31 / 51
CHAPTER 30
しおりを挟む
星岬技術研究所 南研究棟2F
星岬は最近、頻繫にココへ来ていた。
小さな四角い小窓が付いたドアには“備品消耗品保管室”と表示されている。
備品消耗品の管理に目覚めた訳ではない。
誰かの意見が欲しい時、
誰かの助言が欲しい時、
アドバイスが欲しい時、(どれも同じか)
とにかく仕事が煮詰まって進まない時、何故か気が付くとココへ来てしまっているのだ。
ただココへ来て引き返すのも格好が付かないので中へ入るのだが、それこそ時間の無駄でしかない。
そう解っているのだが、まるで生活のリズムであるかのように自然に、当たり前のことのように足が勝手にココへ来てしまっているのだ。
そんなことが何日か続いたある日の午後、難航していた案件を久しぶりに自分だけでやり遂げた星岬は、誰かに話したくてウズウズしながら“備品消耗品保管室”前に来てしまっていた。
手には缶コーヒーが2本握られている。
「私は一体何をしているのだ!?」
そこには誰もいないと云うのに、と、寂しい考えをした時だった。
星岬は自分が何かを忘れているのではないか?という疑念を抱いた。
否、忘れているというのは正確ではないかもしれない。
何故なら、忘れているというのは、確かに存在していた、経験していた、という事が前提になるからだ。
まるで悪魔とでも契約してしまったかのような話だ。
もっとも、悪魔が存在するなら、の話しだが。
だが悪魔よりもタチが悪い話ではないか。
少なくとも自分は何も得ていないのだから。
星岬は、自分が何か特別に大事にしていたものを、その記憶、時間、その他諸々、かけがえのないものを奪われてしまっている!そう確信した。
そう考え至った星岬は、軽く会釈して通り過ぎていく研究員に「これ、良ければ使ってくれたまえ」と缶コーヒーを押し付けると、白衣の裾を翻してその場を後にした。
星岬技術研究所本部棟22階 研究所所長室(兼星岬開自室)
自室に戻った星岬は、モニター室と化している一角を前にしていた。
ココだ。
思い出すまでもない、最近までよく使っていた場所だ。
それはよく覚えている。
だが、ココで何をしていたのか、何故こんな部屋を作ったのか、全く思い出せない。
それこそ全くの謎だ。
もし、私が何かを思い出せるとしたなら、恐らくはココからだ。
星岬は呼吸を整えると、まずは部屋の中央でその存在をアピールしているゴツくて如何にも何かありそうなシートを細部まで調べることにした。
既に陽も暮れて外は闇に飲まれ真っ暗であった。
どうやらシートが自作の一点ものだと納得した頃には、そんなことすら忘れている事に極度に消耗が進み、疲労困憊してしまって1ミリも動きたくない感じだった。
このシートについて、他に判った事といえば、何処に繋ぐのか?アウトプット先が謎だが、所内の全監視カメラだけでなく、所内ネットワークにも接続されているようだという事。
そして、この椅子に座るだけで、この研究所のほぼ全てを監視可能とみていいだろう。
いや、監視だけではない、干渉も、恐らくはできるだろう・・・。
・・・
・・・(。´・ω・)ん?
私が?
なんでそんなことを?
もの凄い疲労感が星岬を襲った。
時間を確認しようと視界内の時計表示を探している自分に自分で驚いた。
今、何した・・・?
時計は執務スペース、応接セット、リビング、寝室に“置いてある”。
見に行けばいいのだが・・・。
星岬はその場に倒れると、そのまま意識を失いそうになったが、まだまだ処理しておきたい事も有れば、済ましてしまいたい用事もある。
とても倒れて意識を失っている暇などない!
そう思うと、自分でもそれと感じる程の変化をハッキリと身体に感じたのだった。
それこそさっきまで疲労感でどうしようもない状態だったのが今はどうだ?
まるで疲労感は感じない。
それどころかひんやりとした床の冷たさも感じない。
ははははは。
遂に自分はどうにかなってしまったらしい。
タイル張りの硬くて冷たい床に仰向けになると瞼を閉じて目頭を抓むようにして目の疲れを癒そうとした。
だが、やはり何も感じない。
私はどうしてしまったのだろう?
目頭を抓むのをやめてゆっくり瞼を開くと目の前にあるものにドキリとした。
何これ?
なんだこれ?
どうなってんだこりゃあ!?
思わず声を上げて何度も確認してしまった。
無理もない。
まさかさっきまで使っていた自分の手が、いつの間にか自分の手じゃなくなっていた。
いや、そうじゃない。
自分の手だが自分のではない。じゃなくて、ええい面倒な!
さっきまで有機体だった手が無機物になっている!
機械の手!
こんな義手、見たこと無いぞ!
いや見たこと無いってのは言葉通りじゃなくって、我が社の中では、って意味でだな・・・私は誰に説明しているんだ?
いったい自分の身に何が起こっているのか?
解ろう筈もなく、星岬は自分に言い聞かせるように“落ち着け”と声に出して暗示をかけた。
少しして落ち着きを取り戻した星岬は、反対の手を見た。
こちらも機械になっていた。
どうしてこうなってしまったのか?
一旦モニター室から出ると、洗面所へ向かう。
そして洗面所で鏡を見て星岬は絶句した。
私は・・・、どうなってしまったのだ?
シンプルなデザインのやや大きめな洗面台に映った姿は、白衣を着た金属製の骨格標本といった形容がぴったり合う感じの、そんなものだった。
はぁ・・・
音にならない溜息をつくと、両手を洗面台についてうつむいた星岬は、考えをまとめていた。
だが一向に考えはまとまらず、むしろ考えようとすればするほど何も考えられずに時間だけが過ぎていくようだった。
こうしていてもラチがあかない。
せめて顔くらいは何とかしよう!
そう考えた時、視界内に洗面台の引き出しを示す表示が出た。
突然の事で思わず空を掴む両手が視界内の表示の向こうに見える。
開けろ・・・って事でいいんだよな。
おっかなびっくりしながら、何の違和感も感じさせない機械の手を洗面台の引き出しにのばすと、ゆっくり引き出した。
中にはシリコン製のマスクがあった。
ご丁寧に植毛してあるではないか。
早速被ってみる。
「おぉ・・・!」
表情こそぎこちなくしか変えられないようだが、間違いなく“私の顔”だ!
引き出しにはまだ何か入っているではないか。
取り出してみると手袋だった。
なるほど、こういう事・・・
視界内にウインドウが開く。
“第3実験室”・・・だと?
来い、という事か・・・?
「よかろう! この招待、受けてやろう!」
考えるより、すぐに取りかかろう。
既に疲労感など微塵もなく、今あるのは好奇心。
星岬は、わくわくが止められないといった感じで自室を後にした。
星岬は最近、頻繫にココへ来ていた。
小さな四角い小窓が付いたドアには“備品消耗品保管室”と表示されている。
備品消耗品の管理に目覚めた訳ではない。
誰かの意見が欲しい時、
誰かの助言が欲しい時、
アドバイスが欲しい時、(どれも同じか)
とにかく仕事が煮詰まって進まない時、何故か気が付くとココへ来てしまっているのだ。
ただココへ来て引き返すのも格好が付かないので中へ入るのだが、それこそ時間の無駄でしかない。
そう解っているのだが、まるで生活のリズムであるかのように自然に、当たり前のことのように足が勝手にココへ来てしまっているのだ。
そんなことが何日か続いたある日の午後、難航していた案件を久しぶりに自分だけでやり遂げた星岬は、誰かに話したくてウズウズしながら“備品消耗品保管室”前に来てしまっていた。
手には缶コーヒーが2本握られている。
「私は一体何をしているのだ!?」
そこには誰もいないと云うのに、と、寂しい考えをした時だった。
星岬は自分が何かを忘れているのではないか?という疑念を抱いた。
否、忘れているというのは正確ではないかもしれない。
何故なら、忘れているというのは、確かに存在していた、経験していた、という事が前提になるからだ。
まるで悪魔とでも契約してしまったかのような話だ。
もっとも、悪魔が存在するなら、の話しだが。
だが悪魔よりもタチが悪い話ではないか。
少なくとも自分は何も得ていないのだから。
星岬は、自分が何か特別に大事にしていたものを、その記憶、時間、その他諸々、かけがえのないものを奪われてしまっている!そう確信した。
そう考え至った星岬は、軽く会釈して通り過ぎていく研究員に「これ、良ければ使ってくれたまえ」と缶コーヒーを押し付けると、白衣の裾を翻してその場を後にした。
星岬技術研究所本部棟22階 研究所所長室(兼星岬開自室)
自室に戻った星岬は、モニター室と化している一角を前にしていた。
ココだ。
思い出すまでもない、最近までよく使っていた場所だ。
それはよく覚えている。
だが、ココで何をしていたのか、何故こんな部屋を作ったのか、全く思い出せない。
それこそ全くの謎だ。
もし、私が何かを思い出せるとしたなら、恐らくはココからだ。
星岬は呼吸を整えると、まずは部屋の中央でその存在をアピールしているゴツくて如何にも何かありそうなシートを細部まで調べることにした。
既に陽も暮れて外は闇に飲まれ真っ暗であった。
どうやらシートが自作の一点ものだと納得した頃には、そんなことすら忘れている事に極度に消耗が進み、疲労困憊してしまって1ミリも動きたくない感じだった。
このシートについて、他に判った事といえば、何処に繋ぐのか?アウトプット先が謎だが、所内の全監視カメラだけでなく、所内ネットワークにも接続されているようだという事。
そして、この椅子に座るだけで、この研究所のほぼ全てを監視可能とみていいだろう。
いや、監視だけではない、干渉も、恐らくはできるだろう・・・。
・・・
・・・(。´・ω・)ん?
