全寮制男子高校 短編集

天気

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体力測定 蓮




体育館の高い天井に、冬の乾いた空気が満ちていた。
床に引かれた白線の上を、体育用のシューズが擦れる音が規則正しく響く。

今日は体力測定の日だった。

反復横跳び、立ち幅跳び、握力、上体起こし、長座体前屈。
最後に、シャトルラン。

クラスの生徒たちは開始前からどこかそわそわしている。
理由はひとつだった。

「……会長、いるよね!?」
「当たり前でしょ!今日の主役なんだから!」

視線の先、体育館の中央。
黒髪を短く整えた道明寺蓮が、無駄のない動きでストレッチをしていた。
筋肉のつき方は主張しすぎず、それでいて均整が取れている。
ジャージ越しでも分かる身体の強さに、周囲の空気がわずかに熱を帯びる。

「はぁ……」
誰かが、ため息をついた。

最初は反復横跳び。

笛の合図と同時に、蓮の体が滑るように動く。
床を蹴る音は軽く、無駄がない。
線を踏むたびに正確に体重を乗せ、リズムを崩さない。

「……速っ」
「え、数えてる? あれ」

終了の合図が鳴ると同時に、担当教員が目を丸くする。

「道明寺……満点だな」

小さなどよめき。

続く立ち幅跳び。
助走も派手な構えもない。
膝を軽く曲げ、息を整え、一気に踏み切る。

——どんっ

着地の音が低く響き、ラインを大きく越えた。

「うそ……」
「脚長すぎ……」

記録は余裕で最高点。

握力測定では、機械の表示が一瞬遅れてから数値を示す。
それを見た生徒たちが、一斉に息を呑んだ。

「……流石です…!」

蓮本人は、ただ淡々と記録を確認し、次へ進む。
驕る様子も、意識している様子もない。
それが余計に、周囲の心を掴んでいた。

上体起こしでも、呼吸を乱さず回数を重ねる。
長座体前屈では、無理なくラインを越え、教員が思わず二度見するほど。

「柔らかさも完璧か……」

そして最後のシャトルラン。

スタートラインに立つ蓮の周囲には、自然と人が集まっていた。
応援とも、見守りともつかない視線。

電子音が鳴るたび、蓮は一定のリズムでラインを踏み、折り返す。
呼吸は荒れず、フォームも崩れない。

回数が増えても、足取りは変わらなかった。

「も、、もう、むり……」
「着いていくなんて無理だよ。」

周囲が脱落していく中、蓮は最後まで走り切った。

終了の合図。

体育館に拍手が起こる。
誰かが我慢できずに声を上げた。

「会長かっこよすぎ……!」
「同じ人間とは思えない……!」

頬を赤らめる生徒たち。
ざわめきと歓声の中、教員が記録表を見て宣言する。

「道明寺蓮。全種目、最高得点。オール10だ」

一瞬の静寂。
次の瞬間、さらに大きな歓声が上がった。

蓮は軽く息を整え、タオルで汗を拭く。
表情はいつも通り、穏やかで落ち着いている。

「……お疲れ様です!」
近くの生徒に声をかけられ、短く頷いた。

(……騒がしいな)

内心ではそう思いながらも、嫌な気はしていなかった。
ただ、視線の中に混じる一つの存在を、自然と探してしまう。

——朝陽。

彼がこの光景を見たら、どんな顔をするだろうか。
驚くだろうか。
それとも、少し困ったように笑うだろうか。

そんなことを考えながら、蓮は静かに体育館を後にした。

その背中を、今日も多くの視線が追っていた。





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