38 / 387
第38話:ドワーフの炯眼と溶け出す鉄の夢
しおりを挟む
アキオたちが新しい竈とパン焼き窯の具体的な設計に取り掛かろうとしていた矢先、村の日常に新たな波紋が投げ込まれた。キナが、森の境界近くで見回りをしていた際に、新たな避難民の一団を発見し、小屋へと案内してきたのだ。その数は十数名ほどで、人間だけでなく、小柄なホビット族のような者や、そして一際目を引く、背は低いが肩幅が広く、見るからに屈強な体つきをしたドワーフの老人が混じっていた。彼らは皆、長旅と恐怖で疲れ果て、空腹と不安の色を濃く浮かべていた。
アキオたちは、既に経験のあることとして、彼らを温かく迎え入れ、アヤネが用意した滋養のあるスープと焼きたてのパンを振る舞った。シルヴィアも、体調の悪そうな者には薬湯を処方し、手際よく世話をする。
避難民たちが少し落ち着きを取り戻した頃、アキオはドワーフの老人に声をかけた。彼は名をドルガンと言い、以前は山の麓のドワーフの集落で鍛冶師をしていたが、弟子に工房を譲って久しく、今は悠々自適の隠居生活を送っていたという。しかし、ガルニア帝国の侵攻の噂と、それに伴う周辺地域の混乱を避け、安全な場所を求めて旅に出たのだと、低い声で訥々と語った。
ドルガンは、他の避難民たちが休息を取る中、一人、アキオたちが建設途中だった竈や、積み上げられた耐火レンガ、そして山と積まれた木炭に、鋭い専門家の視線を向けていた。彼はレンガを一つ手に取り、指で弾いてその音を確かめ、木炭の断面をじっと見つめ、時折アキオに「この土は何だ?」「この炭はどうやって焼いた?」と矢継ぎ早に質問を浴びせた。
アキオは、ドルガンが只者ではないことを見抜き、これまでの経緯――火浣土の発見、耐火レンガの製作、炭焼き窯での木炭作り――を包み隠さず説明した。そして、小屋の隅に大切に保管していた赤黒い石、鉄鉱石と思われる塊をドルガンに見せた。
「……俺は、いつかこの石から鉄を取り出し、もっと丈夫な道具や農具を作りたいと思っているんです。ですが、素人の考えで、なかなか……」
アキオの言葉を聞き、そして鉄鉱石らしき石を手に取って仔細に鑑定したドルガンの目が、カッと見開かれた。顔の皺が興奮で引き締まり、長い髭がわなわなと震える。
「……まさか、こんな森の奥で、これほどの『火浣土』のレンガと、これほど質の良い木炭を、人間の手で作り上げていたとは……。そしてこの石は……紛れもない、極上の鉄鉱石じゃぞ!」
ドルガンは、年甲斐もなく大声を上げ、アキオの肩をバンバンと叩いた。
「小僧……いや、アキオと言ったか。お前さん、なかなか面白いものを持っちょるのう! ワシはもう槌を置いた身じゃが……この石と、そのレンガ、そしてその炭を見せられては、鍛冶師の血が騒がんわけにはいかんわい!」
ドルガンは、一度深く息を吸い込むと、力強い声で宣言した。
「いいか、アキオ! よく聞け! このワシ、ドルガンがいれば、その石ころから見事な鉄を溶かし出し、お前さんたちが驚くような業物を打ち出してみせるわい! オレなら、鉄を溶かせられるぜ!」
その言葉は、アキオの胸に雷鳴のように轟いた。長年、心の奥底で夢見ていた「鉄作り」が、今、本物の専門家の、それも伝説に名高いドワーフの鍛冶師の協力によって、現実のものとなろうとしているのだ。アキオは、込み上げてくる興奮と感動を抑えることができなかった。
「本当ですか、ドルガンさん!?」
「ドワーフに二言はないわ! ただし、それにはちゃんとした『炉』が必要じゃ。お前さんたちの竈も悪くはないが、鉄を溶かすにはもっと工夫がいる。それに、大量の炭と、強力な風を送る『ふいご』もな」
ドルガンの言葉は具体的で、その瞳にはかつての職人としての誇りと情熱が蘇っていた。
シルヴィアも、二人のやり取りを興味深そうに聞いていたが、ドルガンの確かな技術力への期待と、彼がもたらすであろう変化への予感に、静かに頷いた。エルフとドワーフは、種族の気質こそ違えど、優れた「ものづくり」への敬意という点では通じるものがあるのかもしれない。
アルトやケンタは、本物のドワーフの鍛冶師の登場と、「鉄を作る」という壮大な話に、目をキラキラと輝かせて聞き入っている。キナも、「へえ、じっちゃん、すげえじゃねえか! 鉄ができたら、あたしにも丈夫なナイフ作ってくれよな!」と、早くも期待を寄せていた。
引退していたドワーフの鍛冶師ドルガンとの出会いは、アキオたちの新しい村に、まさに「鉄」という文明の灯を、そして力強い発展の可能性をもたらす大きな転機となった。彼の熟練の知識と経験、アキオの柔軟な発想と技術、シルヴィアの森の知恵、そして家族や仲間たちの尽きることのない協力。様々な力が結集し、ついに製鉄への具体的な挑戦が、この森の奥深くで始まろうとしていた。
