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レクナ村
レクナ村6
しおりを挟むセナの手がはるの肩を押しとどめようとする。
だが、その力を振り払うように、はるは一歩、また一歩とアルバートへ近づいた。
「はる!危険だ、戻れって!」
セナの叫びも届かない。
はるは、騎士に支えられて立つアルバートの横へ辿り着くと、
震える手で――怪我をしていない方の手をぎゅっと握った。
その手はいつもよりも冷たかった。
体の奥から血の気が引くような感覚に、胸がぎゅっと痛む。
「……っアルバートさん……いやだ……いやだよ………」
声が震え、目の奥が熱くなる。
堪え切れず、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
その涙を見たかのように、
握ったアルバートの手が――わずかに握り返された。
弱っているはずなのに、その力は不思議と確かで。
“ここにいる、大丈夫だ”
そう告げようとしてくれているのが伝わってくる。
(こんな……こんな状態でも……
僕のこと、気にしてくれて……)
胸が締めつけられ、はるの呼吸はうまくできなかった。
自分にもなにかできないかと、必死に考える。
そのとき――
脳裏に、セナが自分にかけてくれた温かな光がよぎった。
(……ヒール、僕にも……できたら……)
意識したわけではない。
ただ、繋いだその手に──“治ってほしい”と願った瞬間。
パァァァァァッ―――!
繋いだ手から、白金に近い眩い光が弾けた。
「なっ……!?」
「ま、眩しい……!」
周囲の騎士も村人も、反射的に目を覆う。
光はアルバートの傷口へと流れ込み、
深い裂傷も折れた骨も、
血に濡れた皮膚さえ一瞬で――跡形もなく癒えていく。
アルバートが息を呑んだ。
肩を支えていた騎士が驚愕の声を漏らす。
「き、傷が……ない……!?」
「嘘だろ……こんな完治……」
その光はそこで終わらなかった。
村長宅の外――
戦い続けるルートや前線の騎士たちの頭上にも、
眩い障壁が瞬時に広がる。
「こんどはなんだ?!結界……っ!?……こんな規模……!」
「信じられん…!誰だ、張ったのは……!」
強固な防御の膜が村全体を包み込み、
瘴気さえ押し返すほどの力を放った。
「西の森の瘴気……押し返されてるぞ!」
「このまま一気に片をつけるぞ!」
「「「おぉ!!!」」」
はるはすべて無意識だった。
何が起きているのか理解もできないまま、
ただアルバートの手を握りしめている。
その光景を見ていた村人達はざわめきいていた。
そのざわめきは、恐怖と期待が入り混じったように膨らんでいく。
「さっきの光は……」
「黒い瞳に、黒い髪…!」
「やっぱり……“あの”……」
「伝説だと思ってたのに、本物が……?」
(あ……れ……?体が……)
次の瞬間だった。
ドサッ
乾いた音が、騒然とした中で響いた。
「「はるっ!!」」
セナとアルバートがはるの名を呼ぶ声が重なる。
アルバートが思わず膝をつき、倒れたはるに手を伸ばす。
完全に治りきったはずの体で、
彼は震える指先ではるの頬に触れた。
「……はる……っ起きて……くれ……!」
セナも駆け寄り、急いではるの状態を確認する。
「まずい………これは魔力切れだ!
こんな大規模な治癒と結界を……っ!」
そう言う声も震えていた。
周囲を包んでいたざわめきは、
はるが倒れた音をきっかけに完全に消え去り――
広間には息を呑む音だけが残った。
はるの意識は、深い闇へ沈んでいく。
(……ま……って……
まだ……アルバート……さん……)
その小さな思いも、やがて闇へと溶けた。
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