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レクナ村
レクナ村5
しおりを挟むどれほど時間が経ったのか、まるで感覚が曖昧になる。
突然、廊下がざわつき、慌ただしい足音がこちらへ近づいてくる。
「おい、担架を!こっちだ、急げ!」
息が詰まるほどの緊迫した声。
はるがびくりと肩を揺らしたちょうどその瞬間、
扉の前を通る何人もの影が視界の端に流れた。
客間を貫くように漂う、鉄と血の匂い。
(け、怪我……? そんな……)
耐えられず、はるは震える手で扉に触れた。
ほんの少しだけ開けると、廊下には血に濡れた鎧の騎士たちが数名、
村人に支えられながら運ばれてくるところだった。
その後ろには焦りと怒りを混ぜたような表情のセナが続き、
傷ついた騎士の体にすぐさま光魔法を当て始める。
「くっ……!ダメだ、傷が深い……
喋るな、息を整えろ……今すぐ治す!」
額から汗が滴り、青い瞳には焦燥が浮かんでいる。
いつもの余裕などかけらもない。
セナが治癒を続けても、
騎士は痛みに呻き、光の膜の中で苦しげに顔を歪める。
(……こんな、怪我……
魔物って、ここまで……?)
喉の奥で息がひゅっと鳴り、
はるは無意識に唇を噛んだ。
胸の奥の不安が限界まで膨らんだところで――
「団長を運べ!!道を開けろ!!」
その声は、耳の奥で爆ぜるようだった。
はるの体が跳ねる。
(…………アルバートさん?)
深紅に染まった布。
片方の肩口から血が滴り落ちている。
そして――
騎士の肩に体を預け、なんとか歩いている。
項垂れており顔の見えないアルバートがそこにいた。
「っ……!」
胸がぎゅ、と締めつけられる。
(いやだ……
こんなの……嫌だ……!)
気づけば、はるは扉を大きく開け放ち、
足元のふらつきを押さえる余裕もなく廊下へ飛び出していた。
「アルバートさんっ……!」
その叫びは、自分でも驚くほど震えていた。
周囲にいた騎士や村人が一斉に振り向く。
そして――ざわめきが広がる。
「黒髪……黒目……?」
「あれは……まさか……」
「伝承の……?」
フードも外套も、いつの間にか肩から落ちていた。
はるの“黒”が、むきだしのまま人々の視線に晒される。
だが、はるには周囲の反応がまるで耳に入らなかった。
視界にあるのは、血に染まったアルバートただひとり。
「アルバートさんっ!
どう、して……こんな……!」
膝が崩れそうになるのを必死で堪え、
はるはアルバートに駆け寄ろうと一歩を踏み出す。
だが、その前にセナが腕を伸ばし、はるの肩を支えた。
「はる!危ない、下がれ!」
セナの声にも焦りが走る。
その直後、騎士の肩に体を預けているアルバートの指が微かに動いた――
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