私が?
なんでそんなことを?
もの凄い疲労感が星岬を襲った。
時間を確認しようと視界内の時計表示を探している自分に自分で驚いた。
今、何した・・・?
時計は執務スペース、応接セット、リビング、寝室に“置いてある”。
見に行けばいいのだが・・・。
星岬はその場に倒れると、そのまま意識を失いそうになったが、まだまだ処理しておきたい事も有れば、済ましてしまいたい用事もある。
とても倒れて意識を失っている暇などない!
そう思うと、自分でもそれと感じる程の変化をハッキリと身体に感じたのだった。
それこそさっきまで疲労感でどうしようもない状態だったのが今はどうだ?
まるで疲労感は感じない。
それどころかひんやりとした床の冷たさも感じない。
ははははは。
遂に自分はどうにかなってしまったらしい。
タイル張りの硬くて冷たい床に仰向けになると瞼を閉じて目頭を抓むようにして目の疲れを癒そうとした。
だが、やはり何も感じない。
私はどうしてしまったのだろう?
目頭を抓むのをやめてゆっくり瞼を開くと目の前にあるものにドキリとした。
何これ?
なんだこれ?
どうなってんだこりゃあ!?
思わず声を上げて何度も確認してしまった。
無理もない。
まさかさっきまで使っていた自分の手が、いつの間にか自分の手じゃなくなっていた。
いや、そうじゃない。
自分の手だが自分のではない。じゃなくて、ええい面倒な!
さっきまで有機体だった手が無機物になっている!
機械の手!
こんな義手、見たこと無いぞ!
いや見たこと無いってのは言葉通りじゃなくって、我が社の中では、って意味でだな・・・私は誰に説明しているんだ?
いったい自分の身に何が起こっているのか?
解ろう筈もなく、星岬は自分に言い聞かせるように“落ち着け”と声に出して暗示をかけた。
少しして落ち着きを取り戻した星岬は、反対の手を見た。
こちらも機械になっていた。
どうしてこうなってしまったのか?
一旦モニター室から出ると、洗面所へ向かう。
そして洗面所で鏡を見て星岬は絶句した。
私は・・・、どうなってしまったのだ?
シンプルなデザインのやや大きめな洗面台に映った姿は、白衣を着た金属製の骨格標本といった形容がぴったり合う感じの、そんなものだった。
はぁ・・・
音にならない溜息をつくと、両手を洗面台についてうつむいた星岬は、考えをまとめていた。
だが一向に考えはまとまらず、むしろ考えようとすればするほど何も考えられずに時間だけが過ぎていくようだった。
こうしていてもラチがあかない。
せめて顔くらいは何とかしよう!
そう考えた時、視界内に洗面台の引き出しを示す表示が出た。
突然の事で思わず空を掴む両手が視界内の表示の向こうに見える。
開けろ・・・って事でいいんだよな。
おっかなびっくりしながら、何の違和感も感じさせない機械の手を洗面台の引き出しにのばすと、ゆっくり引き出した。
中にはシリコン製のマスクがあった。
ご丁寧に植毛してあるではないか。
早速被ってみる。
「おぉ・・・!」
表情こそぎこちなくしか変えられないようだが、間違いなく“私の顔”だ!
引き出しにはまだ何か入っているではないか。
取り出してみると手袋だった。
なるほど、こういう事・・・
視界内にウインドウが開く。
“第3実験室”・・・だと?
来い、という事か・・・?
「よかろう! この招待、受けてやろう!」
考えるより、すぐに取りかかろう。
既に疲労感など微塵もなく、今あるのは好奇心。
星岬は、わくわくが止められないといった感じで自室を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
