五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
39 / 387

第39話:鍛冶師の始動と村長の奮闘

しおりを挟む
 ドワーフの老鍛冶師ドルガンの「オレなら鉄を溶かせられるぜ!」という力強い宣言は、アキオたちの新しい村に、かつてないほどの興奮と期待感をもたらした。長年アキオが夢見てきた「鉄」という素材が、ついに現実のものとなろうとしているのだ。

 翌日から、ドルガンは精力的に動き始めた。彼はまず、アキオが持ち帰った鉄鉱石らしき石を種類ごとに分類し、その性質を仔細に鑑定する。そして、アキオが作った耐火レンガと木炭の質を改めて確かめると、「ふむ、これならば申し分ない。まずは、この石を効率よく砕くための石臼と、高温に耐える坩堝(るつぼ)、そして何よりも強力な風を送り込む『ふいご』が必要じゃな」と、具体的な道具のリストをアキオに示した。製鉄炉そのものの設計図も、地面に木の枝で描きながら、その構造や必要な資材について熱っぽく語り始めた。その姿は、引退していた老職人とは思えないほど生き生きとしていた。
 アキオは、ドルガンの専門的な知識と経験に深く敬服し、炉の建設に関しては彼に全幅の信頼を置くことを決めた。アルトとケンタは、目を輝かせながらドルガンの話に聞き入り、早くも彼の「一番弟子」を気取って、指示された道具作りや材料集めに勇んで取り掛かった。シルヴィアも、ドルガンの求める薬草(例えば、炉の火力を上げるための特殊な乾燥ハーブや、金属の不純物を取り除くのに役立つとされるものなど、エルフの伝承に残るもの)があれば協力すると申し出た。

 製鉄という一大プロジェクトがドルガンを中心に動き出したことで、アキオは村全体のリーダーとして、喫緊の課題に取り組む必要性を改めて感じていた。それは、増えた人口を支えるための食料確保と、避難民たちのための恒久的な住居の建設だ。
「みんな、聞いてくれ。鉄作りも大事だが、俺たちの足元の生活をしっかり固めることも同じくらい重要だ。特に、これからまた冬が来ることを考えれば、食料の備蓄と、みんなが安心して眠れる家が必要になる」
 アキオの言葉に、新しく加わった避難民たちはもちろん、子供たちも真剣な表情で頷いた。
 アキオはまず、食料班、建築班、そしてドルガン率いる製鉄準備班といった形で、大まかな役割分担を提案した。食料班はアヤネとキナが中心となり、畑の管理、森での採集、そして狩猟(罠の設置や見回り)を担当する。建築班はアキオが指揮を執り、シルヴィアとアルトが補佐につき、まずは避難民たちのための住居建設を急ぐ。

 そんな中、離れで療養していたセレスティーナとレオノーラも、徐々にではあるが、自分たちにできることを模索し始めていた。レオノーラは、まだ本調子ではないものの、村の周囲の簡単な見回りや、アルトやケンタに護身のための体術の基礎を教えることを買って出た。その凛とした立ち振る舞いや的確な指導は、少年たちの憧れの的となった。
 セレスティーナは、体力的な作業はまだ難しかったが、アヤネの側で、避難民の子供たち(特に幼い子や、親を亡くして塞ぎ込んでいる子)に文字を教えたり、故郷の物語を語り聞かせたりして、彼らの心のケアに努めた。彼女の持つ気品と優しい声は、子供たちの心を和ませ、アヤネにとっても大きな助けとなった。
「セレスティーナ様の物語は、とても面白いですわ。子供たちも、目を輝かせて聞いております」アヤネが嬉しそうに言う。
「……私にできることなど、これくらいしかありませんから」セレスティーナは儚げに微笑むが、その瞳には、誰かの役に立てる喜びが確かに宿っていた。

 アキオは、そんな彼女たちの変化を温かく見守りつつ、建築作業に没頭した。リヤカーで運んできた木材と、ストックしてあるレンガ(耐火レンガではない通常のレンガ)を使い、まずは雨露をしのげる集合住宅のような長屋の建設から取り掛かる。設計はシンプルだが、冬の寒さを考慮し、壁には断熱材として乾燥した苔や枯れ草を詰め込み、床も高くして湿気を避ける工夫を凝らした。
 シルヴィアは、建築に適した木材の選定や、建物の配置(風向きや日当たりを考慮した、森と調和する配置)について的確な助言を与え、時には薬草を使って木材の防腐処理を施したりもした。

 ドルガンが製鉄炉の設計に唸り、子供たちが森で新たな食材や道具の材料を探し、アキオたちが槌音を響かせる。様々な種族、様々な過去を持つ人々が、一つの目標に向かって力を合わせる。森の奥深くに生まれようとしている新しい村は、まるで生き物のように、日ごとにその姿を変え、活気を増していくのだった。
 アキオは、額の汗を拭いながら、その光景に目を細める。鉄への挑戦、そしてこの共同体の未来。やるべきことは山積みだが、信頼できる仲間たちと共に歩むこの道は、決して孤独ではない。その確信が、アキオの心を力強く支えていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...