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王都
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しおりを挟む離宮の夜は深く、静かだった。
高い天井に反射する燭台の光が、ゆっくりと揺れる。
はるは豪華な寝台の上で、外套を脱ぎ、薄い寝間着に身を包んでいた。
広い部屋。ひとりで休むには、やはり少し心細い。
「……アルバート……」
無意識に名を呼ぶと、扉の外で控えていた気配が、すぐに近づいた。
「どうした」
扉が開き、アルバートが中へ入ってくる。
鎧は外しているが、その佇まいは変わらない。
「……眠れそうに、ない……」
正直な言葉だった。
アルバートは少しだけ逡巡し、それから静かに椅子を引いた。
「……ここにいる」
寝台の脇に腰掛け、はるの視界に入る位置に座る。
「眠るまでだ」
それだけで、胸の奥がふっと軽くなる。
「……ありがとう……」
はるの声は、もう眠気を帯びていた。
アルバートが、そっとはるの額に手を当てる。
熱はない。呼吸も安定している。
(……やはり、近くにいると……)
アルバート自身も感じていた。
はるの魔力が、静かに、澄んでいく。
⸻
翌朝。
朝日が薄いカーテン越しに差し込み、はるはゆっくりと目を覚ました。
「……あ……」
視線を動かすと、椅子に座ったまま眠っているアルバートがいた。
夜通し、ここにいたのだとすぐにわかる。
(……起こしちゃ、だめ……)
そう思った瞬間。
「……起きたか」
低い声が、すぐに返ってきた。
「ご、ごめん……ずっと、ここに?」
「謝る必要はない」
アルバートは立ち上がり、軽く肩を回す。
「体調はどうだ?」
「……大丈夫……すごく……楽……」
それは偽りのない言葉だった。
そっとはるの頭を撫でるとセナを呼びに部屋を後にする。
⸻
朝の診察には、セナとミエルも立ち会った。
水晶板に映る魔力波形は、ここ数日で最も安定している。
「……やっぱりな」
セナが腕を組み、低く唸る。
「アルバートが同室、もしくは近距離にいる時が一番いい」
「精神的要因、でしょうか」
ミエルが静かに問いかける。
「それもありそうだけどな。それだけじゃない気がする」
セナは水晶板から視線を外し、アルバートを見る。
「魔力の“干渉”が起こってる」
「……干渉?」
「簡単に言えば、共鳴だ。
はるの黒の魔力は、外部の魔力を拒絶しやすい。
だが――」
セナは一拍置く。
「アルバートの魔力だけは、拒まない。
むしろ、安定剤みたいに働いてる」
ルートが、苦笑気味に肩をすくめた。
「もう、偶然じゃ片付けられないね」
「………俺は、何もしていない」
アルバートは静かに言う。
「それが問題なんだよ」
セナはため息をついた。
「意識してないのに影響が出る。
つまり、切り離せない可能性がある」
会話自体はあまり飲み込めていないものの、
その言葉に、はるは不安そうに二人を見る。
「……えっと……」
小さく手を上げる。
「……アルバートがいないと……だめ……?」
一瞬、空気が止まる。
「違う」
逡巡し、アルバートが否定した。
「“いないとだめ”なんじゃない」
はるの目線に合わせ、ゆっくり言葉を選ぶ。
「今は、俺が近くにいた方が、楽なだけだ」
「それに」
ルートが柔らかく続ける。
「無理に引き離す理由もない」
セナは頷いた。
「当面、アルバートを“調整役”として同行したほうがいいだろう。」
アルバートが眉を寄せる。
「……俺が、はるの傍にいることを前提に?」
「そうだ」
セナはきっぱり言った。
「守るのも、安定させるのも、お前が一番向いてる」
はるは、胸の前でぎゅっと手を握りしめた。
(……一緒……)
怖さは、消えていない。
でも――
「……アル……」
「なんだ」
「……一緒に、いてくれる……?」
アルバートは、少しだけ視線を逸らし――
それから、静かに頷いた。
「……ああ」
「約束しただろう」
その返事に、はるは小さく、でも確かに笑った。
⸻
その日の午後、国王へ正式な報告が上がる。
《黒の力は精神状態に強く影響を受ける》
《黒の力は意思とは関係なく、深層魔力と繋がる》
《特定の魔力――第二騎士団長アルバートの魔力と共鳴・安定する傾向あり》
《よって、当面は同席・同行を推奨》
国王は報告書を読み、顎髭を撫でながら、深く考え込んだ。
「……なるほど」
その瞳には、興味と計算が混じっていた。
「では――」
静かに、しかし確信をもって告げる。
「次からも“視察”は、アルバート同伴が必須、というわけだな」
(これはよい…。
”守りながら使う“事ができる……)
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