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CHAPTER 31
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星岬技術研究所 東研究棟 第3実験室(通称:開かずの間)
つい先日、何者かが室内に侵入するのが目的で破壊したとみられる壁の修理の跡も真新しい第3実験室の前まで来た星岬は、室内にいる謎の招待主を一応は警戒しながら入室した。
スライドドアが小さな駆動音をさせて閉じると室内は薄暗さと静寂を取り戻した。
蒸気を噴き出すシューという音が聞こえると、壁一面の計器類に灯りが点った。
最後に天井近くの極透明アクリル製のシリンダーが内容物を見せつけるように内側から発光した。
そこには、形といい大きさといい、まず間違いなく人間のものと分かる“脳”が保存液に揺蕩っていた。
演出としては上出来だっただろうに、星岬は全く動じていない様子だった。
「当研究所所長の星岬だ!」
殆ど警戒している様子もなく、星岬は何処かで聞いているであろう謎の招待主に名乗った。
ただ名乗った訳ではなく、自分が来た事を伝えるために発声したのだ。
返事が期待できるとはとても思えない状況だったが、案の定、何も変化はなかった。
星岬はほんの数分前の情報にアクセスするとココへ足を運ぶきっかけとなった呼び出しを検索した。
検索結果は“0件”だった。
星岬は動じなかった。
データの改ざん、否、情報操作は自分もアイツも百戦錬磨だった。
「小細工は通じない」
星岬は、脳が入ったシリンダーを頂く壁のような機械に歩み寄ると、左手を目の前にしてその手首やら指先やらを、まるで別の生物のようにくねくねと動かした。
それを不思議そうに見ていると思ったら、不意に裏拳を放つように左手を動かすと、壁のような機械のスチール製の外装を突き破り肘近くまで左手を突っ込んだ!
お、お、おおお、おお・・・ん・・・ん・・
まるで苦しんでいるかのように、壁のような機械からうめき声のような音がする。
そんなことはお構いなしに、突っ込んだ左手で壁のような機械の中をかき回すように探る。
無数に結線されているハーネスの中から目当てのハーネスを探り当てた星岬は、指先に内蔵している接触回線機能を使って壁のような機械のコントロールを奪いにかかる。
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さほどもかからずコントロールを奪うと、最近増設された装置が幾つかあるのが分かった。
おおおおおおおお・・・ん・・・
再び苦しそうなうめき声が聞こえた。
「抵抗は無意味だ、いったい何を隠している?」
星岬は突っ込んだ左手をくねくねと動かしながら壁のような機械の内部を弄り回す。
おおお・・・ん・・・おお・ん・・・おお・ん・・・
「ココか? ココが良いのか?」
おん、おん、おん、おん、おん・・・
シューっと音を立てて、水蒸気が噴き上がる。
星岬は、ぎこちなく口の端を吊り上げると、やや乱暴な感じで壁のような機械に差し入れた手が触れている反応の良いところをキュキュキュッと擦りあげた。
おおおんん!・・・!!
