光と瘴気の境界で

天気

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王都

17

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夜明けとともに、村は静かに動き始めた。
鶏の鳴き声と、かまどに火を入れる音が、薄い霧の向こうから聞こえてくる。

アルバートは一晩中、ほとんど姿勢を変えなかった。
はるの手を握ったまま、わずかな呼吸の変化も見逃さぬように。

――そして。

「……ん……」

小さな声とともに、はるがゆっくりとまぶたを開いた。

「はる」

すぐにアルバートが声をかける。

「……アル………?」

まだ少し熱を含んだ声だったが、意識ははっきりしている。

「気分はどうだ」

「……あたま……ちょっと、ぼーっとする……けど……」

そう言いながら、はるは自分の胸元に手を当てた。
昨夜の苦しさが嘘のように、息は穏やかだ。

その様子を見て、セナが近づき、額に手を当てる。

「……熱は下がってきてるな。
 魔力波形も……昨日より安定してる」

ミエルも水晶板を確認し、静かに頷いた。

「回復速度が、やはり異常です。
 黒の力が“過剰に世界と繋がっていた反動”が、
 自然に収束しています」

「……普通なら、二日は動けない状態だったはずだ」

セナの言葉に、ルートが腕を組む。

「つまり、
 “原因が取り除かれた”ってことだよね?」

視線が、一斉にアルバートへ向く。

アルバートは否定も肯定もせず、ただ淡々と言った。

「……はるが落ち着いているだけだ」

だが、誰もが分かっていた。
はるの魔力が安定する引き金が、アルバートであることを。

はるは、皆の視線に気づき、少し不安そうに瞬きをする。

「……ぼく、また……なにか……?」

「違う」

アルバートは即座に否定した。

「はるは何も悪くない。
 ……むしろ、無理をさせられた」

はるはその言葉を、しばらく噛みしめるようにしてから、小さく頷いた。

「……ごめんなさい……」

「謝るな」

少しだけ、アルバートの声が強くなる。

「守るのが、俺たちの役目だ」

はるの指が、無意識にアルバートの袖を掴む。

その仕草に、ルートが苦笑した。

「ねぇ、アルバート。
 これ、もう“傾向”じゃなくて“事実”だよ」

「はるくんはさ、
 君のそばにいると、魔力も心も落ち着く」

「……それを利用しようとする人間が、
 絶対に出てくる」

セナが低く続ける。

空気が、一段重くなった。

「回復が早い、結界が強い、瘴気を押し返せる」

「だから次は、
 『問題なく使える』と判断する」

ミエルは、はるを見て、言葉を選ぶように続けた。

「ですが……
 黒の力は“制御できている”わけではない」
今は、アルバート団長という“支え”があるから、
 かろうじて均衡を保っているだけです」

はるは、きょとんとした顔で聞いていたが、やがて不安そうに呟いた。

「……もし……アルが……いなかったら……?」

その問いに、誰もすぐには答えられなかった。

沈黙を破ったのは、アルバートだった。

「その時は、
 俺がそばにいられるようにする」

迷いのない声。

「離れさせない」

はるの目が、少し潤む。

「……ほんと……?」

「ああ」

短く、しかし重い一言。

セナは、静かにため息をついた。

「……覚悟、決めるしかないな」

「次に王都へ戻れば、
 陛下は間違いなく次の任務を出す」

ルートが口角を上げる。

「だったらさ、
 条件を出そうよ」

「“黒の君は単独では動かない”
 “第二騎士団団長が常に同行する”」

「……それ、通ると思う?」

セナの問いに、ルートは肩をすくめた。

「通すしかないでしょ。
 じゃなきゃ、暴れる」

アルバートは、静かに頷いた。

「必要なら、剣も抜く」

冗談ではなかった。

その瞬間、はるが慌てて首を振る。

「だ、だめです……!
 そんな……争い……」

「……」

アルバートは少しだけ困ったように眉を下げ、はるの頭を撫でた。

「心配するな。そうならないようにする。」

はるはその言葉に、少し安心したように目を伏せる。

窓の外では、朝日が完全に昇り、村を黄金色に染めていた。

今日、再び王都へ向かう。

そこでは――
“黒の君”としての運命と、
“はる”という一人の少年としての未来が、
正面からぶつかることになる。

だが今はまだ。

アルバートの手を握りながら、
はるは小さく息を整えた。

(……だいじょうぶ……
 ひとりじゃ、ない)










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