220 / 400
第220話:聖域の行軍、そして希望の糧
しおりを挟む
アキオの町の中央館には、張り詰めた空気が満ちていた。キナとカイをリーダーとする斥候隊が、森の奥へと向かってから半日が経過している。アキオは、執務室で凛と今後の町の運営について話し合いながらも、その意識は常に、町の外、深く静まり返った森へと向けられていた。
その静寂は、突如として破られた。
広場の方角から、人々のどよめきと、獣の切迫した鳴き声が響く。アキオが部屋を飛び出すと、そこには、泥と朝露にまみれ、息を切らした銀色の影——斥候隊に同行した聖獣の一匹が、まっすぐに彼に向かって駆け寄ってくるところだった。
聖獣は、アキオの足元に崩れ落ちるようにして伏せると、その口に固く咥えていた、キナの匂いが染みついた木の皮の切れ端を差し出した。そこに走り書きされていたのは、ただ一言。「数百、飢餓、救助求ム」と。
その報せは、アキオの町全体を、かつてないほどの緊張感で包み込んだ。
「聞いたか、皆!」
アキオの力強い声が、集まってきた住民たちの心に直接響き渡る。その瞳には、揺るぎない決意の光が宿っていた。
「森の奥で、俺たちの新しい仲間が、助けを待っている! 飢えと絶望の中で、今まさに命の火が消えかかっている者たちがいるんだ!」
彼は、集まった全ての住民を見渡し、高らかに宣言した。
「備蓄がどうとか、場所がどうとか、そんなことは後だ! 目の前の命を見捨てるような町に、未来はない! 我々は、聖域の民だ! 助けを求める者全てを、救う!」
「町の総力を挙げて、救出に向かう! 動ける者は全員、今すぐ準備にかかれ!」
「「「おおおっ!!」」」
その号令一下、アキオの町は、一つの巨大な生命体のように、迅速に、そして有機的に動き始めた。
診療所と薬草園では、シルヴィアと、ヴァルト子爵領から帰還して格段に成長したミコが、助産師マーサや産婆見習いたちを指揮していた。
「滋養に富み、弱った身体でも吸収しやすい栄養薬湯を、大鍋で!」「消耗品は惜しまないで! 傷を清めるための布と清潔な水を、樽ごと用意して!」
シルヴィアの的確な指示が飛ぶ。
中央館の大厨房では、臨月間近の大きな身体にも関わらず、アヤネが宰相としての腕を振るっていた。
「まずは、栄養価の高い芋と、乾燥させた豆を使った粥を、運べる限り用意します!」「希望の会の方々は、炊き出しの準備を!」「新しく来た女性たちも、どうか力を貸してください。パンを、一つでも多く!」
彼女の落ち着いた、しかし力強い声に導かれ、町の女性たちは一丸となって、数百人分の命を繋ぐための食事の準備に取り掛かる。
工房地区では、アルトとドルガン親方が、男たちに檄を飛ばしていた。
「担架だ! 軽くて丈夫な担架を、ありったけ作れ!」「リヤカーと力王の最終点検を急げ! 悪路でも進めるように、車輪の補強を忘れるな!」
更生した元「荒くれ共」も、ザックやゴルドーを中心に、その有り余る体力を、今は人命を救うために、黙々と注ぎ込んでいた。
やがて、夜が明け、町の歴史上、最大規模となる救出隊が編成された。
屈強な男たちで構成され、アルトが率いる工兵・輸送隊。医療班を率いるミコ。そして、アキオ自らが総指揮官として、先頭に立つ。
出発の朝。アキオの前に、妊娠中の妻たちが静かに寄り添った。
「あなた…どうか、ご無事で。わたくしたちは、この町と、お腹の子たちを守って、あなたの帰りを待っています」アヤネが、夫の手にそっと触れる。
「アキオ、行ってらっしゃい。あなたのその慈愛こそが、この聖域の光ですわ」シルヴィアもまた、夫の瞳を真っ直ぐに見つめた。
アウロラは、アキオの額にそっと指を触れ、聖なる加護を授けた。「アキオ。あなたの道に、暁の光の導きがあらんことを」
妻たちの愛をその背に受け、アキオは力強く頷いた。
アキオの町の、歴史上、最大規模の人道支援作戦が、今、始まった。聖域の民の、誇りと覚悟を乗せた一団が、絶望の谷へと、静かに、しかし力強く進んでいく。