外装の継ぎ目の隙間からパチパチッと火花をちらし、背面からバシューッと水蒸気を噴き上げて、壁のような機械は、その筐体の表面を覆う計器類を明滅させた。
それに呼応するかのようにバンッ!バンッ!バンッ!と音を立てて3本のシリンダーが壁のような機械の天面に突き出した。
3本それぞれに人間のものと思われる脳が収められている。
3本のシリンダーが出現した直後から、星岬の通信網に剥き出しの感情が流れ込んでくる。
星岬にしか見られないはずの第3実験室内に設置された監視カメラの映像に併せて遠慮ない苦情の数々が星岬の内にガンガン流れ込んでくる。
星岬は壁のような機械に突っ込んだままでいた左手を思い出すと、配線に這わしていた指先を手近な基盤に這わせ直して、コンデンサが壊れないギリギリの負荷をかけた。
壁のような機械の天面に突き出した3本のシリンダーのライトアップが、一瞬影ると、ピシャリと苦情が止まり静かになった。
だが、まだまだ言い足りなかったようで、一言づつ嘆願してきた。
「身体にもどせ!」
「ここから出せ!」
「自由にしろ!」
各々のハッキリとした意見を星岬は受け取った。
星岬は少し考えてから返答した。
「私を招いたのはキミたちではない。そうだろう?」
はぐらかされ、ざわざわとした意識が星岬の内に流れ込んでくる。
しかし、星岬がここへ来たのは招かれたからで、今は他の事は後回しなのだった。
「少し黙っていてくれたまえ」
思いのほか厳しい口調になってしまって、星岬はその点は心苦しく思わなくもなかった。
「隠れていないで出てきてくれないか!?」
星岬は直感で後ろを振り返った。
そこには出入り口であるスライドドアがあるだけだったはずだ。
いくら室内が薄暗いからといって、ドアの開閉やヒトの出入りというのは判るものだろう。
だがそこにはドアとの対比で2メートルはありそうな人影が立っているのだった。
「いつからそこに?」
「ついさっきから」
何故かこの人影には覚えがある。
星岬はある種の既視感を感じていた。
「どうやって入室を?」
「そんなに戸締りが気になるかね?」
ああ、この話し方・・・。
この話し方にも覚えがある。
だが声は違うように思える。
人違いか?
だとしても誰と間違えるというのだ?
こんな大男、そうそういるモノではないだろう。
「俺が何者か、思い出そうとしても無駄だと思うがね。」
「どういう事だ? そう云えば先日、思い出すの出さないのという意味不明な夢を見たが・・・関係があるのか?」
「俺に聞くなよ」
「いや、もっともだ」
言いながら星岬は思い出そうとしていたが、自分の記憶だというのに何故こうも自由にならないのか?
さすがに不満が蓄積しているらしく、傍から見ても星岬はイライラしているように見えた。
ヒトとヒトとの駆け引きに於いて、相手をイライラさせるのは作戦として有りという場合もある。
だが、謎の招待主の目的が判らないので、意図してイライラさせられているのかも判らない。
そんな最中、謎の招待主が星岬に話しかけた。
「少しだけ教えよう。キミは今“Z理論”というのに巻き込まれている。影響は計り知れない。同時に非常に興味深い稀有な例を成そうとしている。」
「Z理論? 稀有な例?」星岬は流れを感じていた。
「Z理論の時空移動は過去に向けて行われることが主流だが、極々少数だが特殊な例が報告されている」
「それは?」星岬は話を聞く、否、訊き出すことに努め始めた。
「未来に向かう際に、平行世界を時空移動先に選ぶという事例だ」
「なに!?」思わず声を上げてしまう星岬。
「自分にとって最も都合の良い世界を選んで時空移動を完了する」
「と、いうと?」星岬は好奇心いっぱいで爆発寸前になっていた。
そして不意にフラッシュを焚かれたような眩みを感じて昏倒しかけた。
瞬間、星岬は全てを理解した。
こみ上げてくる感情が抑えきれず、星岬は笑うしかなかった。
眼を見開き、大口を開け、大きく仰け反り、腹の底から笑うのだった。
その光景が余りにも不気味で、謎の招待主は気分が悪くなるのを感じた。
笑い終えた所で、星岬は言うのだった。
「世の理を理解した! 私には時間が、ある! それこそ悠久といえる程に」
ふはははは! ふふははは!
「私はヒトを超えた!」
自分は遂に彼がやっていた事を自力で達成したのだ!
彼はニコニコ笑って対象者の記憶を改ざんしていたのではない。自分の住みよいように世界の方を改ざんしていたのだ!
何というパワーか?
今後は、この私が、思い通りに世界を書き換えてやる!
「やはりそうなるのかね?!」星岬の心の声を直接聞いたかのような相槌を打つ謎の招待主。
「もはや俺が何処の誰でも興味は持ってくれないのだろう?」星岬の性格を熟知している物言いだが、説得などは諦めたように感じる発言だ。
「そこまで冷たくはないよ、未来からの刺客よ」鋭くえぐる星岬は、既に謎の招待主の正体を掴んでいる事を匂わせる発言で返してみせる。
「何故そう思う?」
「違うというのか?」もはやお互いに最終確認といった感じだった。
「本当に全てを理解してしまったのか・・・?」それでも謎の招待主は粘ってみせる。
「ザックリとではあるがね、未来人よ」
この男は危険だ!
