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しおりを挟む時が経つのは早いもので。俺が皆にあの戦い方を教える羽目になってから、既に数日が経過していた。
「どうだ! これなら――」
「詰めが甘ぇ」
「!」
「一朝一夕でできるわきゃねぇだろ」
トバイアスを始め、こぞって参加した皆がある程度形になってきた所だった。
だが、所詮はまだまだ付け焼き刃。付け入る隙は十分にあった。
逃げる俺を捕えようと掴み掛かってきたその腕を、素早く横から突いて力を逃す。僅かに重心が崩れたのを見計らいその脚を払った。すると、トバイアス程の巨体も面白いくらい簡単に地面へと転がっていく。
筋はそれ程悪くないと思えるのだ。ただ経験が浅いだけ。
「すっげ……何だあれ。なんでああ動けるんだ……こう、こうか?」
「うーん、アーチボルトのはちょっとだけ違う気がする。素早い動きではあるけどね」
俺とトバイアスの組み手を見て、外野が何やら小声で呟いている。皆真剣にやっているのはいい事だとは思う。
「毎日やって覚えろよ。コツは教えたんだ。相手は別に誰だってかまわねぇ」
「誰でもって……」
「そこは重要じゃねぇんだ。身体が先に動くまでやんなきゃな」
正直言うと、教えるのはトバイアス相手が一番楽しい。元から天才肌なんだろうと思う。もちろん、その鍛え上げた肉体や、何でも吸収しようとするその貪欲さの影響もあるのだろうけれど。
教えたものをすぐに吸収して再現できるだけの力を、この男は持っているのだ。正直言うと、それが羨ましく思う。
と、ツラツラそんな事を考えていたせいか。そのトバイアスの口から出た言葉に、俺は咄嗟に反応できなかった。
「アンタじゃだめなのか」
「……なんて?」
一瞬、言葉の意味がわからなかった。空耳じゃなかろうか。
俺の口からは、そんな言葉しか絞り出す事ができなかった。
「ずっと見てて思った。やっぱりアンタ、普通の人間じゃあないだろ。俺の知ってるどの騎士より戦いに慣れてるし強い。……片目なのにな?」
「……んなの、勘違いに決まってんだろ。俺が若い頃は戦いばかりだった。そういう、時代だった」
苦し紛れに用意していた言葉を告げる。別段嘘ではないし、実際そういう戦いに駆り出されていた人間もごろごろいた。間違ってはいなかった。
「アンタと同年代だろう騎士もいる。誰もが確かに強いが、アンタ程じゃあなかった。――アンタは一体、何者だ?」
そう真っ直ぐに見てくるトバイアスの視線を受け止めながら、俺は顔を顰めた。
結局、俺はその問いには意地でも答えなかった。好き勝手推測して、見当違いな捜索でもすればいい。俺さえ言わなきゃ、どうせバレるはずもないのだ。
「覚えておけよ」
まるで悪役のようなセリフを吐きながら、トバイアスは目の前でそう宣言した。
引き攣る顔はもう、その場で隠しようがなかった。
その翌日の事だった。俺達は、当初から予定していたラクダ部隊と無事に合流を果たした。そして勇者一行は、2日かけて東の港町であるサウザガを目指す事になる。
俺を先頭に、トウゴ、ジョゼフ、アーチボルト、エリアル、トバイアスと続く。駱駝を連れてきてくれた一行は、俺たちと並んで歩いてもらう事にした。
何かあった時、動きがどうしても遅れてしまう砂漠では互いの距離すら命取りとなる。そして、彼等から与えられる補給品もまた、俺達にとっては命綱だった。
「そちらさんはどこから呼ばれたんで?」
駱駝の上から俺は、並び歩く青年に声をかけた。砂避けで深くフードを被る彼の顔はよくは見えなかったが、褐色の肌に黒髪で、サウザガの砂漠地域に住む人間だと見て取れた。
「私ですか?」
「ああ」
「私達はサウザガの街より南にある、アレドという街の駐屯部隊です」
「アレド……軍の南部隊か」
「ええ、その通りです。……よく、ご存知ですね?」
声を聞いて分かったが、この青年は思っていたよりも若いようだ。きっと、出稼ぎか何かで軍に入れられたのだろう。
軍部に資金が潤沢に行き届くのはどこも同じだ。例え平和になろうとも、各国が軍事力を手放す事はなかった。どれほど国が豊かになろうとも、それは変わらないようだ。
「仕事柄な。前は賞金稼ぎをやってたんでな。情報貰いに行く事もある」
「成る程。今は……随分と平和になりましたから、大変じゃありません?」
「ああ、良い事なんだろうが、随分キツイ仕事になっちまったよ。次は案内人でもやろうかね……今みてぇに」
そんな軽口を叩いてそれっきり、俺たちは砂漠の中を黙って歩き続けた。
そうして順調に、砂漠の旅も2日目に突入する。オアシスを幾つか経由し、時折昼に野営をしながら砂漠の中を歩いた。
時折怪しい気配は感じれども、何かに襲われる事もなく旅路は順調なものだった。そうして、辿り着くのは巨大な港町だ。目の前の砂の丘を越えれば、そこは商人達がひしめき合う大都市サウザガ。
「すっご! 大きい街だね! アレがサウザガ?」
「ええ、そうでしょうも。アレが、貿易の中心都市であるサウザガです」
丘を登りきり、眼下に姿を現した都市は、砂の色と鮮やかな反物が翻る賑やかな街だ。ここからだと米粒のようにしか見えない人の往来は、日中ではほとんど絶える事がない。街を見下ろしながらトウゴが叫ぶと、軍の青年は誇らし気に答えていた。
ようやく、このツラい砂漠も歩き終わる。そう考えだしてしまうと、逸る心を抑えるのが難しくなる。早く、街の宿でゆっくりと休みたくなった。
少しばかりウキウキとしながら、トウゴ達の後ろで街を眺めていた時。突然、俺は妙な耳鳴りに襲われた。
「ッ……、なんだこれ」
突然の事で咄嗟に耳を塞ぐ。それでも全く治る気配はなくて、俺は俯きながら困惑した。
周囲の誰も、同じ不調を訴える者はいなかった。
「ギルバート殿? ……どうされました?」
「耳鳴りが……」
次第に皆が俺の異変に気付き始め、その場で次々と剣や武器に手を添え出したのだった。
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