この恋は決して叶わない

一ノ清たつみ_引退騎士

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 バルベリトは苦しげに俺を見据えながら、地に膝を着いていた。傷を負ったような形跡はない。
 奴がダメージを受けているとしたら恐らく、魔力枯渇の方だろう。あれ程の数の剣撃を打ったのは、俺も初めての事だった。

 勇者の魔力は、そこに漂う悪魔の魔力すら喰ってしまう。人間とは違い、活動に魔力が必要不可欠な悪魔は、魔力が枯渇すればその場で死ぬ。人間とは全く異なる生態をしているのだ。

 俺ももちろんそれを狙っていた。魔力さえなければ、バルベリトも普通の悪魔とそう変わらない。そこを、俺ではない誰かが討てばいいのだ。

 ただ、そのお陰で俺はもう動けやしなかった。地面に剣を突き立てて荒い息を整えている。かくして俺は、この作戦の犠牲になった訳なのだが。

 早く誰か、奴にとどめを刺してくれ。そういう俺の願いも虚しく、バルベリトはすぐそこまで近付いて来ていた。

「全く、流石だよ勇者ディヴィッド。魔力を殆ど、喰われてしまった。あと少しでも喰われていたら、僕はどうなっていたか分からない。でも、僕は知っているよ」

 見上げたバルベリトの顔には、今までに見たことのないような歓喜の表情が浮かんでいた。

「アレを切り抜ければ僕の勝ちだ。でも大丈夫、ずっと、永遠に一緒に居られる。僕の考え得る中では最高のフィナーレだ」

 その笑みが気持ち悪くて、無意識に体が後ずさろうとした。

「悪足掻きはみっともないよ。勇者ともあろうものが」

 だが気が付けば俺は、背中から地面に叩きつけられて首に手をかけられていた。馬乗りに乗られて、身体がピクリとも動かない。

「捕まえた」

 目と鼻の先に、バルベリトの顔があった。

「……捕まんのはテメェだ」

 悔し紛れにそう言うと、バルベリトの顔が微かに曇った。

 そして、バルベリトが口を開こうとした次の瞬間だった。大きな音と共に目の前の悪魔は吹き飛んだのだった。
 
「一人で先走った挙句にこんな所でアレを使うなんてっ、この考えなしが!」

 怒り心頭、といった怒声が上から降ってきた。クリストファーだった。先程の衝撃波もきっと彼の仕業だろう。

 そう思いながら視線をやれば、クリストファーが次から次へとその魔法を発動するのが分かった。バルベリトの宿敵とまで言われたクリストファーだ。他の者の助けがあれば十分、彼らにもバルベリトを討てるかもしれなかった。

「リオンが気付いていなかったら、どうなっていたかッ! ジョゼフ、治療!」
「はっ!」
「もうこいつは使い物にならない、リオン!絶対、奴を近付けるな!」
「もっちろん」
「トバイアス、アーチボルト、君達は加勢してくれ、一気に叩く」
「ッ、承知した!」
「ハイッ!」

 指示を飛ばしながらも、クリストファーは攻撃の手を緩めなかった。魔法攻撃から逃げ続けるベリトを追い込むように、様々な魔法を駆使する。

 その合間を縫い、指示を受けたトバイアスとアーチボルトが訓練されたコンビネーションによる攻撃を続けている。彼らは辛うじてベリトに食らいついていた。

 魔力を極端に削られ、無駄に出来ない今のベリトには、それほど余裕はないはずだ。しかし、人間の騎士2人と渡り合うには十分らしい。
 クリストフの魔法を受け流しながら、上手く躱している。レベルの差が顕著だ。クリストファーが2人をフォローするため、大規模な魔法を使えないでいるのは致し方ない。

 それでもどこか危うかった。互いを庇いながらようやく渡り歩いているような状態だ。そんなものでは全然、足りない。

 そう俺には思えてしまった。こんな所で、あと一歩でバルベリトを仕留められるという所で、じっとなんてしてられない。

 俺は冷静になって考えていたた。例えどんな状態になろうとも、俺は俺の目的を達成しなければならない。一度や二度の失敗が何だというのだ。幾度失敗しようとも、例え自分がどうなろうとも、目的さえ達成できれば良いじゃないか。
 奴の目的が俺を悪魔に引き込む事だとしても、ここですべての悪魔を仕留めれば全てが片付くのだ。一体、何を恐れる必要があるのか。

「おい」

 その場に居た者達に向かって声をかけた。

「トウゴ、お前魔力の使い方は分かるか? 普通のじゃねぇ、勇者にしか扱えねぇソレだ」
「勇者の魔力ーー少し、なら」
「なら、力、貸せ」
「え……俺に、何かできる?」
「お前にしか頼めねぇ。ーーそれと誰か、魔力貸せ」
「!」
「え?そんな事、できるの?」

 問いかけたのはトウゴだった。しかし、それに答える声は出ない。あまり一般的なものではないが、方法さえ知っていればできるのだ。

「ジョゼフお前、クリストフに魔力やったんだろ」
「!」
「一晩であそこまで回復する訳ねぇだろ。お前らん中で一番魔力量が多いのはジョゼフ、お前だ。なのに道理で俺の治癒に回される訳だ」
「あ、アンタ余計なことは言うなよ!」

 俺の言葉に、ジョゼフからは焦ったような声が聞こえた。トウゴやリオンは首を傾げているようだが、おそらくエリアルにも分かっている。

 身体の接触による魔力吸収の法もあるが、最も効率が良いのが体液の授受を伴ったもの。つまりはジョシュアはクリストフに唇をれたらしい。一度喰われたなら、二度も三度も同じだろ。

「だから、誰か魔力貸せってんだ。アイツらだけに背負わせ――」
「だめだよ」

 突然、拒否された言葉に俺は少しだけ動揺した。見上げれば、強い眼差しに射抜かれる。

「リオン……」
「だめ、絶対だめ! これ以上あれに関わったら、ディヴィッド本当に戻れなくなる!」
「言うな」
「だめ、だめ! このままだとディヴィッドは」
「それ以上言うな!」
「ッ」

 ついつい声が大きくなる。ビクリとリオンの肩が跳ねるが、この状態では引くわけにはいかない。リオンが言うまでもない。右側どころか、上半身はほぼ感覚が無かった。
 その痛みで眠る事もままならない。この2日間、眠らなかったんじゃない。眠れなかったのだ。どうなるかは分からないが、気を抜けばあっという間に俺は呑まれるのだろう。

 ここぞと言う時に利き腕が使えないのは、ベリトとの戦いにおいては思った以上のハンデだった。お陰で仕留め損ねた。
 あれは、本当にチャンスだったのに。不意打ちに奴の油断。あれ以上の好機は二度とないかもしれない。だからこそ悔しかった。

「誰でもいい……頼むから、寄越せーー」

 本当に、自分はどうなったって構わないのだ。
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