光と瘴気の境界で

天気

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王都

19

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離宮の夜は深く、静かだった。

高い天井に反射する燭台の光が、ゆっくりと揺れる。
はるは豪華な寝台の上で、外套を脱ぎ、薄い寝間着に身を包んでいた。
広い部屋。ひとりで休むには、やはり少し心細い。

「……アルバート……」

無意識に名を呼ぶと、扉の外で控えていた気配が、すぐに近づいた。

「どうした」

扉が開き、アルバートが中へ入ってくる。
鎧は外しているが、その佇まいは変わらない。

「……眠れそうに、ない……」

正直な言葉だった。

アルバートは少しだけ逡巡し、それから静かに椅子を引いた。

「……ここにいる」

寝台の脇に腰掛け、はるの視界に入る位置に座る。

「眠るまでだ」

それだけで、胸の奥がふっと軽くなる。

「……ありがとう……」

はるの声は、もう眠気を帯びていた。

アルバートが、そっとはるの額に手を当てる。
熱はない。呼吸も安定している。

(……やはり、近くにいると……)

アルバート自身も感じていた。
はるの魔力が、静かに、澄んでいく。





翌朝。

朝日が薄いカーテン越しに差し込み、はるはゆっくりと目を覚ました。

「……あ……」

視線を動かすと、椅子に座ったまま眠っているアルバートがいた。
夜通し、ここにいたのだとすぐにわかる。

(……起こしちゃ、だめ……)

そう思った瞬間。

「……起きたか」

低い声が、すぐに返ってきた。

「ご、ごめん……ずっと、ここに?」

「謝る必要はない」

アルバートは立ち上がり、軽く肩を回す。

「体調はどうだ?」

「……大丈夫……すごく……楽……」

それは偽りのない言葉だった。
そっとはるの頭を撫でるとセナを呼びに部屋を後にする。





朝の診察には、セナとミエルも立ち会った。

水晶板に映る魔力波形は、ここ数日で最も安定している。

「……やっぱりな」

セナが腕を組み、低く唸る。

「アルバートが同室、もしくは近距離にいる時が一番いい」

「精神的要因、でしょうか」

ミエルが静かに問いかける。

「それもありそうだけどな。それだけじゃない気がする」

セナは水晶板から視線を外し、アルバートを見る。

「魔力の“干渉”が起こってる」

「……干渉?」

「簡単に言えば、共鳴だ。
 はるの黒の魔力は、外部の魔力を拒絶しやすい。
 だが――」

セナは一拍置く。

「アルバートの魔力だけは、拒まない。
 むしろ、安定剤みたいに働いてる」

ルートが、苦笑気味に肩をすくめた。

「もう、偶然じゃ片付けられないね」

「………俺は、何もしていない」

アルバートは静かに言う。

「それが問題なんだよ」

セナはため息をついた。

「意識してないのに影響が出る。
 つまり、切り離せない可能性がある」

会話自体はあまり飲み込めていないものの、
その言葉に、はるは不安そうに二人を見る。

「……えっと……」

小さく手を上げる。

「……アルバートがいないと……だめ……?」

一瞬、空気が止まる。

「違う」

逡巡し、アルバートが否定した。

「“いないとだめ”なんじゃない」

はるの目線に合わせ、ゆっくり言葉を選ぶ。

「今は、俺が近くにいた方が、楽なだけだ」

「それに」

ルートが柔らかく続ける。

「無理に引き離す理由もない」

セナは頷いた。

「当面、アルバートを“調整役”として同行したほうがいいだろう。」

アルバートが眉を寄せる。

「……俺が、はるの傍にいることを前提に?」

「そうだ」

セナはきっぱり言った。

「守るのも、安定させるのも、お前が一番向いてる」

はるは、胸の前でぎゅっと手を握りしめた。

(……一緒……)

怖さは、消えていない。
でも――

「……アル……」

「なんだ」

「……一緒に、いてくれる……?」

アルバートは、少しだけ視線を逸らし――
それから、静かに頷いた。

「……ああ」

「約束しただろう」

その返事に、はるは小さく、でも確かに笑った。




その日の午後、国王へ正式な報告が上がる。

《黒の力は精神状態に強く影響を受ける》
《黒の力は意思とは関係なく、深層魔力と繋がる》
《特定の魔力――第二騎士団長アルバートの魔力と共鳴・安定する傾向あり》
《よって、当面は同席・同行を推奨》

国王は報告書を読み、顎髭を撫でながら、深く考え込んだ。

「……なるほど」

その瞳には、興味と計算が混じっていた。

「では――」

静かに、しかし確信をもって告げる。

「次からも“視察”は、アルバート同伴が必須、というわけだな」

(これはよい…。
”守りながら使う“事ができる……)







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