クリスタル・サーディア 終わりなき物語の始まりの時

蛙杖平八

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CHAPTER 28

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星岬技術研究所本部棟F20 展望レストラン「ダンデライオン」深夜営業中

「ねぇ、どう思って?」
レジ―は真剣な眼差しで問いかけた。
さっきまでの酔いは何処へやら、といった感じである。

「あぁ僕も聞きたい、是非」
仲良が同調する。
仲良はブランデーの香りを楽しんでいただけなので殆ど酔ってはいないようだがその表情は硬い。

「なんらってぇ!?」
根倉については残念な状態であるとしか言いようがない。






「・・・」
レジ―と仲良はお互いに頷き合うと根倉に構わず話を進めた。

「所長、絶対に怪しいよ」仲良は確信がありそうだ。

「本当に本当の所長じゃないと思って?」レジ―は疑いが濃厚といった感じでいる。

「小生はホンモノであって本物ではない、と思っておる。」
根倉が上半身をフラフラと揺らしながら発言する。

レジ―と仲良は再びお互いに頷き合うと、少しだけ根倉を意識した。

「小生思うに、何らかの理由で退行現象のような事態に、所長は巻き込まれたのではないかと推察する」
根倉はかなり酔っていると思われたが、発言内容は的を射てると感じられた。

「その根拠は?」仲良が尋ねる。

「さっき一緒に呑んだ所長は、間違いなくホンモノだった。だが、同時にただの人間だった。我々と同じ、ね。」
根倉は勿体ぶって回答を渋った。

「それで?」レジ―がやや怒気を孕んで先を求める。

「あ、あぁぁぁ怖い怖い。それで、そ、それで、小生気が付いたのは所長が開発主任を分からなかった下り。開発主任は所長と深く強い絆で結びついているモノだと思っていたのだけれど、そんなふうに付き合っていた人間を、そんな簡単に忘れてしまえるものだろうか?」
根倉は搾り出すように話した。

「そう、そうなのよ」
レジ―が話を進めた。
「あの所長は“らしくない”のよ。開発主任だけでなく、サーディアちゃんのことさえ分からなかったみたいだし。」

「分からなかった、というより、知らなかったように見えたけど・・・
レジ―は本当に裸白衣のことが好きなんだな」仲良はアゴをいじりながら受ける。

「忘れられるモンですか」脇を締めながら両拳をギュッと握り、レジーが奮い立つ。

仲良が話しを戻す。
「らしくない・・・か。そうだな、確かにらしくない。」

「ねぇ、2人共。今から開発主任のところに行ってみない?」レジ―が誘う。

「いまって? いま!? 今午前2時半だぞ?」仲良が常識的判断で応える。

「関係無い。行こ!」レジ―は行く気満々で立ち上がった。

「おいおい、マジかよ」仲良がやや否定的な意見として“マジ”を使う。
「所長の“らしさ”といったら、第3実験室が気になるところだが」と、更に意見を述べる。

「あら? それも気になるわねぇ」レジーが失念していたとばかりに意見に乗ってきた。

「開発主任のところは(夜が)明けてからの方が良くないか?」上手く誘導に乗ってくれたと嬉々として意見を出す仲良。

「・・・そうね。じゃあ、行きましょ。・・・・?」レジーのなかでは今日これからの行動予定は確定したようだ。
だが、すぐに問題が発生した。

「どうした? レジー」仲良が尋ねた。

「オーダーシートは?」レジーが探し物を伝えるが、見た感じ何処にもないようだ。

「見当たらないな・・・」仲良がポツリと言うと、3人の脳裏に閃くものがあった。

「!」
この時、それぞれが予想した結論が人生を左右するかもしれない分岐点となり得るなどと大げさに考える者がこの3人の中にいただろうか。
3人は互いに顔を突き合わせると一斉に支払いカウンターになだれ込んだ。
厨房から手をタオルで拭いながらササッと出てきた店員から、それぞれの予想通り会計は既に所長(星岬)が済ましている旨を知らされると、3人して“ギャーッ”となった。