その静寂は、突如として破られた。
広場の方角から、人々のどよめきと、獣の切迫した鳴き声が響く。アキオが部屋を飛び出すと、そこには、泥と朝露にまみれ、息を切らした銀色の影——斥候隊に同行した聖獣の一匹が、まっすぐに彼に向かって駆け寄ってくるところだった。
聖獣は、アキオの足元に崩れ落ちるようにして伏せると、その口に固く咥えていた、キナの匂いが染みついた木の皮の切れ端を差し出した。そこに走り書きされていたのは、ただ一言。「数百、飢餓、救助求ム」と。
その報せは、アキオの町全体を、かつてないほどの緊張感で包み込んだ。
「聞いたか、皆!」
アキオの力強い声が、集まってきた住民たちの心に直接響き渡る。その瞳には、揺るぎない決意の光が宿っていた。
「森の奥で、俺たちの新しい仲間が、助けを待っている! 飢えと絶望の中で、今まさに命の火が消えかかっている者たちがいるんだ!」
彼は、集まった全ての住民を見渡し、高らかに宣言した。
「備蓄がどうとか、場所がどうとか、そんなことは後だ! 目の前の命を見捨てるような町に、未来はない! 我々は、聖域の民だ! 助けを求める者全てを、救う!」
「町の総力を挙げて、救出に向かう! 動ける者は全員、今すぐ準備にかかれ!」
「「「おおおっ!!」」」
その号令一下、アキオの町は、一つの巨大な生命体のように、迅速に、そして有機的に動き始めた。
診療所と薬草園では、シルヴィアと、ヴァルト子爵領から帰還して格段に成長したミコが、助産師マーサや産婆見習いたちを指揮していた。
「滋養に富み、弱った身体でも吸収しやすい栄養薬湯を、大鍋で!」「消耗品は惜しまないで! 傷を清めるための布と清潔な水を、樽ごと用意して!」
シルヴィアの的確な指示が飛ぶ。
中央館の大厨房では、臨月間近の大きな身体にも関わらず、アヤネが宰相としての腕を振るっていた。
「まずは、栄養価の高い芋と、乾燥させた豆を使った粥を、運べる限り用意します!」「希望の会の方々は、炊き出しの準備を!」「新しく来た女性たちも、どうか力を貸してください。パンを、一つでも多く!」
彼女の落ち着いた、しかし力強い声に導かれ、町の女性たちは一丸となって、数百人分の命を繋ぐための食事の準備に取り掛かる。
工房地区では、アルトとドルガン親方が、男たちに檄を飛ばしていた。
「担架だ! 軽くて丈夫な担架を、ありったけ作れ!」「リヤカーと力王の最終点検を急げ! 悪路でも進めるように、車輪の補強を忘れるな!」
更生した元「荒くれ共」も、ザックやゴルドーを中心に、その有り余る体力を、今は人命を救うために、黙々と注ぎ込んでいた。
やがて、夜が明け、町の歴史上、最大規模となる救出隊が編成された。
屈強な男たちで構成され、アルトが率いる工兵・輸送隊。医療班を率いるミコ。そして、アキオ自らが総指揮官として、先頭に立つ。
出発の朝。アキオの前に、妊娠中の妻たちが静かに寄り添った。
「あなた…どうか、ご無事で。わたくしたちは、この町と、お腹の子たちを守って、あなたの帰りを待っています」アヤネが、夫の手にそっと触れる。
「アキオ、行ってらっしゃい。あなたのその慈愛こそが、この聖域の光ですわ」シルヴィアもまた、夫の瞳を真っ直ぐに見つめた。
アウロラは、アキオの額にそっと指を触れ、聖なる加護を授けた。「アキオ。あなたの道に、暁の光の導きがあらんことを」
妻たちの愛をその背に受け、アキオは力強く頷いた。
アキオの町の、歴史上、最大規模の人道支援作戦が、今、始まった。聖域の民の、誇りと覚悟を乗せた一団が、絶望の谷へと、静かに、しかし力強く進んでいく。
63
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
家ごと異世界ライフ
もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる