297 / 387
第297話:聖樹の恵み、そして北への隊列
しおりを挟む
アキオの町を出発した二台の魔導車——虹色の輝きを放つ最新型の『流星』と、屈強な『力王』——は、聖域街道の未舗装区間を、土埃を上げながら、力強く北へと進んでいた。王家との会談という、聖域の未来を左右する大きな目的を前に、車内には、程よい緊張感と、そして、家族と共にあるという、温かな空気が満ちていた。
一行は、まず、かつて「生命力の暴走」が起きていた、森の主の跡地へと立ち寄った。
魔導車を降りた瞬間、妻たちから、感嘆のため息が漏れた。そこは、もはや、ただの森ではない。神聖樹『アルクス・ヴィリディス』を中心に、清浄で、そして穏やかな、圧倒的な生命のオーラに満ちた、本物の「聖域」へと変貌していたのだ。
「まあ…素晴らしいですわ、アキオ。貴方の力が、そして、わたくしたちの想いが、このような奇跡を生んだのですね」
シルヴィアが、うっとりと、その神聖な空気に身を浸す。
アキオが、アルクス・ヴィリディスの麓へと、静かに歩み寄った、その時だった。神聖樹の枝が、まるでアキオを歓迎するかのように、そっと揺らめいた。そして、その根元から、光る苔に包まれた、数本の新しい苗木と、輝く種子が入った革袋を、アキオの前に、そっと差し出すのであった。
「これは…!」
アキオが、その苗木を手に取ると、シルヴィアが、その力を鑑定した。
「アキオ…これは、あの日貴方が授かった『神聖なる実』程の力はありませんが、それでも、このアルクス・ヴィリディスの、強大な生命力を受け継いだ、特別な苗木ですわ。これを植えれば、その土地は、時間をかけて、豊かな聖域へと変わっていくでしょう」
アキオは、その苗木と種子を、丁重に受け取った。
(…子爵、侯爵…そして、侯爵領の先には、王都か。この種は、そのために、アルクス・ヴィリディスが、俺に託してくれたのかもしれんな…)
アキオは、いずれ、王都にも、この聖域の恵みを届けねばならない日が来ることを、静かに、しかし、はっきりと予感するのだった。
一行は、再び魔導車に乗り込み、ヴァルト(新)侯爵の領地へと向かった。
都に到着すると、アレクサンダー侯爵は、一行を、英雄として、領民を挙げて、熱狂的に出迎えた。
「アキオ殿! よくぞ、お越しくださった! 旅の疲れを、まずは癒やしてほしい」
その夜、一行は、城で一泊し、つかの間の休息を取った。
翌日、子爵は、一行を、自領の「小さな聖域」へと案内した。そこでは、生命樹の若木が、アルクス・ヴィリディスほどではないにせよ、力強く根を張り、周囲を清浄な気で満たしていた。
そして、その若木の麓で、一頭の、角が生えたばかりの、子鹿のような、新しい聖獣が、無邪気に戯れている。
アウロラは、その光景に、聖母のように微笑んだ。
「聖獣は、その土地の生命樹の『子』であり、その土地の『願い』を映す鏡。この子が、これほど穏やかであるということは、ヴァルト様の統治が、民に安らぎを与えている、何よりの証ですわ」
一方、キナは、その聖獣に、ためらうことなく近づくと、その匂いを嗅ぎ、そして、力強く、しかし優しく、その首筋を撫でてやった。
「へっ、こいつは、うちの奴らとは、少し性質が違うみてえだな。ここの土地の気を受けて、おっとりした性格に育ってる。だが、いざという時の力は、本物だぜ。良い守り手になるだろうよ」
二人の妻の、それぞれの視点からの言葉は、ヴァルト侯爵に、聖域との絆の深さを、改めて感じさせた。
そして、旅立ちの朝。
城門の前には、アキオたちの二台の魔導車と、そして、ヴァルト侯爵が自ら乗り込む、真新しい『天馬』の姿があった。
「アキオ殿。ここから先のスタンフィールド公爵領は、私の領地とはまた違う、独自の慣習と、複雑な力関係がある。この旅、案内役として、私と、この『天馬』も同行させてはくれまいか」
アキオは、その心強い申し出を、喜んで快諾した。
こうして、アキオの『流星』と『力王』、そしてヴァルト侯爵の『天馬』。三台の魔導車が、威風堂々とした隊列を組み、最終目的地である、スタンフィールド公爵領を目指し、北へと出発した。
その旅路は、特に大きなトラブルもなく、驚くほど、穏やかなものだった。それは、二台の魔導車の圧倒的な存在感と、そして、アルクス・ヴィリディスの誕生によって、この地域の森や魔物たちの力関係が、既に、聖域に有利な形へと、静かに、しかし確実に、塗り替えられ始めていたからかもしれない。
聖域の一行は、今、歴史の表舞台へと、その歩みを、確かに進めていた。
一行は、まず、かつて「生命力の暴走」が起きていた、森の主の跡地へと立ち寄った。
魔導車を降りた瞬間、妻たちから、感嘆のため息が漏れた。そこは、もはや、ただの森ではない。神聖樹『アルクス・ヴィリディス』を中心に、清浄で、そして穏やかな、圧倒的な生命のオーラに満ちた、本物の「聖域」へと変貌していたのだ。
「まあ…素晴らしいですわ、アキオ。貴方の力が、そして、わたくしたちの想いが、このような奇跡を生んだのですね」