「ちなみに・・・」

禁断の呪式を口に出しそうになる瞬間を察知した仲良が、瞬時に止めに入る。
「よせ! レジー!」

「野暮は無し、ですよ」根倉が“にっ”と笑顔をみせた。

「でも・・・」
どうしても会計内容が気になるらしいレジーだったが
「野暮は無し! 野暮は無し!」
「ココは“ごっつぁん”で」
男子は両名、内容の開示の必要なしでまとまっている様子。

「やっぱり・・・」
あくまで会計内容にこだわるレジー。
しかし、当然といえば当然かもしれない。
かなり飲んだ。それは確かだ。飲み代も相当イッただろう。
でも、今夜はそういう気分だったのだ。
あのトドメのブランデーが所長のオーダーだったにせよ、高額商品なのは間違いなし!
タダ酒にして済ますには存在が際立っているではないか。
幾らしたのか、知っておくべきだとレジ―は結論を出した。
その上で男子2人に自分の判断を伝えた。

「やっぱり幾ら飲んだのか今回は知っておくべきよ。2人は知らずにいたらいい」

「会計内容を教えて下さい。」
レジーの要求に応える形で店員はレシートを見せた。
そしてレジ―は飛び出した目玉がレシートを突き破って床に転がるのを感じて昏倒した。





ベッケン州南西に拡がる森にて

盗賊団“黒い疾風”を難無くやっつけてしまった邦哉たちは、静かに夜明けを待つつもりだった。
だが、そんな悠長な事をしていられない状況に陥った事に邦哉は気付いたのだった。
この気付きは果てる事のない時を生き抜く為に邦哉に備わった能力なのかもしれない。
生き延びるために邦哉はアークロボットたちに状況を説明し、事態の改善を図る必要を感じていた。


「キミたちが来た時点で、既存の歴史は意味を失った。」唐突に邦哉は状況説明を始めた。

「その服、良く似合ってるわ。それに良い色」サーディアはターニャのセンスの良さに気付き、素直に褒めた。

「本当? ありがとう姉御、お世辞でもうれしいよ。」ターニャも素直に気持ちを表した。


「私にしても、3人ひとまとめにしての時空移動は初めての事で、何が起こるか予測不能だ。現にたった今も、私たちは労せずして盗賊団を撃滅してしまった。当時、私が独りで立ち向かったとき、黒い疾風を追い払うのに私は腕一本失ったほど苦戦したものだ。」
武勇伝を交えながら、邦哉はまず不安要素を取り上げた。

「あら、あたしの言語エンジンはお世辞なんて使うように出来てないわ」サーディアはOS故に人間の考え方を完全に真似る事を目的とはしていないため、時として会話がかみ合わなくなることもあるやもしれない。本人は本音を返しているだけなのだが。

「キビシイなぁ、姉御。社交辞令ってヤツでさぁ」元ゴリラのターニャは、元々が人間に近しい為か、サーディアよりも人間っぽさを感じさせるようだ。


「黒い疾風をこんなにも簡単にさばいてしまえる程、私たちの能力はここではケタ外れに高いといえるだろう。」邦哉は自分たちの異質性を指摘した。

「社交辞令って、あーた! あたしが思ってもいないことを言ったってこと? バカにしないでよ」反応としては良くないが、これも全く無しでもない。サーディアは自分に忠実なだけである。

「バカになんてしてないよ!」ターニャも自分に忠実なだけである。


「つまり、極論になるが、ここに於いて我々の存在はオーバーテクノロジーと言っていい。」邦哉はひとつの仮説を立てた。

「いいえ、あーたはあたしをバカにした!」サーディアは間違っている訳ではない。

「バカになんてしてないって! 姉御の分からず屋!」ターニャも反応が間違ってる訳ではない。


「何とかしないとこの時空での自己という存在を保持できず、最悪無かったものになってしまうぞ!」問題を明らかにした邦哉は、皆で解決策を考えたかった。


「分からず屋ですって!?」思わず声を荒げるサーディア

「言いがかりだ!」自己弁護に語気を荒くするターニャ

「少しはヒトの話しを聞け!!!」遂に怒鳴る邦哉!