まずは、ドルガンが設計する本格的な「製鉄炉」の建設からだ。その燃え盛る炎の中に、彼らはどんな未来を見るのだろうか。
アキオたちは、既に経験のあることとして、彼らを温かく迎え入れ、アヤネが用意した滋養のあるスープと焼きたてのパンを振る舞った。シルヴィアも、体調の悪そうな者には薬湯を処方し、手際よく世話をする。
避難民たちが少し落ち着きを取り戻した頃、アキオはドワーフの老人に声をかけた。彼は名をドルガンと言い、以前は山の麓のドワーフの集落で鍛冶師をしていたが、弟子に工房を譲って久しく、今は悠々自適の隠居生活を送っていたという。しかし、ガルニア帝国の侵攻の噂と、それに伴う周辺地域の混乱を避け、安全な場所を求めて旅に出たのだと、低い声で訥々と語った。
ドルガンは、他の避難民たちが休息を取る中、一人、アキオたちが建設途中だった竈や、積み上げられた耐火レンガ、そして山と積まれた木炭に、鋭い専門家の視線を向けていた。彼はレンガを一つ手に取り、指で弾いてその音を確かめ、木炭の断面をじっと見つめ、時折アキオに「この土は何だ?」「この炭はどうやって焼いた?」と矢継ぎ早に質問を浴びせた。
アキオは、ドルガンが只者ではないことを見抜き、これまでの経緯――火浣土の発見、耐火レンガの製作、炭焼き窯での木炭作り――を包み隠さず説明した。そして、小屋の隅に大切に保管していた赤黒い石、鉄鉱石と思われる塊をドルガンに見せた。
「……俺は、いつかこの石から鉄を取り出し、もっと丈夫な道具や農具を作りたいと思っているんです。ですが、素人の考えで、なかなか……」
アキオの言葉を聞き、そして鉄鉱石らしき石を手に取って仔細に鑑定したドルガンの目が、カッと見開かれた。顔の皺が興奮で引き締まり、長い髭がわなわなと震える。
「……まさか、こんな森の奥で、これほどの『火浣土』のレンガと、これほど質の良い木炭を、人間の手で作り上げていたとは……。そしてこの石は……紛れもない、極上の鉄鉱石じゃぞ!」
ドルガンは、年甲斐もなく大声を上げ、アキオの肩をバンバンと叩いた。
「小僧……いや、アキオと言ったか。お前さん、なかなか面白いものを持っちょるのう! ワシはもう槌を置いた身じゃが……この石と、そのレンガ、そしてその炭を見せられては、鍛冶師の血が騒がんわけにはいかんわい!」
ドルガンは、一度深く息を吸い込むと、力強い声で宣言した。
「いいか、アキオ! よく聞け! このワシ、ドルガンがいれば、その石ころから見事な鉄を溶かし出し、お前さんたちが驚くような業物を打ち出してみせるわい! オレなら、鉄を溶かせられるぜ!」
その言葉は、アキオの胸に雷鳴のように轟いた。長年、心の奥底で夢見ていた「鉄作り」が、今、本物の専門家の、それも伝説に名高いドワーフの鍛冶師の協力によって、現実のものとなろうとしているのだ。アキオは、込み上げてくる興奮と感動を抑えることができなかった。
「本当ですか、ドルガンさん!?」
「ドワーフに二言はないわ! ただし、それにはちゃんとした『炉』が必要じゃ。お前さんたちの竈も悪くはないが、鉄を溶かすにはもっと工夫がいる。それに、大量の炭と、強力な風を送る『ふいご』もな」
ドルガンの言葉は具体的で、その瞳にはかつての職人としての誇りと情熱が蘇っていた。
シルヴィアも、二人のやり取りを興味深そうに聞いていたが、ドルガンの確かな技術力への期待と、彼がもたらすであろう変化への予感に、静かに頷いた。エルフとドワーフは、種族の気質こそ違えど、優れた「ものづくり」への敬意という点では通じるものがあるのかもしれない。
アルトやケンタは、本物のドワーフの鍛冶師の登場と、「鉄を作る」という壮大な話に、目をキラキラと輝かせて聞き入っている。キナも、「へえ、じっちゃん、すげえじゃねえか! 鉄ができたら、あたしにも丈夫なナイフ作ってくれよな!」と、早くも期待を寄せていた。
引退していたドワーフの鍛冶師ドルガンとの出会いは、アキオたちの新しい村に、まさに「鉄」という文明の灯を、そして力強い発展の可能性をもたらす大きな転機となった。彼の熟練の知識と経験、アキオの柔軟な発想と技術、シルヴィアの森の知恵、そして家族や仲間たちの尽きることのない協力。様々な力が結集し、ついに製鉄への具体的な挑戦が、この森の奥深くで始まろうとしていた。
まずは、ドルガンが設計する本格的な「製鉄炉」の建設からだ。その燃え盛る炎の中に、彼らはどんな未来を見るのだろうか。
192
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる