この恋は決して叶わない

一ノ清たつみ_引退騎士

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 その翌朝の事だった。
 昨晩は結局、リオンの幼姿に絆されまくって色んな我儘を聞いてしまった。子供たちの小さな頃の事を思い出してしまって、どうにも弱いらしかった。

 ただリオンの場合、幼姿なのは体だけだ。頭の回転はもちろん大人のそれである。……このままでは本当に、子供に弱いダメ親父一直線ではないか。

 そう思って、今日からはちゃんとリオンには厳しくいく。だなんて、俺は寝起き眼にそんな事を思っていたのだ。本気で、ちゃんと、まるで父親のようにそう考えていた。

 そして、朝、目を開けて一番に飛び込んできたその光景に、俺は早速後悔する事になった。意識は一気に覚醒した。

 同じベッドにはリオンが眠っている。昨晩、寂しいだ何だのぐずる彼に思わず、同衾を許してしまったのだ。
 まぁ別に、この姿ならば子供に添い寝する親だろうと言う事で、今日だけ、という約束を交わして眠りについた。
 だがもちろん、それはリオンが小さな子供の姿だったからこそ許したという話なのであって。

 寝て覚めてみたら青年の姿に戻っているだなんて。一体これをどうしてくれようか。
 しかも勘違いでなければ、リオンはまさかの素っ裸である。

「……」

 眠っている途中で変化が緩みこんな姿になってしまったのだろうとは思うのだが。俺の上衣の中にまで手を突っ込んで幸せそうに眠る姿は、色んな意味で破壊力が抜群だった。
 あんまりな光景に、俺は無言でしばらくリオンを見つめた。

「……おい、起きろリオン。お前、何でデカくなってんだよ……寝起きから台無しだ」
「うっ……ん?」

 目の前にある頭を揉みくちゃにすると、リオンは身じろぎをした。かと思えば、リオンは俺の胴体へと回している腕で抱き寄せたかと思うと、その顔を俺の胸元へとぐりぐり押し付けてきたのだ。
 まぁ、大人の姿でこれをやられて破壊力抜群。しかもこの時の力強さったらなかった。

「痛い痛い痛いっ、折れる! 折れる! リオン!」
「!」

 堪らず目の前にあった頭を平手で叩いてししまった。だが、そのおかげで俺の体は解放される。流石にそれで覚醒したリオンは、ゆらゆらと頭を揺らしながら、ゆっくりとその上半身を起こした。

「いったーい、なにぃ? おはよう、ギルバート」
「おはよう。色々と言いたい事はあるがまずは服を着ろ。裸だぞ」
「え? あ、ほんとだ。色々変化とけちゃった。練習したんだけどなぁ……えいっ!」

 ポンっと軽い音を立てて、リオンの体に服が装着される。それでようやく安堵した。

 自分と同じモンぶら下がってはいるものの、なまじお綺麗なリオンは俺の目にも少々毒だった。芸術品のように整った顔立ちが自分に付き従うだなんて、何だかイケナイ事でもしている気分になる。
 そんな内心を押し隠して、俺は盛大に溜息を吐く。先が思いやられた。

「まったく、寝起きに何てモン見せんだ……」
「ええー、でも僕の人間の姿、綺麗でしょ?」
「……どっからその自信は湧いてくるんだよ」

 やけにハッキリと言うその物言いに、俺はチクリと小言を返した。内心では考えが覗かれたようでちょっぴりドキドキしていたりするが。

 そして、その後に続くリオンの言葉に俺は耳を疑う事となる。

「色んな人に褒められたんだよ? 僕の身体綺麗だって」

 その言葉に一瞬、俺は頭が真っ白になった。まさか、この純真無垢な聖獣がそんな事を言うだなんて思ってもみなくて。
 俺はその場で飛び起きた。

「おいちょっと待てリオン! 色んな人に褒められるって、一体それどういう状況だ⁉︎」

 内心ではまんま保護者気分だ。ほとんど叫ぶようにそう言えば、リオンはキョトンと俺を見つめながら何でもない事のように答えた。

「え? えっと……にんげんの街で誘われて?」
「……つまり、自分を買えっていうオンナにか」
「お金払うからって……おとこのひともいたよ?」
「はぁ⁉︎」

 崖から突き落とされたような心境でもって、俺はリオンに掴みかかって問い詰める。そりゃもう、まんま保護者の心境だ。

 今なら分かる。もし、シャロンが嫁に行くとなったらきっと、こんな心境になるのだろうけれども。状況が状況なだけに、それよりももっと悪かった。まるで、我が子の犯罪被害の告白を受けているかのような。

「だってー、どうしてもって言うから」
「ナニかされたのか」
「体ベタベタ触られたりしたけど……ヤダって言えば止めてくれたよ!」

 次々に飛び出すリオンの暴露に、俺はもう呆然とするばかりだった。
 あのままリオンを一人で行かせるべきではなかったんではないか。ショックで碌に働かない頭で、ぐるぐると同じ事を考えた。

「止めてくれたよってな、そういう問題じゃねぇんだよ! っとにかく、そういう人間には今後絶対ついて行くなよ!」
「えー……でもみんな色々教えてくれ……」
「よ、余計にダメだ! 何だそのっ、教えてくれるってのは!」

叫びながら言えば、リオンは頬を膨らませる。全くもって反省する様子はない。まるで、夜遊びに興じる娘を諌めるような気分だった。

 いつどこで誰と何をしていたんだ! なんて問い詰めて聞きたいような聞きたくないような……。
 しかし、そんな俺の心配をよそに、リオンは悪びれもせずに笑顔で言う。

「きもちいことーー」
「待てっ、やっぱり言うな! もうそれ以上何も言うな! 俺は聞きたくねぇ!」

 リオンの言葉を遮りながら俺は叫んだ。
 知らぬ間に経験を積んでいたリオンにショックを受けていた。……大人の階段は何処まで登ってしまったのだろうか、なんて思う。気にもなるけれども絶対聞きたくねぇ。
 そんな複雑な心境で、俺はその場で頭を抱えた。

「もー、ギルバートは我儘だなぁ。あ、大丈夫だよ、心配しないで! 僕が一番好きなのはギルバートだから!」

 そう、全く無邪気に言ってくれるリオンに俺は、酷い不安を覚えていた。
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