298 / 387
第298話:公爵の出迎え、そして聖域の温泉
しおりを挟む
アキオたちが率いる三台の魔導車——最新鋭の『流星』、屈強な『力王』、そしてヴァルト新侯爵が駆る『天馬』——は、スタンフィールド公爵領の、よく整備された街道を、滑るように北へと進んでいた。その旅は、驚くほど順調で、一行が、公爵の都であるアインクラッドの、壮大な城壁を視界に捉えたのは、子爵領を出発してから、わずか二時間後のことだった。
クラウディアが操縦する『流星』が、先頭を切って城門へと近づいた、まさにその時だった。
「アキオ殿! 前方を!」
ヴァルト侯爵からの、緊迫した通信が車内に響く。
見れば、巨大な城門から、山のような巨漢——スタンフィールド新公爵が、満面の笑みを浮かべ、両手を広げながら、道の真ん中へと、猛然と飛び出してくるではないか。
「クラウディア、ブレーキ!」
アキオの鋭い声に、クラウディアは、即座に、しかし冷静に、魔導車の制動装置を作動させる。キィィィッ!という、金属が軋む甲高い音と共に、『流星』は、公爵の鼻先、わずか数メートルの位置で、ギリギリ停止した。
だが、公爵は、全く動じる様子がない。それどころか、その巨躯で、この魔導車を、真正面から受け止めるつもりだったかのようだ。**(…だが、あれをはねても、その巨躯で、受け止められそうで、ある意味怖い)**と、アキオは背筋に、ぞくりとした、ある種の畏敬の念さえ感じていた。
その、常識外れの出迎えに、一行が呆気にとられていると、『流星』の後部ドアが勢いよく開き、同乗していた公爵令嬢シャルロッテが、顔を真っ赤にして飛び出してきた。
「お父様! 危ないではございませんか! 何を考えていらっしゃるのです! 万が一、この美しい『流星』に、傷でもついたら、どうしてくださるのです!」
少しだけ論点がズレた、しかし、心の底からの、愛娘のお説教。公爵は、その言葉に、バツが悪そうに、その巨大な頭を掻いた。
「がっはっは! すまん、すまん、シャルロッテ! いや、なに、アキオ殿たちの、この素晴らしい乗り物の性能を、我が身をもって確かめてみたくなってな!」
公爵の居城で、歓迎の挨拶もそこそこに、アキオは早速、数日後に迫った、王家の名代との会談場所について、公爵に尋ねた。
「うむ? 会談場所の選定か? いや、まだ、何も決めていないが? 君たちが来てから、一緒に決めれば良いと思っておったわい! がっはっは!」
その、あまりのマイペースっぷりに、凛とクラウディアは、めまいを覚える。この国の、最高権力者の一人が、これで本当に務まるのだろうか、と。
結局、アキオの提案で、会談場所は、この公爵領に新しく創造された**「小さな聖域」に、急ごしらえで場を整えることになった。
しかし、一行がその地を訪れると、そこには、驚くべき光景が広がっていた。以前、シルヴィアたちが「いずれ湧き出すだろう」と予言していた通り**、先日、生命樹の若木を植えた、そのすぐそばの大地の亀裂から、こんこんと、清らかな湯が、間欠泉のように湧き出ていたのだ。
「おおお! 温泉じゃあ! アキオ殿、君は、わしに、湯治場まで作ってくれるのか!」
公爵は、子供のようにはしゃぎ、その場で服を脱ぎ捨て、湧き出たばかりの湯に、飛び込もうとさえした。
周囲は、聖域化して、樹木も生い茂るようになったとはいえ、まだ岩だらけなのも事実。
アキオが、「この岩をどかせば、素晴らしい露天風呂になるんだがな…」と呟いた、その瞬間。公爵の目の色が変わった。
「よし、お前たち、聞いたな! 全員、ここに集まれ! アキオ殿が、風呂をお望みだ! 期日までに、世界最高の湯浴み場を、ここに創り上げるのだ!」
流石は公爵。その号令一下、数百人という領地の兵士や石工たちが、その場に大量投入された。彼らは、驚異的な速度で、岩を砕き、土を運び、湯船の形を整えていく。アキオが、その基礎工事に、いくつかの技術的な助言を与えると、その作業効率は、さらに飛躍的に向上した。そして、会談の前日には、そこには、生命樹の若木を望む、美しい東屋(あずまや)と、数十人が一度に入れる、巨大で、そして見事な岩造りの露天風呂が、完璧な形で完成していた。
会談の前夜。アキオは、公爵、そしてヴァルト侯爵と共に、その完成したばかりの、極上の温泉に浸かっていた。湯けむりの中で、三人の男たちは、裸の付き合いをしながら、明日の会談に向けた、最後の打ち合わせを行う。
その、リラックスした雰囲気の中で、アキオは、この二人の、見た目や立場とは違う、その人間的な魅力に、改めて触れるのだった。スタンフィールド公爵の、常識外れの行動力と、子供のような純粋さ。ヴァルト侯爵の、盟友への、揺るぎない忠誠心と、真面目さ。
(…こいつら、面白いな)
アキオは、この、一筋縄ではいかない、しかし、どこか憎めない、新しい仲間たちとの未来に、大きな期待と、そして、少しばかりの、厄介な予感を抱きながら、聖域の夜空を見上げるのだった。
クラウディアが操縦する『流星』が、先頭を切って城門へと近づいた、まさにその時だった。
「アキオ殿! 前方を!」
ヴァルト侯爵からの、緊迫した通信が車内に響く。
見れば、巨大な城門から、山のような巨漢——スタンフィールド新公爵が、満面の笑みを浮かべ、両手を広げながら、道の真ん中へと、猛然と飛び出してくるではないか。
「クラウディア、ブレーキ!」
アキオの鋭い声に、クラウディアは、即座に、しかし冷静に、魔導車の制動装置を作動させる。キィィィッ!という、金属が軋む甲高い音と共に、『流星』は、公爵の鼻先、わずか数メートルの位置で、ギリギリ停止した。
