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王都
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しおりを挟む夜は深く、村は静まり返っていた。
窓の外では、虫の声が途切れ途切れに響き、時折、遠くで風が木々を揺らす音がする。
はるの呼吸は、先ほどよりも安定していた。
セナのヒールが効いたのもあるが――それ以上に、アルバートがそばにいることが大きい。
アルバートは椅子に腰掛けたまま、一睡もせず、はるの様子を見守っていた。
大きな手が、細い指を包み込み、微動だにしない。
「……なあ」
小さな声で、セナが話しかける。
「お前は何も感じてないのか?」
「何の話だ」
「はるの魔力だ。
お前がいると、はるは“落ち着く”。…それも、急に。」
アルバートは一瞬、視線を伏せた。
「……戦場では、仲間の魔力が乱れることはよくある。
近くにいれば、呼吸や意識が揃うこともある」
「それとは次元が違う」
セナはきっぱり言った。
「これは精神安定とか、信頼関係とか、そういうレベルじゃない。
黒の力そのものが、お前を“基準”にしている」
アルバートの眉が、わずかに寄る。
「……黒の力が、俺を?」
「…正確には、“はる自身”がかもしれんが」
セナは視線をはるに向ける。
「世界と直結する力を持っているのに、
あいつはまだ十七だ。精神も、身体も、未完成。
だから無意識に、“安定している存在”を探してるのかもしれん。」
ミエルも、静かに言葉を重ねた。
「そして今のところ、
最も適合しているのが……あなたです、アルバート団長」
アルバートは、はるの寝顔を見る。
長い睫毛。
熱に上気した頬。
どこか不安そうな、幼さの残る表情。
「……それは、重すぎる役割だな」
低く呟いた言葉には、自嘲が混じっていた。
「このままでは危うい…」
セナの声が、鋭くなる。
「陛下は“力”しか見ちゃいない。
黒の君が“何を削って”その力を使うのか、
本当の意味では理解していない」
ミエルが続ける。
「今回の発熱も、
瘴気に直接触れた影響と、
黒の力が世界と過剰に共鳴した反動でしょう」
「実戦教育、なんて言葉で片付けられるものじゃない」
アルバートの拳が、膝の上で静かに握られた。
「……次は、俺が止める」
その声は、揺るがなかった。
「はるが望まないことは、
やらせない」
「国王相手でも、か?」
セナの問いに、アルバートは即答する。
「関係ない」
その瞬間、
ベッドの上で、はるが小さく身じろぎした。
「……ん……」
アルバートはすぐに身を乗り出す。
「はる。大丈夫だ、ここにいる」
熱に潤んだ瞳が、ゆっくりと開く。
「……アル……バート……」
かすれた声。
それだけで、魔力波形が、すっと落ち着く。
ミエルは、はっきりと確信した。
(この二人は――
すでに切り離せない)
はるは、アルバートの顔をぼんやりと見つめ、
小さく息を吐いた。
「……いかない……?」
何を指しているのか、誰もが理解した。
「行かない」
アルバートは、迷いなく答える。
「無理なことは、させない」
はるの指が、ぎゅっとアルバートの服を掴む。
「……よかった……」
そう呟いて、再び眠りに落ちた。
その寝顔は、先ほどまでよりも、ずっと穏やかだった。
◆
夜明け前。
窓の外が、うっすらと白み始める。
セナは立ち上がり、静かに言った。
「この件、
第二騎士団としても正式に意見書を出す」
「はるは“兵器”じゃない。
守るべき人間だ」
ミエルも頷く。
「第一騎士団としても、
医学的観点から進言します」
「このまま前線に出し続ければ、
確実に寿命を削る」
アルバートは、はるの手を握ったまま、深く息を吸った。
「……王都に戻ったら、
覚悟が必要だな」
国王。
そして、この国そのもの。
黒の君を“救済”として使うか、
“人”として守るか。
その選択が、
すぐそこまで迫っていた。
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