光と瘴気の境界で

天気

文字の大きさ
49 / 64
王都

16

しおりを挟む



夜は深く、村は静まり返っていた。
窓の外では、虫の声が途切れ途切れに響き、時折、遠くで風が木々を揺らす音がする。

はるの呼吸は、先ほどよりも安定していた。
セナのヒールが効いたのもあるが――それ以上に、アルバートがそばにいることが大きい。

アルバートは椅子に腰掛けたまま、一睡もせず、はるの様子を見守っていた。
大きな手が、細い指を包み込み、微動だにしない。

「……なあ」

小さな声で、セナが話しかける。

「お前は何も感じてないのか?」

「何の話だ」

「はるの魔力だ。
 お前がいると、はるは“落ち着く”。…それも、急に。」

アルバートは一瞬、視線を伏せた。

「……戦場では、仲間の魔力が乱れることはよくある。
 近くにいれば、呼吸や意識が揃うこともある」

「それとは次元が違う」

セナはきっぱり言った。

「これは精神安定とか、信頼関係とか、そういうレベルじゃない。
 黒の力そのものが、お前を“基準”にしている」

アルバートの眉が、わずかに寄る。

「……黒の力が、俺を?」

「…正確には、“はる自身”がかもしれんが」

セナは視線をはるに向ける。

「世界と直結する力を持っているのに、
 あいつはまだ十七だ。精神も、身体も、未完成。
だから無意識に、“安定している存在”を探してるのかもしれん。」

ミエルも、静かに言葉を重ねた。

「そして今のところ、
 最も適合しているのが……あなたです、アルバート団長」

アルバートは、はるの寝顔を見る。

長い睫毛。
熱に上気した頬。
どこか不安そうな、幼さの残る表情。

「……それは、重すぎる役割だな」

低く呟いた言葉には、自嘲が混じっていた。

「このままでは危うい…」

セナの声が、鋭くなる。

「陛下は“力”しか見ちゃいない。
 黒の君が“何を削って”その力を使うのか、
 本当の意味では理解していない」

ミエルが続ける。

「今回の発熱も、
 瘴気に直接触れた影響と、
 黒の力が世界と過剰に共鳴した反動でしょう」

「実戦教育、なんて言葉で片付けられるものじゃない」

アルバートの拳が、膝の上で静かに握られた。

「……次は、俺が止める」

その声は、揺るがなかった。

「はるが望まないことは、
 やらせない」

「国王相手でも、か?」

セナの問いに、アルバートは即答する。

「関係ない」

その瞬間、
ベッドの上で、はるが小さく身じろぎした。

「……ん……」

アルバートはすぐに身を乗り出す。

「はる。大丈夫だ、ここにいる」

熱に潤んだ瞳が、ゆっくりと開く。

「……アル……バート……」

かすれた声。
それだけで、魔力波形が、すっと落ち着く。

ミエルは、はっきりと確信した。

(この二人は――
 すでに切り離せない)

はるは、アルバートの顔をぼんやりと見つめ、
小さく息を吐いた。

「……いかない……?」

何を指しているのか、誰もが理解した。

「行かない」

アルバートは、迷いなく答える。

「無理なことは、させない」

はるの指が、ぎゅっとアルバートの服を掴む。

「……よかった……」

そう呟いて、再び眠りに落ちた。

その寝顔は、先ほどまでよりも、ずっと穏やかだった。





夜明け前。

窓の外が、うっすらと白み始める。

セナは立ち上がり、静かに言った。

「この件、
 第二騎士団としても正式に意見書を出す」

「はるは“兵器”じゃない。
 守るべき人間だ」

ミエルも頷く。

「第一騎士団としても、
 医学的観点から進言します」

「このまま前線に出し続ければ、
 確実に寿命を削る」

アルバートは、はるの手を握ったまま、深く息を吸った。

「……王都に戻ったら、
 覚悟が必要だな」

国王。
そして、この国そのもの。

黒の君を“救済”として使うか、
“人”として守るか。

その選択が、
すぐそこまで迫っていた。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

声だけカワイイ俺と標の塔の主様

鷹椋
BL
※第2部準備中。  クールで男前な見た目に反し、透き通るような美しい女声をもつ子爵子息クラヴィス。前世を思い出し、冷遇される環境からどうにか逃げだした彼だったが、成り行きで性別を偽り大の男嫌いだという引きこもり凄腕魔法使いアルベルトの使用人として働くことに。 訳あって視力が弱い状態のアルベルトはクラヴィスが男だと気づかない。むしろその美声を気に入られ朗読係として重宝される。 そうして『メイドのリズ』として順調に仕事をこなしていたところ、今度は『無口な剣士クラヴィス』としても、彼と深く関わることになってしまって――

オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の (本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である) 異世界ファンタジーラブコメ。 魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、 「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」 そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。 魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。 ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。 彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、 そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』 と書かれていたので、うっかり 「この先輩、人間嫌いとは思えないな」 と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!? この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、 同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」 とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑) キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、 そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。 全年齢対象です。 BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・ ぜひよろしくお願いします!

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

弾けないピアニストの俺が天使の羽根を奪うまで

ひぽたま
BL
矢奈結加(やな・ゆうか)は私大のピアノ科に通う大学二年生。 幼少期からピアノの才能を認められていたものの、母や周囲の期待に圧し潰されてスランプに陥っていた。 そんな折、彼のピアノの音が大好きだという建築家の学生、森脇進(もりわき・しん)に出会い、救いを感じたものの、進には天才ピアニストと呼ばれた父親がいて――……。 (「きみの音を聞かせて 矢奈side story改題) (別投稿作品「きみの音を聞かせて」の相手役視点のストーリーです)

全寮制男子高校 短編集

天気
BL
全寮制男子高校 御影学園を舞台に BL短編小説を書いていきます! ストーリー重視のたまにシリアスありです。 苦手な方は避けてお読みください! 書きたい色んな設定にチャレンジしていきます!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

処理中です...