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第219話:聖獣の導きと豊穣の果実
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アキオの町は、ヴァルト子爵領から新たに数十名の女性たちを迎え入れるという大きな決断を下し、活気に満ちていた。しかしその一方で、町の運営を担うアキオや凛、アヤネたちの間には、一つの大きな懸念が影を落としていた。食料問題である。
現在の町の畑で採れる芋や、試験栽培中の大豆、そして森鶏の卵や岩山羊の乳だけでは、急増した人口を長期的に支えるには限界があった。
「カイたちが率いる開拓団が、新しい畑の造成を急いでくれていますが、作物が実るまでにはまだ時間がかかりますわ…」
中央館の食料庫の前で、アヤネが心配そうに呟く。キナが率いる狩猟隊も、連日森へ出てはいるが、町の需要を全て満たすほどの獲物を毎日確保するのは困難だった。
そんな町の空気を敏感に感じ取っていたのか、その日の昼下がり、生命樹の麓で異変が起きた。
大きく成長した三体の聖獣の子たちが、遊ぶのをやめ、落ち着きなくアウロラの周りをうろつき始めたのだ。彼らは、森の奥深くをじっと見つめ、そしてアウロラに向かって何かを必死に訴えかけるように、低く、しかし真剣な鳴き声を上げていた。
「まあ…」
双子の御子たちをあやしていたアウロラは、そのただならぬ気配を即座に感じ取った。彼女が聖獣たちの前に静かに立つと、一匹が代表するように進み出て、アウロラの衣の裾をその鼻先で優しく、しかし強く引っ張った。
「…分かりました。森の奥に、この町の憂いを晴らす『豊穣』があるというのですね」
アウロラは、その聖なる力で彼らの意思を正確に読み取った。聖獣たちは、町の食料危機をその超常的な感覚で理解し、解決策の在処を示そうとしているのだ。
そして、アウロラは、この重要な任務を託すべき唯一の人物、聖獣たちの育ての親であり、誰よりも彼らと心を通わせるキナを呼び出した。
「キナ、この子たちが、あなたを呼んでいます。彼らを信じ、共に行ってあげてください。森の奥に、私たちの未来を支える、大切なものがあるようです」
アウロラの神託にも似た言葉を受け、キナは四体の聖獣たちの真剣な眼差しを見つめ返した。その瞳には、自分への絶対的な信頼が宿っている。
「…分かったぜ、アウロラ姉ちゃん! こいつらがそう言うんなら、間違いねえ! ちょっと森の豊穣を頂戴してくらあ!」
キナは、事の重要性を即座に理解し、アキオ鋼の山刀と数日分の保存食を背嚢に詰めると、アキオに見送られ、三体の聖獣と共に森の奥深くへと出発した。
一行は、かつて森の主がいた聖域を抜け、キナでさえも足を踏み入れたことのない、深く神聖な領域へと進んでいく。聖獣たちは、迷うことなく、森の獣道や、時には道なき道を進んでいった。
数時間の探索の後、一行は、陽光と薄青い霧が交じり合う、ひんやりとした谷間にたどり着いた。そこでは、背の低い木々が群生し、枝先には半透明の淡青色の楕円形果実が鈴なりになっていた。果実はわずかに光を帯び、風に揺れるたびに、かすかな鈴音のような音を立てていた。
「なんだ、こりゃあ…!?」
聖獣の一匹が、その果実をもぎ取り、キナの足元に置いた。皮は薄く、手で軽く割ると淡い芳香が広がる。
キナが一口かじると、爽やかな甘酸っぱさと同時に、口の中に冷たい清流を含んだような感覚が広がった。
「……おおっ、頭が冴えてくる…!」
視界の隅々までが鮮明になり、遠くの葉の揺れや小動物の気配まで感じ取れるような鋭敏さが、わずか数呼吸のうちに訪れた。軽い切り傷も、じんわりと熱を帯びて癒えていくのが分かる。
キナは、その木々が谷間全体に広がっているのを見て、これがどれほど価値のある発見であるかを悟った。実の付き方は一定ではなく、熟した果実と若い果実が混在しており、季節を問わず収穫可能なことを示していた。
「『豊穣の果実(ほうじょうのかじつ)』…アウロラ姉ちゃんの言ってたのは、これのことか…!」
その日の夕方、キナと聖獣たちは、その「豊穣の果実」を運べる限り持ち帰った。
この果実は長期保存が可能で、旅や探索においても貴重な糧となるだろう。なにより、夜間の警戒や長距離偵察を可能にする効果は、町にとって計り知れない価値を持っていた。