「うるさい!」ー>サーディア
「うるさい!」ー>ターニャ
「何だと!」ーー>邦哉

邦哉は自分たちの存在の危機が迫っているのに気付いたので何とかしたかった。

サーディアはプログラムに従って効率良く会話した結果が現状なので、なぜ関係修復が必要になっているのか分からず処理落ちを起こし始めていた。

ターニャはただ普通に会話をしただけだったのに訳が分からなくなり、ムシャクシャして暴れたい衝動にかられたのだった。

最初の一撃は暴走したサーディアとターニャだった。
ロボット同士で始めるのなら傍観者で居られたが、その一撃の向かう先は邦哉だった。
アークロボットとその類似品?はリンクしているかのようなタイミングで右の平手打ちを繰り出した。
ふたり、否、2体を殴り倒すことに抵抗感が消し去れないため、僅かに迎撃が遅れたが、ボクシングスタイルに構えた邦哉は上半身を引いて彼女らの掌撃をかわし、戻る動作に乗せて左手を繰り出して、相手の右肩を流れるままに押してやる。
空振りした平手打ちの勢いも止まらぬうちに、肩を押されたサーディアは、重心移動を制御しきれずターニャにもたれかかった。
予期せずサーディアに重心移動を崩されたターニャは、バランスを崩して体勢を失い膝をついた。
邦哉は攻め込まず引かず両腕の肘から先を立ててガードの構えを取った。
ターニャとサーディアの出方を見ている。
膝をついたターニャは悔しさのあまり握った拳を地面に叩き付けると、勢いもそのままに跳び上がった。
跳び上がったターニャに押し退けられる形になったサーディアは、尻もちをつく羽目になった。
「やん」
場違いな愛らしい声に思わず苦笑いした邦哉だったが、跳び上がったまま降りてこない者の動向を忘れてはいなかった。
尻もちをついていたサーディアは、何事かブツブツ言いながら立ち上がると邦哉の正面に立ち、構えた。
その構えからサーディアは体術を使うものと推察された。
一歩、また一歩と邦哉の間合いに侵入を試みるサーディア。
こんな事をしている場合じゃないのだ。
“それにしても”と、邦哉は考えていた。
“それにしても、私はサーディアに護身術の類をプログラミングした覚えは一切ないのだが・・・というより、私はサーディアに攻撃衝動を意図して起こさないようにする攻撃衝動抑制プログラムを常時走らせて暴力的にならないように設定して制御していたと云うのに”。
邦哉の思案は尽きない。ココへ来て一番の驚きは、サーディアが既に人間にインストール可能な程のバージョンアップを果たしていた事だ。しかも通信回線と言っても無線回線で、装置としてのただの人間への物理的な接触がない状態での、それも死体へのアップロードだ。生命体としての活動を終えてしまった肉塊内に入り込み、生物本来の機能に無い電気信号による制御のみの擬似生命活動。ただのプログラムの域を大きく超えた存在感。言うなれば電気生命体とも言えるレベルにまで昇華されているとみていいだろう。
“隙のない動きだ・・・”などと感心している場合ではなさそうだ。
サーディアは直線的に間合いを詰めてくる。
一方、邦哉のボクシングスタイルでのガードは、身長差で腹から下ががら空きになるので相手に合わせてガードを下げた。
足元はリングの上ではないので凹凸が激しく危ない。ステップをするのも止めて地形を把握しやすいすり足に変更して対応した。
余談になるが、サーディアが使用中の人間装置(サディ)は、身長174cm程ある。
邦哉との身長差はおよそ20cm程度ある事になる。
サーディアが邦哉にプレッシャーをかけている。
だがリーチは邦哉の方が長い。
間合いを詰めすぎるとサーディアは邦哉の攻撃を確実に受けることになる。
邦哉の戦闘力は盗賊団の件で明らかだ。
いよいよ、というタイミングでサーディアが踏み込んだ瞬間、怒号と共に頭上からターニャが邦哉に襲いかかる。
邦哉はサーディアが屈むような動作に入ったのを見て足払いにきたと判断、ターニャが自分目掛けて樹上から跳びかかって来る目的はサーディアとの挟み撃ちを狙っての事だと読んで一挙動でサーディアの背後に回り込んだ。
サーディアは回り込まれても動じず、両手を地面に着くと片足を後ろに蹴りあげて邦哉を攻撃した。どうやら攻撃スタイルは体術だけではないらしい。邦哉は自分に向けて繰り出された足を掴むと避ける動作に載せて引っ張って半回転、後方に放り投げた。一瞬遅れてターニャがサーディアのいた所へ着地、邦哉は背中を見せている。ターニャは迷わず着地の反動を利用して跳びかかろうとしていた。その瞬間にターニャは首に圧力を感じ、なぎ倒された。一瞬、息がつまって動きが止まる。地面に横になりながらターニャは後ろ回し蹴りを食らったと理解した。視界の中にダメージを報告するウィンドウが次々に表示されるが気にしていられない。転がるように後退して距離を取った。ターニャは自分の身体がジットリと湿っているのに気が付いた。汗? これが冷や汗というヤツか!
一方、サーディアは藪の中で宙吊りになりながら、空を見上げていた。
“姉御、聞こえるか? 姉御?”
ターニャが通信してきた。
“聞こえるわ”
“姉御、もう充分だと思うが?”
“そうね”
そんなやり取りをしているなど邦哉に解るはずもないのだが、サーディアもターニャもじっと沈黙して様子見の状態になっているようなので、邦哉は提案することにした。