だが、公爵は、全く動じる様子がない。それどころか、その巨躯で、この魔導車を、真正面から受け止めるつもりだったかのようだ。**(…だが、あれをはねても、その巨躯で、受け止められそうで、ある意味怖い)**と、アキオは背筋に、ぞくりとした、ある種の畏敬の念さえ感じていた。
その、常識外れの出迎えに、一行が呆気にとられていると、『流星』の後部ドアが勢いよく開き、同乗していた公爵令嬢シャルロッテが、顔を真っ赤にして飛び出してきた。
「お父様! 危ないではございませんか! 何を考えていらっしゃるのです! 万が一、この美しい『流星』に、傷でもついたら、どうしてくださるのです!」
少しだけ論点がズレた、しかし、心の底からの、愛娘のお説教。公爵は、その言葉に、バツが悪そうに、その巨大な頭を掻いた。
「がっはっは! すまん、すまん、シャルロッテ! いや、なに、アキオ殿たちの、この素晴らしい乗り物の性能を、我が身をもって確かめてみたくなってな!」
公爵の居城で、歓迎の挨拶もそこそこに、アキオは早速、数日後に迫った、王家の名代との会談場所について、公爵に尋ねた。
「うむ? 会談場所の選定か? いや、まだ、何も決めていないが? 君たちが来てから、一緒に決めれば良いと思っておったわい! がっはっは!」
その、あまりのマイペースっぷりに、凛とクラウディアは、めまいを覚える。この国の、最高権力者の一人が、これで本当に務まるのだろうか、と。
結局、アキオの提案で、会談場所は、この公爵領に新しく創造された**「小さな聖域」に、急ごしらえで場を整えることになった。
しかし、一行がその地を訪れると、そこには、驚くべき光景が広がっていた。以前、シルヴィアたちが「いずれ湧き出すだろう」と予言していた通り**、先日、生命樹の若木を植えた、そのすぐそばの大地の亀裂から、こんこんと、清らかな湯が、間欠泉のように湧き出ていたのだ。
「おおお! 温泉じゃあ! アキオ殿、君は、わしに、湯治場まで作ってくれるのか!」
公爵は、子供のようにはしゃぎ、その場で服を脱ぎ捨て、湧き出たばかりの湯に、飛び込もうとさえした。
周囲は、聖域化して、樹木も生い茂るようになったとはいえ、まだ岩だらけなのも事実。
アキオが、「この岩をどかせば、素晴らしい露天風呂になるんだがな…」と呟いた、その瞬間。公爵の目の色が変わった。
「よし、お前たち、聞いたな! 全員、ここに集まれ! アキオ殿が、風呂をお望みだ! 期日までに、世界最高の湯浴み場を、ここに創り上げるのだ!」
流石は公爵。その号令一下、数百人という領地の兵士や石工たちが、その場に大量投入された。彼らは、驚異的な速度で、岩を砕き、土を運び、湯船の形を整えていく。アキオが、その基礎工事に、いくつかの技術的な助言を与えると、その作業効率は、さらに飛躍的に向上した。そして、会談の前日には、そこには、生命樹の若木を望む、美しい東屋(あずまや)と、数十人が一度に入れる、巨大で、そして見事な岩造りの露天風呂が、完璧な形で完成していた。
会談の前夜。アキオは、公爵、そしてヴァルト侯爵と共に、その完成したばかりの、極上の温泉に浸かっていた。湯けむりの中で、三人の男たちは、裸の付き合いをしながら、明日の会談に向けた、最後の打ち合わせを行う。
その、リラックスした雰囲気の中で、アキオは、この二人の、見た目や立場とは違う、その人間的な魅力に、改めて触れるのだった。スタンフィールド公爵の、常識外れの行動力と、子供のような純粋さ。ヴァルト侯爵の、盟友への、揺るぎない忠誠心と、真面目さ。
(…こいつら、面白いな)
アキオは、この、一筋縄ではいかない、しかし、どこか憎めない、新しい仲間たちとの未来に、大きな期待と、そして、少しばかりの、厄介な予感を抱きながら、聖域の夜空を見上げるのだった。
43
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活
怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。
スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。
何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで
ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。
家族も、家も、居場所もない。
そんな俺を拾ってくれたのは、
優しいSランク冒険者のパーティだった。
「荷物持ちでもいい、仲間になれ」
その言葉を信じて、
俺は必死に、置いていかれないようについていった。
自分には何もできないと思っていた。
それでも、少しでも役に立ちたくて、
誰にも迷惑をかけないようにと、
夜な夜な一人でダンジョンに潜り、力を磨いた。
仲間を護れるなら…
そう思って使った支援魔法や探知魔法も、
気づかれないよう、そっと重ねていただけだった。
だけどある日、告げられた。
『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
それは、優しさからの判断だった。
俺も分かっていた。だから、何も言えなかった。
こうして俺は、静かにパーティを離れた。
これからは一人で、穏やかに生きていこう。
そう思っていたし、そのはずだった。
…だけど、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、
また少し、世界が騒がしくなってきたようです。
◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる