全寮制男子高校 短編集

天気

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体力測定 千早

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体育館に入った瞬間、皇千早は空気の温度を測るように、静かに周囲を見渡した。
冬の冷えた空気。床のきしむ音。整然と並べられた測定器具。
――体力測定。
彼にとっては、得意でも苦手でもない、ただ「結果を出すべき場」だった。

「次、反復横跳び」

淡々とした教師の声。
千早は眼鏡の位置を指で直し、指定された位置に立つ。

笛が鳴る。

一歩目から無駄がなかった。
派手さはない。だが、足の運びは正確で、軸がぶれない。
左右への切り返しも一定のテンポを保ち、疲労を最小限に抑えている。

「……静かにすごくない?」
「数、かなりいってます!!」

終了の合図。
記録係が数値を確認し、小さく頷いた。

「満点」

小さなどよめき。
千早は特に反応せず、次の種目へ向かう。

立ち幅跳び。
助走も気合いもない。
呼吸を整え、膝を沈め、必要十分な力だけを出す。

――着地。

ラインは、ちょうど最高点の位置を越えていた。

「……狙った?」
「ぴったりじゃない?」

握力測定では、機械を強く握りしめることはしない。
指全体を均等に使い、力を逃さず伝える。

表示された数値は、やはり最高点。

「副会長、全部安定してるな……」
「会長タイプとは別の怖さある」

上体起こしでは、回数を数える声が途中で追いつかなくなる。
呼吸は一定、動きは正確。
無駄な反動は一切使わない。

長座体前屈では、ゆっくりと体を倒し、無理なくラインを越える。
柔軟性すら、計算のうちだった。

最後のシャトルラン。

千早はスタートラインに立ち、深く息を吸う。
目線は前。
周囲の声は、すでに耳に入っていない。

電子音。
走り出す。

蓮とは違う。
爆発力や圧倒的な余裕ではなく、一定のペースで、確実に。
フォームは崩れず、歩幅も変わらない。

回数が進むにつれ、周囲が一人、また一人と脱落していく。
それでも千早の足取りは乱れなかった。

「……まだ余裕あるよな」
「顔色変わらないし」

最後の音が鳴る。

終了。

千早はその場で立ち止まり、静かに息を吐いた。
額にうっすらと汗は滲んでいるが、肩で息をすることはない。

教師が記録表を見て、眼鏡越しに告げる。

「皇。全種目、最高得点。オール10だ」

「……やっぱり」

拍手と小さな歓声。
派手な声は少ないが、感嘆の視線が集まる。

「副会長、綺麗だな……」
「無駄が一切ないのが逆にかっこいいです…!」

千早は一礼するように頭を下げ、タオルを手に取る。

「以上ですか」

「あぁ。お疲れ」

淡々としたやり取り。
だが、その背中には、生徒会副会長としての信頼と、静かなカリスマが滲んでいた。

(……会長は目立つ。だが)

千早は一瞬だけ、蓮の方を見る。

(支える役目も、悪くない)

そう心の中で呟き、次の指示へ備えるように姿勢を整えた。

静かで、正確で、揺るがない。
皇千早の体力測定は、そうして派手に語られないまま、
確かな「オール10」を刻んでいた。







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