「一旦、休戦にしようじゃないか」

「賛成」
「異議なし」サーディアとターニャはまるで悪びれた様子もなくむしろ明るさを感じる程晴れ晴れとした声色でハッキリと返答した。

「それにしても、邦哉がこんなに強かったなんて」サーディアが今の戦闘について感想を述べた。

「俺もこの身体の耐久限界ギリギリで応じる事になるとは思わなかった」
ターニャもこの話題に参加する。

「もしもキミらが人工人間装置を使用していたら、この結果にはならなかっただろう」
邦哉は今の戦闘行為を大きく受け止めていた。彼らは今、“故人”の身体の心臓を電気でコントロールする事で血流を確保し、生命活動を再開させることで維持している。
当然のことだが故人の脳が再開した血流を受けて回復基調になることもあろう。
その時、アークロボットは人間装置の元の主の制御か支配かを迫られる時があるやもしれない。その時が来たら、・・・いや、今は他に考えなければならないことがある。

「そうかもしれないけど、少なくとも邦哉は並ではないと思うよ。だいたい、最初から最後までオレ達がケガとかしないようにしてたでしょう?」ターニャが肩をすくめて見せる。

「言わせてもらえば、キミらに足りなかったものは経験或いは鍛錬だ。
それはいいとして、せっかく着換えたのにもうダメにしてしまったな」
邦哉は話していくうちに、自分の内に煮えたぎるモノを感じて愕然とした。

「あら、あらぁ・・・ホントだわぁ、どうしましょ?」
3人はお互いを見ながら笑い合った。







星岬技術研究所本部棟22階 研究所所長室(兼星岬開自室)


「う・・・・・・ん・・・・んん・・・」

星岬は夢見が悪く、うなされていた。

「お前は・・・誰だ!・・・?」

「(オレか? オレは〇×△□だ)」

「誰だって? もっと分かるように言ってくれ!」

「(だから〇×△□だって。忘れたのか? ひどいなぁ)」

「誰だかわからんが、私に何の用だ?」

「(用事が無ければ話しもしないのか?)」

「いや、そう言う訳ではないが・・・」

「(まぁいいや。必要なら呼んでくれ、邪魔したな)」

「・・・必要なら呼べだと? どういう意味だ」

「(言葉通りだよ)」

「何のことだかサッパリわからない。まるで私が困ってるような口ぶりではないか」

「(どうやらオレは、キミには必要とされていないらしい)」

「おい!ちょっと!待ってくれ! 何を言っている? いったい何だと言うのだ」

「(じゃあな)」

「な?ちょっ! いったい何なんだ?!」

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