラミングの限界なのかもしれない、と邦哉は思った。咳払いをして自分を立て直すと「せめて上下の乙女ポイントが隠れる程度に何か着てくれると安心なのだが・・・」と可能な限り具体的に言うと、見たい訳ではないのだが天井を見ようとしてしまう可愛い自分にヲイ!とツッコミを入れる別の自分も垣間見えてもう何が何だか・・・。

「これなら多少なりデータがあるから、初期値設定にいいでしょ?」そう言ってサーディアは白衣の裾を翻してその場でくるっと回ってみせた。

こういうのをなんて言うのだっけ? 邦哉は何故かそわそわして落ち着かない自分に戸惑いながら、悪い気分でもないなと思っていた。



星岬技術研究所近郊 早朝の雑木林にて

朝モヤに煙る雑木林の中を、何者かが走っている。
どこかへ向かって急いでいる、という様子ではなくて、軽快に流している、といったふうに見える。ランニングするには雑木林の中というのはいささかテクニカルなコース設定だと思われるのだが・・・。
それにしても、特筆すべきはその者のいで立ちであろう。朝もやで視界は少なからず宜しいとは言えない、という事を考慮したとしても、それはどう見ても“白衣”で、時々風を孕んで垣間見える胸元に着衣は見当たらない。また、テンポよく運ばれる足先は何も履いておらず“裸足”で、いったい何のプレイだ?と言いたくなる状況である。そんな状況でランニング出来る者とはいったい何者?! 答えは直ぐに!

「定時報告
 デバイスチェック
 経過時間:2時間17分
 走行速度25km±5km、安定して走行を継続中
 血圧・脈拍共に緩やかに上昇中
 :付帯項目・体温緩やかに上昇中:現況、走行に支障なし
 脚部に軽微な損傷多数
 :痛覚確認・状態・誤差の範囲
 :表皮損耗・状態・誤差の範囲
 :出血・若干:現況、走行に支障なし
 総合評価
 :現況、走行継続可能
 走行を継続」

「サーディア、聞こえるか?」(←ランニングしているのはサーディアでした。)

邦哉は開発主任室の仮設PCに映っているサーディア視点のライブ映像に違和感を感じて声を掛ける。
「感度良好」サーディアが返答する。

「時々、何か人影のようなものが見えるような気がするのだが、何か異常はないか?」

「本装置に異常についてのデータ無し。Syntax error 具体的且つ簡潔に再入力」

サーディアは、成人女性の姿をしていてごく自然な言葉を使って応対して見せるが、その現況は幼稚と紙一重にある。
邦哉は時間をかけて考えてから再入力した。
「サーディア、周囲に人間は居るか?」

「探索中・・・。・・・。・・・レーダー有効圏内に反応多数。」

こうしたやり取りの間も、サーディアは走っていた。
「サーディア、音は拾えるか」

邦哉は嫌な予感を覚えつつ、音に集中した。

「・・・だかはく・・・は・・・は・くい・・・はだかは・・・」

サーディアに後方の映像を送るよう命ずる。
「了解。後方の映像を送る。」通話は何をしていても可能であったが、映像を得るには実際にそこを見なくてはならない。サーディアは肩越しに後ろを振り返った。

そこにはくたびれてフラフラになりながら尚、走り続けようとしている研究所スタッフの集団が、まるで白衣のゾンビと化してサーディアに向かって群がる様子が映し出されていた!

「うわあっ! びっくりした!」邦哉は思わず突っ張った足で床から軽く跳び上がると、椅子から落っこちそうになった。
「データ収集は中断!サーディアは全力で紀伊コントロール(開発主任室)へ帰投。」

「サーディアより紀伊コントロール、命令確認。直ちに全力で帰投します!」


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