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王都
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しおりを挟む夜明けとともに、村は静かに動き始めた。
鶏の鳴き声と、かまどに火を入れる音が、薄い霧の向こうから聞こえてくる。
アルバートは一晩中、ほとんど姿勢を変えなかった。
はるの手を握ったまま、わずかな呼吸の変化も見逃さぬように。
――そして。
「……ん……」
小さな声とともに、はるがゆっくりとまぶたを開いた。
「はる」
すぐにアルバートが声をかける。
「……アル………?」
まだ少し熱を含んだ声だったが、意識ははっきりしている。
「気分はどうだ」
「……あたま……ちょっと、ぼーっとする……けど……」
そう言いながら、はるは自分の胸元に手を当てた。
昨夜の苦しさが嘘のように、息は穏やかだ。
その様子を見て、セナが近づき、額に手を当てる。
「……熱は下がってきてるな。
魔力波形も……昨日より安定してる」
ミエルも水晶板を確認し、静かに頷いた。
「回復速度が、やはり異常です。
黒の力が“過剰に世界と繋がっていた反動”が、
自然に収束しています」
「……普通なら、二日は動けない状態だったはずだ」
セナの言葉に、ルートが腕を組む。
「つまり、
“原因が取り除かれた”ってことだよね?」
視線が、一斉にアルバートへ向く。
アルバートは否定も肯定もせず、ただ淡々と言った。
「……はるが落ち着いているだけだ」
だが、誰もが分かっていた。
はるの魔力が安定する引き金が、アルバートであることを。
はるは、皆の視線に気づき、少し不安そうに瞬きをする。
「……ぼく、また……なにか……?」
「違う」
アルバートは即座に否定した。
「はるは何も悪くない。
……むしろ、無理をさせられた」
はるはその言葉を、しばらく噛みしめるようにしてから、小さく頷いた。
「……ごめんなさい……」
「謝るな」
少しだけ、アルバートの声が強くなる。
「守るのが、俺たちの役目だ」
はるの指が、無意識にアルバートの袖を掴む。
その仕草に、ルートが苦笑した。
「ねぇ、アルバート。
これ、もう“傾向”じゃなくて“事実”だよ」
「はるくんはさ、
君のそばにいると、魔力も心も落ち着く」
「……それを利用しようとする人間が、
絶対に出てくる」
セナが低く続ける。
空気が、一段重くなった。
「回復が早い、結界が強い、瘴気を押し返せる」
「だから次は、
『問題なく使える』と判断する」
ミエルは、はるを見て、言葉を選ぶように続けた。
「ですが……
黒の力は“制御できている”わけではない」
今は、アルバート団長という“支え”があるから、
かろうじて均衡を保っているだけです」
はるは、きょとんとした顔で聞いていたが、やがて不安そうに呟いた。
「……もし……アルが……いなかったら……?」
その問いに、誰もすぐには答えられなかった。
沈黙を破ったのは、アルバートだった。
「その時は、
俺がそばにいられるようにする」
迷いのない声。
「離れさせない」
はるの目が、少し潤む。
「……ほんと……?」
「ああ」
短く、しかし重い一言。
セナは、静かにため息をついた。
「……覚悟、決めるしかないな」
「次に王都へ戻れば、
陛下は間違いなく次の任務を出す」
ルートが口角を上げる。
「だったらさ、
条件を出そうよ」
「“黒の君は単独では動かない”
“第二騎士団団長が常に同行する”」
「……それ、通ると思う?」
セナの問いに、ルートは肩をすくめた。
「通すしかないでしょ。
じゃなきゃ、暴れる」
アルバートは、静かに頷いた。
「必要なら、剣も抜く」
冗談ではなかった。
その瞬間、はるが慌てて首を振る。
「だ、だめです……!
そんな……争い……」
「……」
アルバートは少しだけ困ったように眉を下げ、はるの頭を撫でた。
「心配するな。そうならないようにする。」
はるはその言葉に、少し安心したように目を伏せる。
窓の外では、朝日が完全に昇り、村を黄金色に染めていた。
今日、再び王都へ向かう。
そこでは――
“黒の君”としての運命と、
“はる”という一人の少年としての未来が、
正面からぶつかることになる。
だが今はまだ。
アルバートの手を握りながら、
はるは小さく息を整えた。
(……だいじょうぶ……
ひとりじゃ、ない)
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