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夏休み 生徒会とプール
夏休みの御影学園は、少しだけ静かだった。
授業のない校舎は熱を溜め込み、廊下を歩くだけで制服の中にじんわり汗が滲む。
「あっつー……もう無理」
生徒会室のソファに転がりながら、湊翔が大きく伸びをした。
「なあ、せっかく夏休みなんだしさ。プール行かない?」
その一言に、湊翔に視線が集まる。
「学園内のプールですか?」
「……いいね」
悠真は短くそう言い、窓の外を見た。
蓮は頷きながら、朝陽の方をちらりと見る。
「朝陽は?」
突然話を振られ、朝陽は少しだけ肩を揺らした。
「え……あ、はい……」
——泳げない。
喉まで出かかった言葉を、飲み込む。
「……行きます」
湊翔は勢いよく立ち上がる。
「よっしゃ決まり! 着替えて行こ!」
誰も反対しない。
朝陽だけが、密かに小さく手を握りしめていた。
——大丈夫。浅いところにいれば。
——見てるだけでも、いいし。
そう、自分に言い聞かせながら。
⸻
学園内プールは、夏の日差しを反射してきらきらと光っていた。
更衣室で着替え、プールサイドに出ると、すでに4人は準備万端だった。
50メートルの長さに、整然と並ぶ10レーン。
表示を見ると、水深は1.4メートルから始まり、奥へ行くほど深くなり、最深部は2メートル。
——深い……。
プールを目の前にして、中学校でのプールよりも長くて深い、と思わず足が止まる。
「先行くぞー!」
湊翔が勢いよく飛び込み、水しぶきが上がる。
「……はしゃぎすぎです」
そう言いながらも、千早は無駄のない動きで入水した。
悠真も静かに水に沈み、蓮は余裕のあるフォームで泳ぎ出す。
朝陽は、最後までプールサイドに残っていた。
——浅いところに居ればいいんだし…
意を決して、浅い方の階段から足を入れる。
「……っ」
冷たい水が、足首から一気に伝わる。
でも、不思議と嫌ではない。
「……気持ちいい……」
腰、胸へと水位が上がる。
つま先が、しっかり床に触れていることを確認して、ほっと息をついた。
「朝陽、こっち来いよー」
湊翔が手を振る。
そこは、もう少し深い。
「だ、大丈夫です……ここで……」
「いけるって。ほら」
軽い調子で近づいてくる湊翔。
蓮も、少し離れたところから様子を見ていた。
朝陽は、ゆっくりと前へ進む。
——まだ、足つく。
——大丈夫。
一歩、また一歩。
そして、ふと。
床の感触が、消えた。
「……わっ」
身体が沈む。
バランスを崩し、水を大きく飲み込む。
「っ……!?」
視界が揺れ、息ができない。
手足をばたつかせるが、水の中では思うように動かない。
——怖い。
——沈む。
次の瞬間、強い腕が身体を掴んだ。
「朝陽!」
蓮の声。
ぐっと引き上げられ、顔が水面に出る。
「ごほっ……げほ……っ」
必死に咳き込む朝陽を、蓮は離さなかった。
「……無茶するな」
声は低く、はっきりしていた。
プールサイドに戻され、朝陽は座り込む。
胸が上下し、視界がまだ少し揺れている。
「……すみません……」
そう言いかけた朝陽の頭に、ぽん、とタオルがかけられた。
「謝るな」
蓮は短く言い、どこからか浮き輪を持ってくる。
「今日は、これ」
「え……」
「義務」
有無を言わせない口調だった。
湊翔が頭を掻く。
「……泳げないなら、言ってよ」
責める調子ではなかった。
「ごめんなさい……」
「まあ、先に分かってよかったけどね」
千早が静かに続ける。
「そのうち海に行こう、という話も出ると思っていましたから」
悠真は、朝陽の濡れた髪を見て一言。
「……無事でよかった」
浮き輪をつけ、再び水に入る朝陽。
今度は、蓮がすぐそばにいた。
「……大丈夫か」
「……はい」
水は冷たく、夏の光は眩しい。
——言えなかった。
——でも、助けてもらえた。
浮き輪に身を預けながら、朝陽は胸の奥が少し温かくなるのを感じていた。
夏休みの一日。
それは、少し恥ずかしくて、少し優しい思い出として、
朝陽の中に残った。
水中では朝陽から目を離してはいけないと
4人の中に残った。
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