この恋は決して叶わない

一ノ清たつみ_引退騎士

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 リオンが俺達に合流して少し経った頃の事だった。

 トウゴ達勇者の旅には、活発化した悪魔の活動を抑え込み、その原因となるものを断つというという大きな目的がある。
 それ故にか、軍部に同行する事が多い旅路だった。

 前回俺が旅立った時、魔王の台頭により大きく力を削がれていた軍部には、俺達の旅に同行するだけの余裕がなかった。それ故の少数精鋭。

 だが、あれから20年も経てば、流石の軍部も盛り返す。前回のリベンジとばかりに、彼らは積極的にトウゴ達へと力を貸した。

 そんな軍部からの依頼により、時折上位悪魔を討伐する作戦に駆り出される事があった。
 どの案件もがそこらではあまり見ないような高位の悪魔の仕業で、トウゴ達抜きには退治できないような、そんなものが一際多かった。

 その日討伐した悪魔も、軍部による依頼の内の一つだった。
 国の東外れにあるリベリオという都市に出没した上位悪魔は、回復力に特化し、隠れるのが非常にうまいという厄介な悪魔だった。

 トウゴ達も、隠れては攻撃を繰り返すというその悪魔に多少手こずったようだったが、特に大きな怪我もなく無事に退治するに至った。

 俺が教えた技の成果も現れていたようで喜ばしく思うと同時に、少しばかり妙な気分になる。弟子を取るというのはきっとこのような気分なのだろうと。師匠だった男を思い出してはくすぐったいような気分になった。


 トウゴ達の活躍は瞬く間に街中へと知れ渡る事になり、市長だと名乗った人間も、わざわざ自分でトウゴを出迎えるほどの歓迎ぶりを見せた。
 そうして、あれよあれよという間に、街ではトウゴ達の活躍を祝した催しが開催されるれる事となった。
 トウゴ達はもちろん参加するとの事だったが、俺は実のところ激しく遠慮したかった。

「俺は行かねぇぞ」
「え?」
「は?」
「ああ?」
「何……?」

 その場で拒否をすれば口々に眉根を顰められた。つい先日まで目の前にいるだけでこの顔をされたというのに、たった数ヶ月でこのザマである。手のひら返しが早いというか何と言うか。
 保護者のおっさんからすれば驚きの変化である。

「……俺の行く必要がねぇだろ」


 多岐に渡る諸事情故に、参加は固辞しようと思っていた。元々そういうのは得意でもない。
 だが、そんな俺の意思に反してトウゴ達へそれを許さなかった。

「なにふざけた事言ってる。アンタも参加にきまってんだろ、参加。市長殿にお伝えをお願いする」
「か、かしこまりました」
「……だってさ。良かったね、リオン」
「美味しいもの……いっぱい……」
「聖獣……聖獣…?」
「僕に聞くな。……世の中には様々な者が居るという事だろう」

 いつの間にか、リオンはトウゴにすっかり懐柔されていた。二人の間でどんなやり取りがあったのかは分からないが、人(獣)質を取られたような気分になる。

 何で釣ったかは明らかだったが……リオンがこんなにも早く懐いたという所に、俺は少しだけ驚いていた。
 他の人間に対してはそうでもないようで、リオンが人のどこを見てそう判断しているのか、多少気になるところではあった。

 トウゴのような人ならばまだしも、悪意をもって近付いてくる人間もいない訳ではない。
 人の感情に敏感に反応するという聖獣ならば大丈夫だとは思うが。俺はやはり、リオンは幸せに暮らしてほしいと思うのである。


 その場は一度解散となり、各自が場に相応しい装いに着替えてから再び集まる事になった。

「ギルバート、俺たち待ってるからね! ちゃんと来るんだよ! リオンお願い」
「分かった!」

 小さな子供に変化したリオンを抱き上げながら、トウゴの声に生返事を返す。
 リオンもすっかりトウゴの仲間のようで、まるで身内に間者を送り込まれたような気分になった。

 あてがわれている部屋に戻ると、この街の者達が用意したらしい服がいくつか並んでいた。俺用のブラックタイ。略式ではあるが中々に堅苦しい礼装がそこには並んでいた。大きく溜め息を吐きながら、自分に似合いそうなものを選んだ。