会って確かめようと思ってしまったのは完全に失敗だった。
この男は生かしておいてはいけない。
俺の責任においてこの場で抹殺する!
謎の招待主が動いた!
右手を素早く後ろに回すと、腰のホルスターから拳銃のような機械を抜き、真っすぐ構えた。
星岬が反応する間を与えずトリガーを引き絞ると、銃身の先端が飛び出して星岬を捉える。
一瞬、青白く放電光を放つと白衣が発火し、あっという間に炎が星岬を呑み込んだ。
機能停止に陥った星岬は、炎に焼かれてフレームが露わになっている。
既に眼窩の光学センサ-に反応は見られず、星岬だったものは、その躯体をコンクリート打ちっぱなしの冷たい床に横たえて、炎に焼かれるに任せていた。
謎の招待主は炎の勢いが落ちてくると、手に握ったままの拳銃のような機械に弾を再装備するとホルスターに戻し、その動作の流れのままベルトに装備された超小型タイマー式炸裂弾を手に取ると、直ぐに爆発するようにセットして、くすぶっている星岬だったものに放り込んだ。
ドン!
建物全体が揺れる程の衝撃が起こる最中、謎の招待主は思ったよりも強力な爆発力に、盾代わりにした事務机ごと部屋の端まで吹き飛ばされ、冷や汗をかいていた。
「怖え~」
床に穴が開いている。
天井に星岬の腕と思われる部品が刺さっている。
盾代わりの事務机の陰からは、目視確認できるのはその位だった。
床に開いた穴を確認しようと前に出ると、盾代わりに使った事務机の前に、恐らく星岬のものと思われるスケルトン・ヘッドが転がっていた。
状態を確認する。
機能は完全に停止している。
だが、黒く煤けているだけで、もげて飛んだのでなく、切り離したのかもしれない。
「あっちぃ・・・」
手に取ると星岬のスケルトン・ヘッドはかなりの高温を保っていた。
「これじゃあ中を見るまでもなさそうだがね」
そう独り言を言いながら、一旦スケルトン・ヘッドを置くと、上着の内ポケットから携帯工具セットを取り出した。
ペンライトを点けて銜えるとスケルトン・ヘッドの分解に取り掛かった。
急がねば、時間はそれ程ないだろう。
早くも床に開いた穴からざわざわとヒトの声が聞こえてきた。
手元に集中しよう。ネジが熱によって膨張しているようだ。回らない。
開け辛いが、元に戻す必要はないので、強引に開けていく。
驚いたことに、頭の中には基盤やHDDなどの機械部品しか入っていなかった。
それもコンニャクのような物質に包まれていたおかげか、熱による変質もなく状態は良好に見えた。
なので、部品を取り出してはあちこちに放り投げて、完全に破壊した。
星岬がかまっていた壁のような機械は、無惨にも全体に満遍なく爆発による被害を受けたようで、スクラップ同然の様子だった。だが、奇跡的に脳が収まったアクリル製シリンダーは4本揃って無傷で残っていた。保存システムが正常に動作しているか分からないが任務とは関係ない事だ。これ以上の関心は持つまい。
星岬の破壊は確認した。
ミッションクリアだ。
帰ろう。
謎の招待主は何事かつぶやきながら目の前の空間に指先で描き始めた。
空間には何も見えないが、目の前に見えている下描きをなぞっているようだ。
素早く描き終える。
すると空間に描いた魔法陣のようなものが中心から色を変え、青白く浮かび上がってくる。
だが、それが見えるのは描いた本人だけである。
謎の招待主は慣れた感じで魔法陣のようなものを通過すると、第3実験室から姿を消した。
第3実験室のスライドドアの向こう側がにわかに騒がしくなり、次の瞬間にはドアを破って消防隊が突入して来た。
だが、星岬と謎の招待主との静かなる戦いは誰にも知られていない。そしてこれからも知られることはない。
謎の招待主は星岬の見極めという任務を完遂したので、未来へ帰還した。
星岬の頭部にあったコンニャクのようなものに包まれた部品が背中にくっついているのに気付かずに・・・。
つい先日、何者かが室内に侵入するのが目的で破壊したとみられる壁の修理の跡も真新しい第3実験室の前まで来た星岬は、室内にいる謎の招待主を一応は警戒しながら入室した。
スライドドアが小さな駆動音をさせて閉じると室内は薄暗さと静寂を取り戻した。
蒸気を噴き出すシューという音が聞こえると、壁一面の計器類に灯りが点った。
最後に天井近くの極透明アクリル製のシリンダーが内容物を見せつけるように内側から発光した。
そこには、形といい大きさといい、まず間違いなく人間のものと分かる“脳”が保存液に揺蕩っていた。
