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086 気ままな猫
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「せああああああああああああああああ!」
「どっせい!」
模擬戦をするエレオノールとジゼルの叫び声を背後に、オレはイザベルと向かい合っていた。真っ黒な喪服のような夜会ドレスを身に纏うイザベルを見ていると、深い森の中に居るのが嘘みたいに場違いに思えた。
イザベルは確かな信念をもってこの服を装備していることは知っているが、白い胸元や肩が露出した姿は、ひどく危なっかしい。
オレが【収納】のギフトの能力で相手の飛び道具を無効化できるようになったため、少しは安全になったが、もしもという時があるかもしれない。やはりイザベルには、もう少しだけ重装備にするよう言った方がいいだろう。
そんなことを内心で決意しながら、オレから口を開いた。
「まず、魔法ってのは、なによりも術者のイメージが大事らしい。魔法使いが詠唱と呼ばれる呪文を唱えるのは、自分の中にあるイメージをより明確にするためのものだと言われている」
イザベルは軽く頷くと、オレの考えを肯定する。
「らしいわね。でも……」
「分かってる。精霊魔法の場合、魔法を発動するのは、あくまで精霊だ。お前がどんなに明確な魔法のイメージを思い浮かべようと、それを正確に精霊に伝えなくちゃ、なんの意味もねぇ」
「問題はそこね……」
イザベルが腕を組んで、軽く溜息を吐く。イザベルにその気はこれっぽっちも無いだろうが、まるで自らの豊かな胸を強調しているかのようだ。
一応注意するべきか、オレは真剣に悩んだ。またオレからイザベルの胸に話題を向けるのは、リスクが大き過ぎる。またヘンタイだと思われたら洒落にならない。今はわりと上手く関係が築けているのだ。それを壊すことなんてできない。
オレは学習できるおじさんなのだ。
「精霊魔法の前提は知っているようだな」
「当たり前でしょう? 私の唯一の武器ですもの。勉強くらいするわ」
イザベルは頭が良い。きっと、これまでにも魔法の強化や、使える魔法の種類を増やそうと、情報収集をしていたのだろう。その向上心は大したものだ。
「じゃあ、次のステップだ。精霊に自分のオーダーを正確に伝えることだな」
「それが簡単にできたら苦労はしないわよ……」
イザベルが深い溜息を漏らす。よほど苦労しているようだな。
まぁ、それも無理はない。精霊は、人間の言葉を理解できないのだ。なので、言葉による説明は、精霊相手には意味を成さない。これが、エルフやドワーフたちが言う“精霊に魔法を使わせるのは、気まぐれな猫に芸を教えるようなもの”につながってくる。
それが単純なものならともかく、言葉の伝わらない相手に、自分のイメージを伝えることはとても難しいのだ。
特に、二つ目の魔法を教える時が最も難しいと言われている。どうすれば精霊に自分のイメージした魔法を正しく行使してもらえるか、全てが手探りだからだ。
どうやら、イザベルもここでつまずいているらしい。
だが、先にも言ったが、オレはイザベルのことをそんなに心配していない。イザベルには【精霊眼】と呼ばれる、精霊の姿が見える特別なギフトが与えられたからだ。
「まぁ、姿が見えるんだし、お前は普通の精霊魔法使いよりも、よほど恵まれているだろうよ」
オレの軽口に、イザベルが口をへの字にして、彼女にとっては珍しい顔をして零す。
「例え姿が見えても、猫に芸を覚えさせるのは、大変なことなのよ……」
「そりゃそうか……」
たしかに、そうかもしれないな。そして、イザベルもエルフやドワーフの言い回しを知っているようだ。
「そういや、精霊ってどんな姿をしてるんだ?」