シルヴィアが、うっとりと、その神聖な空気に身を浸す。
アキオが、アルクス・ヴィリディスの麓へと、静かに歩み寄った、その時だった。神聖樹の枝が、まるでアキオを歓迎するかのように、そっと揺らめいた。そして、その根元から、光る苔に包まれた、数本の新しい苗木と、輝く種子が入った革袋を、アキオの前に、そっと差し出すのであった。
「これは…!」
アキオが、その苗木を手に取ると、シルヴィアが、その力を鑑定した。
「アキオ…これは、あの日貴方が授かった『神聖なる実』程の力はありませんが、それでも、このアルクス・ヴィリディスの、強大な生命力を受け継いだ、特別な苗木ですわ。これを植えれば、その土地は、時間をかけて、豊かな聖域へと変わっていくでしょう」
アキオは、その苗木と種子を、丁重に受け取った。
(…子爵、侯爵…そして、侯爵領の先には、王都か。この種は、そのために、アルクス・ヴィリディスが、俺に託してくれたのかもしれんな…)
アキオは、いずれ、王都にも、この聖域の恵みを届けねばならない日が来ることを、静かに、しかし、はっきりと予感するのだった。
一行は、再び魔導車に乗り込み、ヴァルト(新)侯爵の領地へと向かった。
都に到着すると、アレクサンダー侯爵は、一行を、英雄として、領民を挙げて、熱狂的に出迎えた。
「アキオ殿! よくぞ、お越しくださった! 旅の疲れを、まずは癒やしてほしい」
その夜、一行は、城で一泊し、つかの間の休息を取った。
翌日、子爵は、一行を、自領の「小さな聖域」へと案内した。そこでは、生命樹の若木が、アルクス・ヴィリディスほどではないにせよ、力強く根を張り、周囲を清浄な気で満たしていた。
そして、その若木の麓で、一頭の、角が生えたばかりの、子鹿のような、新しい聖獣が、無邪気に戯れている。
アウロラは、その光景に、聖母のように微笑んだ。
「聖獣は、その土地の生命樹の『子』であり、その土地の『願い』を映す鏡。この子が、これほど穏やかであるということは、ヴァルト様の統治が、民に安らぎを与えている、何よりの証ですわ」
一方、キナは、その聖獣に、ためらうことなく近づくと、その匂いを嗅ぎ、そして、力強く、しかし優しく、その首筋を撫でてやった。
「へっ、こいつは、うちの奴らとは、少し性質が違うみてえだな。ここの土地の気を受けて、おっとりした性格に育ってる。だが、いざという時の力は、本物だぜ。良い守り手になるだろうよ」
二人の妻の、それぞれの視点からの言葉は、ヴァルト侯爵に、聖域との絆の深さを、改めて感じさせた。
そして、旅立ちの朝。
城門の前には、アキオたちの二台の魔導車と、そして、ヴァルト侯爵が自ら乗り込む、真新しい『天馬』の姿があった。
「アキオ殿。ここから先のスタンフィールド公爵領は、私の領地とはまた違う、独自の慣習と、複雑な力関係がある。この旅、案内役として、私と、この『天馬』も同行させてはくれまいか」
アキオは、その心強い申し出を、喜んで快諾した。
こうして、アキオの『流星』と『力王』、そしてヴァルト侯爵の『天馬』。三台の魔導車が、威風堂々とした隊列を組み、最終目的地である、スタンフィールド公爵領を目指し、北へと出発した。
その旅路は、特に大きなトラブルもなく、驚くほど、穏やかなものだった。それは、二台の魔導車の圧倒的な存在感と、そして、アルクス・ヴィリディスの誕生によって、この地域の森や魔物たちの力関係が、既に、聖域に有利な形へと、静かに、しかし確実に、塗り替えられ始めていたからかもしれない。
聖域の一行は、今、歴史の表舞台へと、その歩みを、確かに進めていた。
43
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
過労死した家具職人、異世界で快適な寝具を作ったら辺境の村が要塞になりました ~もう働きたくないので、面倒ごとは自動迎撃ベッドにお任せします
☆ほしい
ファンタジー
ブラック工房で働き詰め、最後は作りかけの椅子の上で息絶えた家具職人の木崎巧(キザキ・タクミ)。
目覚めると、そこは木材資源だけは豊富な異世界の貧しい開拓村だった。
タクミとして新たな生を得た彼は、もう二度とあんな働き方はしないと固く誓う。
最優先事項は、自分のための快適な寝具の確保。
前世の知識とこの世界の素材(魔石や魔物の皮)を組み合わせ、最高のベッド作りを開始する。
しかし、完成したのは侵入者を感知して自動で拘束する、とんでもない性能を持つ魔法のベッドだった。
そのベッドが村をゴブリンの襲撃から守ったことで、彼の作る家具は「快適防衛家具」として注目を集め始める。
本人はあくまで安眠第一でスローライフを望むだけなのに、貴族や商人から面倒な依頼が舞い込み始め、村はいつの間にか彼の家具によって難攻不落の要塞へと姿を変えていく。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる