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しおりを挟む「昨日はよくもやってくれたな……?」
スッキリとした朝の目覚め。ぐっすりと眠り、機嫌を持ち直した俺が食事にありつこうというまさにその時。
ガキ大将ばりに突撃してくるトバイアスに、俺は絡まれてしまった。
「ちょっと、ねぇ、やめよう? ……朝も早いしせめて、もう少しだけ時間を置こうよ」
そう言うトウゴがまるで天使のように見える。あれだ、暴走する旦那を抑える女房のようだ。
昨晩はあれだけ酷い態度を取っておいてなんだけれども、今日はとても彼が頼もしく見える。
そのままトバイアス連れてどっか行ってくんないかな、なんていう俺の願いはしかし叶わず。猪突猛進ばりの威嚇を繰り返してくる野獣に捕まり、俺はとうとう表へと引っ張り出されてしまった。
「貴様を暴いてやる。トウゴを危険な目に合わせておいて、タダで済むと思うなよ?」
本当に食事だけのつもりで油断しくさっていた俺は、ほとんど部屋着のだらしの無い姿で、宿屋前の公衆の面前へと立たされている。
何という羞恥プレイだろうか。
一体何が始まるんだと期待に胸膨らませた人間達が、こんな俺たちの周囲に人だかりを作っていた。片や、見目も良く大柄で毅然とした態度の逞しい男で、片やそこいらで飲んだくれていそうな見た目の、眼帯をした怪しいおっさんだ。
ここで賭をするなら確実に俺ではなく、目の前の男の方を選ぶ。俺だってそうする。
こんな姿を大勢の前見られるのは流石に恥ずかしかった。なにぶん、つい最近まで引き篭もっていたような男なのだ。実は大勢の前に立つのはあまり得意ではないのだ。誰も信じちゃくれないが。
「トウゴの事もそうだが……貴様、昨日は俺に何をした? あんなに簡単に投げ飛ばせるだなんて、お前が何かした意外に考えられない」
「何かって言われてもな……魔法も何もなかったろ? お前の勢いを利用しただけだ」
「……あんな体術は見た事がない」
「そりゃあ、アイツの直伝で――」
そこまで言って後悔する。昔の仲間の事をこんな所で口に出してしまって、自分は一体何を考えているんだろうかと呆れるばかりだ。昨日から、怪しまれても仕方ないような行動ばかりしている。
やっぱり、こんな依頼は引き受けるのではなかったのだ。色々と奥底に押し込めていたものを思い出してしまう。
男は、仲間だった剣士の一人だった。神速の剣だのと言われ、異国からやってきた人間にも体術を習うような変わり者だった。本物の騎士らしく誰にでも優しい、おっとりとした男だった。
けれども、戦いの最中にはまるで人が変わる。多分きっと、あの中で一番冷徹になれるのはあの男だった。
彼の戦った後はいつも、魔の者達の死体の山が一際堆く積まれ――
「アイツ? それは誰だ」
そう問われてハッと我に返った。
あまりにも懐かしい事を思い出してしまった。すべてが終わったあの時は、彼らを思い出すだけの時間も余裕も俺にはまるでなかったから。自分の足を踏み出すので精一杯だった。
それを今、どうしてだかこうやって思い出している。自分も随分と歳を食ったものだと、しみじみそんな事を思う。
「おい、聞いてるのか?」
「……聞こえてる」
「ならアイツとは一体」
「昔の、知り合いだ」
「……名前は?」
「死んだ。とっくの昔に」
トバイアスの問いには答えなかった。アイツの名前もまた、あまりにも有名すぎた。神速の剣豪ジョエルと言えば、当時ですら誰もが知る名前だった。俺と同じように。
「それは……悪かった。だが、見た事のないその体術、それに興味がある。お前みたいなのに負けを認めたようで業腹だが……それを教えられる奴はいないか?」
そんな事を言われて少しばかりギクリとした。あの技を知っている人間なんてのはほとんど見た事がなかった。
ましてや、俺は20年もの間平和な村に引き篭もっていたのだ。外の戦いの情勢なんて詳しい事はまるで分からない。
そう、つまりは。あの剣豪ジョエルの技を扱える者なんて、俺の知る限りでは俺しかいない。
と、言う事はだ? この流れは少しばかりマズいんではなかろうか。
「さぁ……随分と昔の話だしよ、この国のどっかには知ってる奴が――」
「なら仕方ない。お前が教えろ」
ほら来やがった! 何でどいつもこいつもこういう流れになるんだ! ガラじゃねぇって言ってんだろうが!
内心では罵倒を繰り返しながら、その場で顔をブルブルと横に振る。
「やめろアンタまで……! そんなのガラじゃねぇんだって」
「何でだ? お前は俺達に雇われたようなものだろう。賞金稼ぎが転じて何でも請け負うと聞いた。……話が違うんじゃないか?」
そう言ってニヤリと笑ったトバイアスに俺は唸った。
急繕いで作った設定がここで仇となった。雇われというのは結構な確率で肩身が狭い。たとえそれがただの名目上に過ぎないとしても、ここで俺が下手な事を言って正体がバレるのは避けたい訳で。
つまり、ここで俺に選択肢はないのである。無事にこの場を収めたいのならば、黙って頷いて大人しく教えるしかない。……また、妙な仕事が増えた。
「よろしく頼むぞ」
「一件落着だね!」
明らかに何か含んだような笑みを見せるトバイアスを見て、明るく元気にトウゴが言う。
全然何も落着してない。そう言いたいのは俺ばかりなんだろうか。
そして、その日の騒動はあっという間に広まり、同行者全員の知る所となった。
「何だその面白そうなの。俺も混ぜてくれ」
「……そんな奴に教えを請うなんて……皆頭がどうかしてしまったのか?」
旅の最中に起こった変化に、俺はまたしても振り回される。
そして、そんなある日の夜の事だ。
皆が寝静まったようなそんな時間帯。俺の部屋を訪ねる者があった。
扉の前に気配があるのに気付いて、俺は目を覚ました。こんな夜更けに一体何事だろうかと訝る中。その人物は何と、鍵をかけていた筈の部屋の中へと勝手に入ってきてしまったのだ。
「やあやあ、遅い時間に失礼するよ」
ベッドの上で唖然とする俺に向かって、侵入者――エリアルはいけしゃあしゃあと言いなすった。扉は開いていない。
「右目は、そろそろ抜いた方がいいだろう」
「は……」
そう言うが早いか。エリアルはその手を俺の頭に添えたかと思うと。ガツンと一発、かましてきたのだ。
「邪気払いの術だ。私にも扱えるが少し、乱暴だとよく言われる」
「~~ッ‼︎」
俺はベッドに転がって悶絶した。まるで神聖な力でぶん殴られたような感覚で、ぐわんぐわんと頭が揺れているようだった。
「少し痛いだろうが大丈夫だ、害はない。……たぶん」
不安になるような言葉をサラッと付け足して、エリアルは挨拶もそこそこに部屋を去ってしまった。では、と片手を挙げながら無表情に消えていくその顔が、酷く憎らしく思われた。
結局その後も俺の不調はしばらく続き、次の日の朝まで一睡もする事ができなかったのだった。
「は? 体調不良? 何を寝ぼけた事抜かしてる。行くぞ、働け」
「俺も楽しみだ。皆でやれるなんてさ」
「このおっさん、ほんと何者なんだ? なぁおい、知りたくないか?」
「僕は別に気にならないぞ」
「ん? じゃあ何で付いてくるんだ? ジョゼフは魔法使いなのに」
「ッ、皆が揃って行くというのに僕だけ行かない訳にはいかないだろう! 大体アーチボルトは――」
寝不足だというのに訓練だと言ってドナドナ引きずられていく俺は、一体ホント何者なんだろうか。
人素が悪いと文句を言われるのに、こうやって何故だか歳下にナメられる。子供達だけかと思っていたが、そうじゃない気もしてきていた。
首根っこを掴まれ引き摺られながら天を仰ぐ。清々しいほどの青空が、今はどうしてだか憎らしく思われた。
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