 流石の俺だって、こんな場面で駄々を捏ねるほどの肝は据わっていない。大人しく用意された用具で髪を撫でつけ、碌に手入れもしていなかった無精髭も綺麗にした。

「わぁ、デイヴィッド似合ってる! 出会った時みたいだよ!」

 キラキラと顔を輝かせて俺を見るリオンに、ひどい居心地の悪さを覚える。

「……リオン、名前」
「ギル、バート!」
では特に、間違えんなよ」
「はぁーい」

 軽くリオンに注意をしながら、用意された鏡の前に立てば。確かに昔の面影を残した年相応の男が、そこには立っていた。
 神殿での待機期間を含め、ここ一年ほどですっかり元の調子を取り戻していた俺は、見違える程に引き締まった身体を取り戻していた。
 以前と違う所といえば、身体のくらいだろう。自分でも感心するくらい、立派な者のようにも見えた。
 ほんの少し見ただけで確認を終えた俺は、リオンにも用意されていた服を着せると、重い気持ちを引きずったまま、会場となる街の広場へと足を運んだ。


「なんだギルバート、ちゃんとした格好も似合ってるじゃん! ワザと浮浪者みたいな格好しちゃって……」
「余計なお世話だッ」

 トウゴの鋭い指摘にドキリとしながら、ムスッとして言い返す。

「ねー、いつもこうしてればいいのにねー」
「リオン」

 途端にリオンが同調するようにトウゴへと言葉を返すものだから、名前を呼んでそれを嗜めた。

 俺とリオンが集合場所へと向かう頃には、旅の全員が、それぞれの正装へと着替えていた。
 トバイアスとアーチボルトの軍人二人は、黒の軍人服に金の刺繍が施されたものを。魔法使いのジョゼフとエルフのエリアルは同じもの、白いローブに銀や青の刺繍をあつらえたものを着ていた。

 それぞれ軍や国の正装として定められているもので、リオンにはジョゼフから押し付けられた魔法使いの正装を着せていた。トウゴも、俺と似たようなブラックタイの服に身を包んでいた。

 いつもより騒がしく感じる周囲を窺う。
 この格好の所為もあって、今日は特別に落ち着かなかった。内心では、この街の人間に勘付かれないかと気が気でなかった。
 この街には、以前にも訪れた事があるから。

「市長のアダムスと申します。いやはや、またしても勇者殿にお助けいただけるとは!我々の街は代々の勇者殿によって守護されているも同じ、盛大におもてなしするのが礼儀でありましょう」

 20年以上も前の事だった。この街はあの時も、厄介な上位の悪魔に狙われ困窮していた。
 街の結界を壊そうと画策していた悪魔達。この街の誇る上級の魔法使いが襲われて負傷し、あわやという場面だった。そんな時に、俺達が助けに入ったのだ。

 そして今回もまた、勇者であるトウゴ達が呼ばれたのだ。たまたま近くを通りかかった、という事もあったが。
 何か運命めいたものを感じずにはいられなかった。

「前の勇者ってどんな方だったんですか?」
「先代の勇者殿ーーうむ、彼は非常に元気の良い青年でありました! 見ている我々が元気をもらっておりましたよ――」

 この所、悪魔の引き起こす事件がどうも覚えのある街に頻発していた。ここ2ヶ月で5件も、俺の見知った街でばかり発生するのだ。

 上手く誘導されているようで気味が悪い。俺が祝賀会への出席を拒もうとしたのも、その事がどうも気になっていたから。
 俺が下手に動いて他人を巻き込むような事だけは避けたかった。

 旅に同行している時点で今更だろうけれども。もしかすると俺達は、既に良いように動かされているのかもしれない。

 トウゴ達が悪魔を手にかける度、広がる邪気の気配に右腕は既に侵食され尽くした。エリアルも手を尽くしてはくれたが、それにも限界があった。
 今や着替えすら、リオンの手を借りなければ随分と手間取るようになった。日に日に、俺の気分も身体も重くなっているのが分かった。

「彼は一体どうしているやら……魔王を倒して以降20年、ぱったりと噂を聞かなんだーー」
「……え?」
「我々も改めて礼をと思っていたのだがね、中央に問い合わせても所在不明と言われてしまってのぅ」
「…………」
「生きていてくれれば良いのだが……」

 そんな彼らの言葉を耳にしながら、俺はぼんやりとトウゴ達の姿を見つめていた。

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