演出としては上出来だっただろうに、星岬は全く動じていない様子だった。
「当研究所所長の星岬だ!」
殆ど警戒している様子もなく、星岬は何処かで聞いているであろう謎の招待主に名乗った。
ただ名乗った訳ではなく、自分が来た事を伝えるために発声したのだ。
返事が期待できるとはとても思えない状況だったが、案の定、何も変化はなかった。
星岬はほんの数分前の情報にアクセスするとココへ足を運ぶきっかけとなった呼び出しを検索した。
検索結果は“0件”だった。
星岬は動じなかった。
データの改ざん、否、情報操作は自分もアイツも百戦錬磨だった。
「小細工は通じない」
星岬は、脳が入ったシリンダーを頂く壁のような機械に歩み寄ると、左手を目の前にしてその手首やら指先やらを、まるで別の生物のようにくねくねと動かした。
それを不思議そうに見ていると思ったら、不意に裏拳を放つように左手を動かすと、壁のような機械のスチール製の外装を突き破り肘近くまで左手を突っ込んだ!
お、お、おおお、おお・・・ん・・・ん・・
まるで苦しんでいるかのように、壁のような機械からうめき声のような音がする。
そんなことはお構いなしに、突っ込んだ左手で壁のような機械の中をかき回すように探る。
無数に結線されているハーネスの中から目当てのハーネスを探り当てた星岬は、指先に内蔵している接触回線機能を使って壁のような機械のコントロールを奪いにかかる。
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再び苦しそうなうめき声が聞こえた。
「抵抗は無意味だ、いったい何を隠している?」
星岬は突っ込んだ左手をくねくねと動かしながら壁のような機械の内部を弄り回す。
おおお・・・ん・・・おお・ん・・・おお・ん・・・
「ココか? ココが良いのか?」
おん、おん、おん、おん、おん・・・
シューっと音を立てて、水蒸気が噴き上がる。
星岬は、ぎこちなく口の端を吊り上げると、やや乱暴な感じで壁のような機械に差し入れた手が触れている反応の良いところをキュキュキュッと擦りあげた。
おおおんん!・・・!!
外装の継ぎ目の隙間からパチパチッと火花をちらし、背面からバシューッと水蒸気を噴き上げて、壁のような機械は、その筐体の表面を覆う計器類を明滅させた。
それに呼応するかのようにバンッ!バンッ!バンッ!と音を立てて3本のシリンダーが壁のような機械の天面に突き出した。
3本それぞれに人間のものと思われる脳が収められている。
3本のシリンダーが出現した直後から、星岬の通信網に剥き出しの感情が流れ込んでくる。
星岬にしか見られないはずの第3実験室内に設置された監視カメラの映像に併せて遠慮ない苦情の数々が星岬の内にガンガン流れ込んでくる。
星岬は壁のような機械に突っ込んだままでいた左手を思い出すと、配線に這わしていた指先を手近な基盤に這わせ直して、コンデンサが壊れないギリギリの負荷をかけた。
壁のような機械の天面に突き出した3本のシリンダーのライトアップが、一瞬影ると、ピシャリと苦情が止まり静かになった。
だが、まだまだ言い足りなかったようで、一言づつ嘆願してきた。
「身体にもどせ!」
「ここから出せ!」
「自由にしろ!」
各々のハッキリとした意見を星岬は受け取った。
星岬は少し考えてから返答した。
「私を招いたのはキミたちではない。そうだろう?」
はぐらかされ、ざわざわとした意識が星岬の内に流れ込んでくる。
しかし、星岬がここへ来たのは招かれたからで、今は他の事は後回しなのだった。
「少し黙っていてくれたまえ」
思いのほか厳しい口調になってしまって、星岬はその点は心苦しく思わなくもなかった。
「隠れていないで出てきてくれないか!?」
星岬は直感で後ろを振り返った。
そこには出入り口であるスライドドアがあるだけだったはずだ。
いくら室内が薄暗いからといって、ドアの開閉やヒトの出入りというのは判るものだろう。
だがそこにはドアとの対比で2メートルはありそうな人影が立っているのだった。
「いつからそこに?」
「ついさっきから」
何故かこの人影には覚えがある。
星岬はある種の既視感を感じていた。
「どうやって入室を?」
「そんなに戸締りが気になるかね?」
ああ、この話し方・・・。
この話し方にも覚えがある。
だが声は違うように思える。
人違いか?
だとしても誰と間違えるというのだ?
こんな大男、そうそういるモノではないだろう。
「俺が何者か、思い出そうとしても無駄だと思うがね。」
「どういう事だ? そう云えば先日、思い出すの出さないのという意味不明な夢を見たが・・・関係があるのか?」
「俺に聞くなよ」
「いや、もっともだ」
言いながら星岬は思い出そうとしていたが、自分の記憶だというのに何故こうも自由にならないのか?
さすがに不満が蓄積しているらしく、傍から見ても星岬はイライラしているように見えた。
ヒトとヒトとの駆け引きに於いて、相手をイライラさせるのは作戦として有りという場合もある。
だが、謎の招待主の目的が判らないので、意図してイライラさせられているのかも判らない。
そんな最中、謎の招待主が星岬に話しかけた。
「少しだけ教えよう。キミは今“Z理論”というのに巻き込まれている。影響は計り知れない。同時に非常に興味深い稀有な例を成そうとしている。」
「Z理論? 稀有な例?」星岬は流れを感じていた。
「Z理論の時空移動は過去に向けて行われることが主流だが、極々少数だが特殊な例が報告されている」
「それは?」星岬は話を聞く、否、訊き出すことに努め始めた。
「未来に向かう際に、平行世界を時空移動先に選ぶという事例だ」
「なに!?」思わず声を上げてしまう星岬。
「自分にとって最も都合の良い世界を選んで時空移動を完了する」
「と、いうと?」星岬は好奇心いっぱいで爆発寸前になっていた。
そして不意にフラッシュを焚かれたような眩みを感じて昏倒しかけた。
瞬間、星岬は全てを理解した。
こみ上げてくる感情が抑えきれず、星岬は笑うしかなかった。
眼を見開き、大口を開け、大きく仰け反り、腹の底から笑うのだった。
その光景が余りにも不気味で、謎の招待主は気分が悪くなるのを感じた。
笑い終えた所で、星岬は言うのだった。
「世の理を理解した! 私には時間が、ある! それこそ悠久といえる程に」
ふはははは! ふふははは!
「私はヒトを超えた!」
自分は遂に彼がやっていた事を自力で達成したのだ!
彼はニコニコ笑って対象者の記憶を改ざんしていたのではない。自分の住みよいように世界の方を改ざんしていたのだ!
何というパワーか?
今後は、この私が、思い通りに世界を書き換えてやる!
「やはりそうなるのかね?!」星岬の心の声を直接聞いたかのような相槌を打つ謎の招待主。
「もはや俺が何処の誰でも興味は持ってくれないのだろう?」星岬の性格を熟知している物言いだが、説得などは諦めたように感じる発言だ。
「そこまで冷たくはないよ、未来からの刺客よ」鋭くえぐる星岬は、既に謎の招待主の正体を掴んでいる事を匂わせる発言で返してみせる。
「何故そう思う?」
「違うというのか?」もはやお互いに最終確認といった感じだった。
「本当に全てを理解してしまったのか・・・?」それでも謎の招待主は粘ってみせる。
「ザックリとではあるがね、未来人よ」
この男は危険だ!
会って確かめようと思ってしまったのは完全に失敗だった。
この男は生かしておいてはいけない。
俺の責任においてこの場で抹殺する!
謎の招待主が動いた!
右手を素早く後ろに回すと、腰のホルスターから拳銃のような機械を抜き、真っすぐ構えた。
星岬が反応する間を与えずトリガーを引き絞ると、銃身の先端が飛び出して星岬を捉える。
一瞬、青白く放電光を放つと白衣が発火し、あっという間に炎が星岬を呑み込んだ。
機能停止に陥った星岬は、炎に焼かれてフレームが露わになっている。
既に眼窩の光学センサ-に反応は見られず、星岬だったものは、その躯体をコンクリート打ちっぱなしの冷たい床に横たえて、炎に焼かれるに任せていた。
謎の招待主は炎の勢いが落ちてくると、手に握ったままの拳銃のような機械に弾を再装備するとホルスターに戻し、その動作の流れのままベルトに装備された超小型タイマー式炸裂弾を手に取ると、直ぐに爆発するようにセットして、くすぶっている星岬だったものに放り込んだ。
ドン!
建物全体が揺れる程の衝撃が起こる最中、謎の招待主は思ったよりも強力な爆発力に、盾代わりにした事務机ごと部屋の端まで吹き飛ばされ、冷や汗をかいていた。
「怖え~」
床に穴が開いている。
天井に星岬の腕と思われる部品が刺さっている。
盾代わりの事務机の陰からは、目視確認できるのはその位だった。
床に開いた穴を確認しようと前に出ると、盾代わりに使った事務机の前に、恐らく星岬のものと思われるスケルトン・ヘッドが転がっていた。
状態を確認する。
機能は完全に停止している。
だが、黒く煤けているだけで、もげて飛んだのでなく、切り離したのかもしれない。
「あっちぃ・・・」
手に取ると星岬のスケルトン・ヘッドはかなりの高温を保っていた。
「これじゃあ中を見るまでもなさそうだがね」
そう独り言を言いながら、一旦スケルトン・ヘッドを置くと、上着の内ポケットから携帯工具セットを取り出した。
ペンライトを点けて銜えるとスケルトン・ヘッドの分解に取り掛かった。
急がねば、時間はそれ程ないだろう。
早くも床に開いた穴からざわざわとヒトの声が聞こえてきた。
手元に集中しよう。ネジが熱によって膨張しているようだ。回らない。
開け辛いが、元に戻す必要はないので、強引に開けていく。
驚いたことに、頭の中には基盤やHDDなどの機械部品しか入っていなかった。
それもコンニャクのような物質に包まれていたおかげか、熱による変質もなく状態は良好に見えた。
なので、部品を取り出してはあちこちに放り投げて、完全に破壊した。
星岬がかまっていた壁のような機械は、無惨にも全体に満遍なく爆発による被害を受けたようで、スクラップ同然の様子だった。だが、奇跡的に脳が収まったアクリル製シリンダーは4本揃って無傷で残っていた。保存システムが正常に動作しているか分からないが任務とは関係ない事だ。これ以上の関心は持つまい。
星岬の破壊は確認した。
ミッションクリアだ。
帰ろう。
謎の招待主は何事かつぶやきながら目の前の空間に指先で描き始めた。
空間には何も見えないが、目の前に見えている下描きをなぞっているようだ。
素早く描き終える。
すると空間に描いた魔法陣のようなものが中心から色を変え、青白く浮かび上がってくる。
だが、それが見えるのは描いた本人だけである。
謎の招待主は慣れた感じで魔法陣のようなものを通過すると、第3実験室から姿を消した。
第3実験室のスライドドアの向こう側がにわかに騒がしくなり、次の瞬間にはドアを破って消防隊が突入して来た。
だが、星岬と謎の招待主との静かなる戦いは誰にも知られていない。そしてこれからも知られることはない。
謎の招待主は星岬の見極めという任務を完遂したので、未来へ帰還した。
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