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ある日の食堂
しおりを挟む昼休みの鐘が鳴る少し前から、食堂はすでにざわめいていた。
白いタイル張りの床に、トレーの当たる乾いた音と、昼を待ちきれない生徒たちの話し声が重なり、熱気を帯びた空気が漂っている。
その入口に、生徒会の一団が姿を見せた瞬間だった。
「……生徒会だ」
誰かが小さく呟いたその声を合図に、波紋のようにざわめきが広がる。
「会長、今日も素敵すぎます!!」
「副会長、眼鏡似合いすぎです……」
「湊翔様! 金髪眩しい!」
「悠真様、無表情なのに尊い……」
「朝陽様、かわいい……!お元気そうでよかった…」
歓声とも囁きともつかない声が、あちこちから上がった。
決して騒ぎ立てているわけではないのに、視線と気配が一斉に集まるその感覚は、はっきりと肌に刺さる。
「相変わらずだなぁ」
京極湊翔が肩をすくめながら笑う。
「静かに食べられそうにないですね」
皇千早は淡々と言いながらも、周囲を一度見渡して人の流れを確認していた。
道明寺蓮は慣れた様子で歩を進め、食堂の奥、壁際の一テーブルを指差す。
「空いてる。あそこにしよう」
「…」
一悠真は無言で頷き、朝陽の少し前を歩く。
その背中を追いながら、朝陽は小さく息を吸った。
(……視線、慣れない…な…)
トレーを両手でしっかりと持ち、なるべく姿勢を小さくし蓮の後ろを歩く。
可愛い、という言葉が耳に届くたび、胸の奥がきゅっと縮む。
褒められているのだと頭では分かっているのに、どうしても落ち着かない。
奥のテーブルに座ると、周囲よりは多少視線が減ったものの、それでも完全に消えることはなかった。
生徒会の4人が並んで座るだけで、ひとつの絵になるのだと、朝陽は身をもって知っている。
「いただきます……」
小さな声で呟き、箸を取る。
しかし、口に運ぼうとした瞬間、また視線を感じて手が止まった。
自分を見て、ひそひそと話す声。
笑顔も、憧れも、悪意ではないと分かっている。
それでも、“見られる”という行為そのものが、朝陽には少し重かった。
(……見ないで、とは言えないし……)
箸を持つ手がわずかに震える。
食べたいはずなのに、喉がうまく動かない。
その様子に、隣に座っていた蓮が気づいた。
「朝陽」
低く、穏やかな声。
朝陽がびくっと肩を揺らし、顔を上げる。
「は、はい……?」
蓮は何でもないように、自分のトレーを少し朝陽の方へ寄せた。
視線の遮蔽になるよう、さりげなく体を傾ける。
「気になるか?」
「……少しだけ……です」
正直に答えると、蓮は小さく笑った。
「無理しなくていい。俺たちが壁になるから」
そう言って、千早と湊翔にも目配せをする。
千早は察したように背筋を伸ばし、自然に朝陽の正面側へ体を向けた。
湊翔は肘をついて、大きめの身振りで話し始める。
「なーなー会長、文化祭後の仕事さ、俺これで合ってる?」
「…合ってる。そこ、数字だけ確認しておけ」
わざとらしいほどの会話と動き。
それにより、周囲の視線は自然と生徒会全体へ散らされ、
生徒会の仕事の話をしている。と邪魔をしないよう静かに、それぞれの昼食を食べるものが増えた。
悠真も、何も言わずに朝陽の前に小さな紙ナプキンをそっと差し出す。
視線は合わせないが、その仕草はひどく優しい。
(……あ)
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
守られている、という実感。
「……ありがとうございます」
小さく呟くと、蓮は「どういたしまして」とだけ返した。
朝陽は改めて箸を持ち、少しずつ口に運ぶ。
今度は、さっきよりも食べやすかった。
静かなざわめきの中でも、このテーブルの内側だけは、不思議と落ち着いている。
見られている不安よりも、ここにいていいのだという安心感が勝っていた。
(……こういう時、頼っていいんだな…)
そんな思いが、心のどこかにそっと芽生える。
昼休みの喧騒の中、生徒会のテーブルは今日も注目の的だった。
けれどその中心で、朝陽は初めて、少しだけ肩の力を抜いて食事をすることができていた。
***
ある日の食堂での様子、書いてみたかったです。
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