五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第298話:公爵の出迎え、そして聖域の温泉

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 アキオたちが率いる三台の魔導車——最新鋭の『流星』、屈強な『力王』、そしてヴァルト新侯爵が駆る『天馬』——は、スタンフィールド公爵領の、よく整備された街道を、滑るように北へと進んでいた。その旅は、驚くほど順調で、一行が、公爵の都であるアインクラッドの、壮大な城壁を視界に捉えたのは、子爵領を出発してから、わずか二時間後のことだった。

 クラウディアが操縦する『流星』が、先頭を切って城門へと近づいた、まさにその時だった。
「アキオ殿! 前方を!」
 ヴァルト侯爵からの、緊迫した通信が車内に響く。
 見れば、巨大な城門から、山のような巨漢——スタンフィールド新公爵が、満面の笑みを浮かべ、両手を広げながら、道の真ん中へと、猛然と飛び出してくるではないか。
「クラウディア、ブレーキ!」
 アキオの鋭い声に、クラウディアは、即座に、しかし冷静に、魔導車の制動装置を作動させる。キィィィッ!という、金属が軋む甲高い音と共に、『流星』は、公爵の鼻先、わずか数メートルの位置で、ギリギリ停止した。
 だが、公爵は、全く動じる様子がない。それどころか、その巨躯で、この魔導車を、真正面から受け止めるつもりだったかのようだ。**(…だが、あれをはねても、その巨躯で、受け止められそうで、ある意味怖い)**と、アキオは背筋に、ぞくりとした、ある種の畏敬の念さえ感じていた。

 その、常識外れの出迎えに、一行が呆気にとられていると、『流星』の後部ドアが勢いよく開き、同乗していた公爵令嬢シャルロッテが、顔を真っ赤にして飛び出してきた。
「お父様! 危ないではございませんか! 何を考えていらっしゃるのです! 万が一、この美しい『流星』に、傷でもついたら、どうしてくださるのです!」
 少しだけ論点がズレた、しかし、心の底からの、愛娘のお説教。公爵は、その言葉に、バツが悪そうに、その巨大な頭を掻いた。
「がっはっは! すまん、すまん、シャルロッテ! いや、なに、アキオ殿たちの、この素晴らしい乗り物の性能を、我が身をもって確かめてみたくなってな!」

 公爵の居城で、歓迎の挨拶もそこそこに、アキオは早速、数日後に迫った、王家の名代との会談場所について、公爵に尋ねた。
「うむ? 会談場所の選定か? いや、まだ、何も決めていないが? 君たちが来てから、一緒に決めれば良いと思っておったわい! がっはっは!」
 その、あまりのマイペースっぷりに、凛とクラウディアは、めまいを覚える。この国の、最高権力者の一人が、これで本当に務まるのだろうか、と。

 結局、アキオの提案で、会談場所は、この公爵領に新しく創造された**「小さな聖域」に、急ごしらえで場を整えることになった。
 しかし、一行がその地を訪れると、そこには、驚くべき光景が広がっていた。以前、シルヴィアたちが「いずれ湧き出すだろう」と予言していた通り**、先日、生命樹の若木を植えた、そのすぐそばの大地の亀裂から、こんこんと、清らかな湯が、間欠泉のように湧き出ていたのだ。
「おおお! 温泉じゃあ! アキオ殿、君は、わしに、湯治場まで作ってくれるのか!」
 公爵は、子供のようにはしゃぎ、その場で服を脱ぎ捨て、湧き出たばかりの湯に、飛び込もうとさえした。

 周囲は、聖域化して、樹木も生い茂るようになったとはいえ、まだ岩だらけなのも事実。
 アキオが、「この岩をどかせば、素晴らしい露天風呂になるんだがな…」と呟いた、その瞬間。公爵の目の色が変わった。
「よし、お前たち、聞いたな! 全員、ここに集まれ! アキオ殿が、風呂をお望みだ! 期日までに、世界最高の湯浴み場を、ここに創り上げるのだ!」
 流石は公爵。その号令一下、数百人という領地の兵士や石工たちが、その場に大量投入された。彼らは、驚異的な速度で、岩を砕き、土を運び、湯船の形を整えていく。アキオが、その基礎工事に、いくつかの技術的な助言を与えると、その作業効率は、さらに飛躍的に向上した。そして、会談の前日には、そこには、生命樹の若木を望む、美しい東屋(あずまや)と、数十人が一度に入れる、巨大で、そして見事な岩造りの露天風呂が、完璧な形で完成していた。

 会談の前夜。アキオは、公爵、そしてヴァルト侯爵と共に、その完成したばかりの、極上の温泉に浸かっていた。湯けむりの中で、三人の男たちは、裸の付き合いをしながら、明日の会談に向けた、最後の打ち合わせを行う。
 その、リラックスした雰囲気の中で、アキオは、この二人の、見た目や立場とは違う、その人間的な魅力に、改めて触れるのだった。スタンフィールド公爵の、常識外れの行動力と、子供のような純粋さ。ヴァルト侯爵の、盟友への、揺るぎない忠誠心と、真面目さ。
(…こいつら、面白いな)
 アキオは、この、一筋縄ではいかない、しかし、どこか憎めない、新しい仲間たちとの未来に、大きな期待と、そして、少しばかりの、厄介な予感を抱きながら、聖域の夜空を見上げるのだった。
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