五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第13話:初めての食卓とツンデレの内心

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 アヤネの思いがけない昼食の誘いに、シルヴィアは彫像のように固まった。その白い頬がみるみるうちに赤く染まり、深緑の瞳が困惑したように左右に揺れる。森の奥で孤高を守ってきたエルフにとって、人間、それも子供たちのいる賑やかな家族からの食事の誘いは、まさに青天の霹靂だったのだろう。アキオも、そしてアルトたちも、固唾をのんでシルヴィアの反応を見守っていた。

「な、なぜ私が……人間風情と食卓を囲まねばならんのだ……」
 ようやく絞り出したシルヴィアの声は上ずっていた。一度は鋭く拒絶しようとしたのだろう、その言葉にはいつもの刺々しさが僅かに残っている。
 しかし、その言葉尻を捕らえるように、ユメとミコが「シルヴィアお姉ちゃん、一緒に食べようよー!」「アヤネ姉ちゃんのご飯、おいしいんだよ!」と純粋な瞳でシルヴィアを見上げ、その服の裾を遠慮がちに引っ張った。
 アヤネも、柔らかな笑みを浮かべて続ける。
「シルヴィアさんのおかげで、ユメもすっかり元気になりましたし、これは私たち家族からの、ささやかな感謝の気持ちでもあるんです。どうか、ご無理でなければ……」
 子供たちの無垢な眼差しと、アヤネの真摯な言葉に、シルヴィアの抵抗は徐々に力を失っていくように見えた。彼女は数度、何かを言いかけては口ごもり、やがて大きなため息を一つついてから、そっぽを向きながら言った。
「……べ、別に、お前たちが作るものがどんな代物か、見てやらんでもないだけだ! 毒見だ、これは毒見だからな! それに……小屋の中など息が詰まる。外で、外でなら、少しだけ付き合ってやらんでもないこともない……」
 早口でまくし立てるシルヴィアの言葉は、彼女の精一杯の照れ隠しであり、そして紛れもない承諾だった。子供たちは「やったー!」と歓声を上げ、アキオもアヤネも顔を見合わせて安堵の笑みを浮かべた。

 アキオは急いで小屋の外に、先日作ったばかりの丸太の即席テーブルと、数個の切り株の椅子を運び出した。春の柔らかな日差しと、心地よいそよ風が吹き抜ける、木陰の特等席だ。
 アヤネが運んできたのは、採れたてのカブのような野菜と干し肉をコトコト煮込んだ滋味深いスープ、そして木の実の粉で作った香ばしい焼きパン。シルヴィアは、緊張した面持ちでテーブルにつき、運ばれてくる料理をじっと観察している。子供たちが賑やかに「いただきます!」と言って食べ始める中、彼女はアキオが作った木の匙を手に取り、おそるおそるスープを一口、口に含んだ。
 そして、ピタリと動きを止める。
(……悪くない。いや、むしろ……滋養に富み、素材の味が生きている)
 内心の驚きを悟られまいと、シルヴィアは無表情を装い、「……ふん。まあ、食えなくはないな。腹の足しにはなるだろう」とぶっきらぼうに呟いた。だが、その匙を運ぶ手が、先ほどより心なしか滑らかになっている。特に、アキオが作った木の器や匙の、手に馴染む温かみと使い心地の良さには、エルフの鋭敏な感覚も密かに感心していた。
 アキオやアヤネは、シルヴィアに過度に気を遣うことなく、しかし細やかな配慮を忘れずに自然に接した。子供たちは、そんな大人の様子などお構いなしに、「シルヴィアお姉ちゃんは、いつも森で何食べてるの?」「エルフの国ってどこにあるの?」と次々に質問を浴びせる。シルヴィアはほとんど言葉を返さなかったが、その質問の一つ一つを、困ったような、でもどこか興味深そうな表情で聞いていた。

 食事が終わり、アヤネが木の器を片付け始めると、シルヴィアはそそくさと立ち去ろうとした。しかし、アキオが薬草園で育てている植物について、「この苗の元気がないんだが、土が合わないんだろうか」と何気なく尋ねると、シルヴィアはぴたりと足を止めた。
「……それは、水のやりすぎだ。その薬草は乾燥を好む。それに、隣に植えているあの赤い花の植物とは相性が悪い。互いの成長を阻害する。移植した方がいいだろう」
 まるで自分の庭の手入れでもするかのように、シルヴィアは的確な指摘をし始める。結局、彼女はそのまま薬草園の土の状態を念入りに調べ、アキオにいくつか指示を与え、さらには子供たちが近くの小川で水遊びをしているのを、木の陰からこっそりと、しかしどこか優しい眼差しで見守っていた。
「……子供たちは、本当に騒々しくて、手のかかるものだな」
 誰に言うともなく呟いたその声には、いつもの棘は全くなく、むしろ、長い間忘れていた何かを懐かしむような、温かい響きが込められていた。

 夕暮れの橙色の光が森を包み込む頃、シルヴィアはようやく腰を上げた。
「……明日も、あの薬草の乾燥の仕方を見てやる。お前たち人間に下手に扱われて、貴重な薬効を失われては困るからな」
 それは、明日もここへ来るという、彼女なりの宣言だった。アキオと子供たちにとって、それは望外の喜びだ。
「ありがとう、シルヴィアさん。助かるよ」アキオが言うと、シルヴィアはまたふいと顔を背け、足早に森の中へと帰っていった。その背中を見送りながら、アキオは確信していた。シルヴィアは、この場所に、そしてここにいる家族に、少しずつだが確実に心を開き、「一緒にいる喜び」を見出し始めているのだと。
 夏の力強い太陽がもうすぐそこまで来ているように、彼らの未来にも、明るく温かな光が差し込もうとしていた。
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