アキオの町は、この新たな発見によって、ただ飢えを凌ぐだけでなく、防衛や開拓にも強い力を得ることとなった。
現在の町の畑で採れる芋や、試験栽培中の大豆、そして森鶏の卵や岩山羊の乳だけでは、急増した人口を長期的に支えるには限界があった。
「カイたちが率いる開拓団が、新しい畑の造成を急いでくれていますが、作物が実るまでにはまだ時間がかかりますわ…」
中央館の食料庫の前で、アヤネが心配そうに呟く。キナが率いる狩猟隊も、連日森へ出てはいるが、町の需要を全て満たすほどの獲物を毎日確保するのは困難だった。
そんな町の空気を敏感に感じ取っていたのか、その日の昼下がり、生命樹の麓で異変が起きた。
大きく成長した三体の聖獣の子たちが、遊ぶのをやめ、落ち着きなくアウロラの周りをうろつき始めたのだ。彼らは、森の奥深くをじっと見つめ、そしてアウロラに向かって何かを必死に訴えかけるように、低く、しかし真剣な鳴き声を上げていた。
「まあ…」
双子の御子たちをあやしていたアウロラは、そのただならぬ気配を即座に感じ取った。彼女が聖獣たちの前に静かに立つと、一匹が代表するように進み出て、アウロラの衣の裾をその鼻先で優しく、しかし強く引っ張った。
「…分かりました。森の奥に、この町の憂いを晴らす『豊穣』があるというのですね」
アウロラは、その聖なる力で彼らの意思を正確に読み取った。聖獣たちは、町の食料危機をその超常的な感覚で理解し、解決策の在処を示そうとしているのだ。
そして、アウロラは、この重要な任務を託すべき唯一の人物、聖獣たちの育ての親であり、誰よりも彼らと心を通わせるキナを呼び出した。
「キナ、この子たちが、あなたを呼んでいます。彼らを信じ、共に行ってあげてください。森の奥に、私たちの未来を支える、大切なものがあるようです」
アウロラの神託にも似た言葉を受け、キナは四体の聖獣たちの真剣な眼差しを見つめ返した。その瞳には、自分への絶対的な信頼が宿っている。
「…分かったぜ、アウロラ姉ちゃん! こいつらがそう言うんなら、間違いねえ! ちょっと森の豊穣を頂戴してくらあ!」
キナは、事の重要性を即座に理解し、アキオ鋼の山刀と数日分の保存食を背嚢に詰めると、アキオに見送られ、三体の聖獣と共に森の奥深くへと出発した。
一行は、かつて森の主がいた聖域を抜け、キナでさえも足を踏み入れたことのない、深く神聖な領域へと進んでいく。聖獣たちは、迷うことなく、森の獣道や、時には道なき道を進んでいった。
数時間の探索の後、一行は、陽光と薄青い霧が交じり合う、ひんやりとした谷間にたどり着いた。そこでは、背の低い木々が群生し、枝先には半透明の淡青色の楕円形果実が鈴なりになっていた。果実はわずかに光を帯び、風に揺れるたびに、かすかな鈴音のような音を立てていた。
「なんだ、こりゃあ…!?」
聖獣の一匹が、その果実をもぎ取り、キナの足元に置いた。皮は薄く、手で軽く割ると淡い芳香が広がる。
キナが一口かじると、爽やかな甘酸っぱさと同時に、口の中に冷たい清流を含んだような感覚が広がった。
「……おおっ、頭が冴えてくる…!」
視界の隅々までが鮮明になり、遠くの葉の揺れや小動物の気配まで感じ取れるような鋭敏さが、わずか数呼吸のうちに訪れた。軽い切り傷も、じんわりと熱を帯びて癒えていくのが分かる。
キナは、その木々が谷間全体に広がっているのを見て、これがどれほど価値のある発見であるかを悟った。実の付き方は一定ではなく、熟した果実と若い果実が混在しており、季節を問わず収穫可能なことを示していた。
「『豊穣の果実(ほうじょうのかじつ)』…アウロラ姉ちゃんの言ってたのは、これのことか…!」
その日の夕方、キナと聖獣たちは、その「豊穣の果実」を運べる限り持ち帰った。
この果実は長期保存が可能で、旅や探索においても貴重な糧となるだろう。なにより、夜間の警戒や長距離偵察を可能にする効果は、町にとって計り知れない価値を持っていた。
アキオの町は、この新たな発見によって、ただ飢えを凌ぐだけでなく、防衛や開拓にも強い力を得ることとなった。
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