五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
218 / 387

第218話:盟友からの手紙、そして聖域の新たな決意

しおりを挟む
 アキオが妻たちと子供たちに存分に遊ばれ、愛され、そして癒やされた「村長の休日」から数日。アキオの町は、新・中央館と新しい住宅区画の建設ラッシュで、活気に満ちた日々が続いていた。

 そんなある日の午後、ヴァルト子爵領から一頭の馬を駆ってきた使者が、一通の親書を携えてアキオの元へ到着した。しかし、それは子爵本人からではなく、彼の妻であるリーゼロッテ夫人から、アキオの正妻シルヴィア個人に宛てられた、極めて私的な手紙だった。

 その夜、中央館の談話室には、アキオと、彼の全ての妻たちが顔を揃えていた。シルヴィアは、皆が見守る中、リーゼロッテ夫人からの手紙の封を静かに切り、その内容を読み上げ始めた。

 手紙にはまず、アキオの町への深い感謝と、産婆研修団が持ち帰った知識が、子爵領の母子の健康に大きな希望をもたらしていることへの賛辞が綴られていた。しかし、本題は、リーゼロッテ夫人の個人的な、そして切実な悩みだった。

『…シルヴィア様、貴女様の深い慈愛と、アキオ様の比類なき度量を見込んで、わたくし個人の、そして我が領地の多くの女性たちのための、一つのお願いがございます』
 シルヴィアの声が、静かな部屋に響く。
『ご存知の通り、我が領地は先の戦乱で多くの若い男手を失いました。その結果、嫁ぎ先を見つけることができず、未来への希望を閉ざされてしまった、心優しく働き者の若い娘たちが、領内に大勢おります。彼女たちは、貴族の娘ではないために十分な持参金もなく、このままでは、ただ老いていくのを待つばかりなのです』
 手紙は続く。
『先日、貴村からお戻りになった者たちから、アキオ様の町のお話を伺いました。そこでは、身分や過去に関わらず、誰もが生き生きと働き、そして、元は荒くれ者であった方々でさえも、温かい家庭を築き始めていると。シルヴィア様、アキオ様。もし、もしお許しいただけるのでしたら、この行き場のない哀れな娘たちに、この聖域で新しい人生を始める機会を与えてはいただけないでしょうか。町の働き手としてでも、あるいは…この町の、伴侶のいない男性たちの、良き花嫁候補としてでも…』

 リーゼロッテ夫人の悲痛なまでの願いに、部屋は重い沈黙に包まれた。数十人もの、若い独身女性を、一度に受け入れる。それは、食料、住居、そして町の秩序そのものに関わる、あまりにも大きな決断だった。

 その沈黙を破ったのは、キナの快活な声だった。
「いいねえ! 大歓迎だぜ! この町も、カイ兄ぃたちや、元再生班の男たちも、まだまだ嫁さんがいねえのがたくさんいるからな! 綺麗な姉ちゃんたちが来てくれるってんなら、あいつらの仕事のやる気も、もっと上がるってもんよ!」

 アヤネも、深く頷いた。
「わたくしたちも、この町で救われた身です。同じように、未来に不安を抱える女性たちがいるのなら、手を差し伸べるのが、この町のあり方だと思いますわ」

 凛も、秘書官として冷静に分析する。
「受け入れには、食料と住居のさらなる確保が必須となります。ですが、彼女たちの労働力は、織物工房や農業、保育など、町の発展に大きく貢献するでしょう。長期的には、町の人口構成を安定させる、極めて合理的な判断かと存じます」

 アウロラも、聖母のような微笑みを浮かべた。
「この聖域は、生命を育み、傷ついた魂を癒やす場所。彼女たちを拒む理由など、どこにもありませんわ」

 妻たちの想いは、一つだった。シルヴィアは、その皆の顔を見渡し、そして夫であるアキオに向き直った。
「アキオ。皆の想いは、決まりましたわ。あなたはどうお考えですか?」

 アキオは、妻たちのその深い慈愛と、揺るぎない覚悟に、胸が熱くなるのを感じていた。
「…決まっているだろう」
 彼は、力強く、そして穏やかに微笑んだ。
「この町は、助けを求める者を、決して拒まない。リーゼロッテ夫人の願い、そして、行き場のない彼女たちの想い、俺たちが、この町が、全て受け止めよう」

 アキオのその決断に、妻たちは、満足げに、そして誇らしげに頷いた。
 アキオの町は、今、その聖域としての懐の深さで、さらに多くの傷ついた魂を癒やし、新たな希望を与えるという、大きな使命を帯びることになった。それは、この町が、単なる村から、多くの人々を導く「聖都」へと変貌を遂げていく、新たな一歩となるのかもしれない。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...