オレはふと湧いた好奇心から、イザベルに尋ねていた。長いこと冒険者をやっているオレだが、精霊の姿ってやつを見たことも聞いたこともなかった。それだけ、【精霊眼】のギフトの所持者は貴重なのだ。
「そうね……。私がよく使うストーンショットは、土の精霊に命じているのだけど、その子は、歪な泥団子に小さな手足が生えた感じかしら?」
イザベルが、オレの足元を一点に見つめながら答える。丁度、オレの右足のすぐ近くだ。
「もしかして、ここに居るのか?」
「そうよ。この子……トロワルと名付けたのだけど、トロワルは貴方がお気に入りなのかしら。貴方の近くにいることが多いわ」
「ほう?」
知らない内に、オレは土の精霊に懐かれていたのかもしれない。まぁ、オレには見ることも触ることもできないから、あまり関係は無いがな。
「トロワルはたしか、土の中級精霊だったな。他にも水の下級精霊と、火の下級精霊と契約していると言っていたが、そいつらの魔法は使わないのか? いつもストーンショットばかりだが……」
「アンヌとドュースは……。水と火の精霊は、今のところ戦力に数えられないわね。使える魔法が、水の玉を空中に浮かべる魔法と、蝋燭のような、か細い火を出すだけだもの。どちらも二つ目の魔法に期待するしかない状態よ」
「そうか……」
イザベルがストーンショットばかりを使うのは、切れる手札がそれしかないからだった。
まぁ、精霊魔法使いによると、精霊が戦闘で役立つような魔法を覚えてくれるかは、運によるところが大きいらしい。ストーンショットという強力な切り札を得たイザベルは、幸運な方なのかもな。
だが、オレはイザベルに広域殲滅魔法を習得してほしいと思っている。
魔法使いの行使する魔法は、人の身には不可能な奇跡を可能にする唯一の手段と言ってもいい。オレが魔法を使えない人間だからか、魔法には無限の可能性があるように感じてしまうのだ。
イザベルが新たな魔法を習得するためなら、オレは助力を惜しまないつもりだ。
「参考になるかは分かんねぇが、知り合いのエルフに聞いた話でよければ話せるぞ」
まぁ、オレの助力なんて、何の役にも立たんかもしれんが……。
「お願いするわ。正直、手詰まりなのよ……」
それでも、少しでもイザベルの力になれたらと思う気持ちに嘘は無い。
「どっせい!」
模擬戦をするエレオノールとジゼルの叫び声を背後に、オレはイザベルと向かい合っていた。真っ黒な喪服のような夜会ドレスを身に纏うイザベルを見ていると、深い森の中に居るのが嘘みたいに場違いに思えた。
イザベルは確かな信念をもってこの服を装備していることは知っているが、白い胸元や肩が露出した姿は、ひどく危なっかしい。
オレが【収納】のギフトの能力で相手の飛び道具を無効化できるようになったため、少しは安全になったが、もしもという時があるかもしれない。やはりイザベルには、もう少しだけ重装備にするよう言った方がいいだろう。
そんなことを内心で決意しながら、オレから口を開いた。
「まず、魔法ってのは、なによりも術者のイメージが大事らしい。魔法使いが詠唱と呼ばれる呪文を唱えるのは、自分の中にあるイメージをより明確にするためのものだと言われている」
イザベルは軽く頷くと、オレの考えを肯定する。
「らしいわね。でも……」
「分かってる。精霊魔法の場合、魔法を発動するのは、あくまで精霊だ。お前がどんなに明確な魔法のイメージを思い浮かべようと、それを正確に精霊に伝えなくちゃ、なんの意味もねぇ」
「問題はそこね……」
イザベルが腕を組んで、軽く溜息を吐く。イザベルにその気はこれっぽっちも無いだろうが、まるで自らの豊かな胸を強調しているかのようだ。
一応注意するべきか、オレは真剣に悩んだ。またオレからイザベルの胸に話題を向けるのは、リスクが大き過ぎる。またヘンタイだと思われたら洒落にならない。今はわりと上手く関係が築けているのだ。それを壊すことなんてできない。
オレは学習できるおじさんなのだ。
「精霊魔法の前提は知っているようだな」
「当たり前でしょう? 私の唯一の武器ですもの。勉強くらいするわ」
イザベルは頭が良い。きっと、これまでにも魔法の強化や、使える魔法の種類を増やそうと、情報収集をしていたのだろう。その向上心は大したものだ。
「じゃあ、次のステップだ。精霊に自分のオーダーを正確に伝えることだな」
「それが簡単にできたら苦労はしないわよ……」
イザベルが深い溜息を漏らす。よほど苦労しているようだな。
まぁ、それも無理はない。精霊は、人間の言葉を理解できないのだ。なので、言葉による説明は、精霊相手には意味を成さない。これが、エルフやドワーフたちが言う“精霊に魔法を使わせるのは、気まぐれな猫に芸を教えるようなもの”につながってくる。
それが単純なものならともかく、言葉の伝わらない相手に、自分のイメージを伝えることはとても難しいのだ。
特に、二つ目の魔法を教える時が最も難しいと言われている。どうすれば精霊に自分のイメージした魔法を正しく行使してもらえるか、全てが手探りだからだ。
どうやら、イザベルもここでつまずいているらしい。
だが、先にも言ったが、オレはイザベルのことをそんなに心配していない。イザベルには【精霊眼】と呼ばれる、精霊の姿が見える特別なギフトが与えられたからだ。
「まぁ、姿が見えるんだし、お前は普通の精霊魔法使いよりも、よほど恵まれているだろうよ」
オレの軽口に、イザベルが口をへの字にして、彼女にとっては珍しい顔をして零す。
「例え姿が見えても、猫に芸を覚えさせるのは、大変なことなのよ……」
「そりゃそうか……」
たしかに、そうかもしれないな。そして、イザベルもエルフやドワーフの言い回しを知っているようだ。
「そういや、精霊ってどんな姿をしてるんだ?」
オレはふと湧いた好奇心から、イザベルに尋ねていた。長いこと冒険者をやっているオレだが、精霊の姿ってやつを見たことも聞いたこともなかった。それだけ、【精霊眼】のギフトの所持者は貴重なのだ。
「そうね……。私がよく使うストーンショットは、土の精霊に命じているのだけど、その子は、歪な泥団子に小さな手足が生えた感じかしら?」
イザベルが、オレの足元を一点に見つめながら答える。丁度、オレの右足のすぐ近くだ。
「もしかして、ここに居るのか?」
「そうよ。この子……トロワルと名付けたのだけど、トロワルは貴方がお気に入りなのかしら。貴方の近くにいることが多いわ」
「ほう?」
知らない内に、オレは土の精霊に懐かれていたのかもしれない。まぁ、オレには見ることも触ることもできないから、あまり関係は無いがな。
「トロワルはたしか、土の中級精霊だったな。他にも水の下級精霊と、火の下級精霊と契約していると言っていたが、そいつらの魔法は使わないのか? いつもストーンショットばかりだが……」
「アンヌとドュースは……。水と火の精霊は、今のところ戦力に数えられないわね。使える魔法が、水の玉を空中に浮かべる魔法と、蝋燭のような、か細い火を出すだけだもの。どちらも二つ目の魔法に期待するしかない状態よ」
「そうか……」
イザベルがストーンショットばかりを使うのは、切れる手札がそれしかないからだった。
まぁ、精霊魔法使いによると、精霊が戦闘で役立つような魔法を覚えてくれるかは、運によるところが大きいらしい。ストーンショットという強力な切り札を得たイザベルは、幸運な方なのかもな。
だが、オレはイザベルに広域殲滅魔法を習得してほしいと思っている。
魔法使いの行使する魔法は、人の身には不可能な奇跡を可能にする唯一の手段と言ってもいい。オレが魔法を使えない人間だからか、魔法には無限の可能性があるように感じてしまうのだ。
イザベルが新たな魔法を習得するためなら、オレは助力を惜しまないつもりだ。
「参考になるかは分かんねぇが、知り合いのエルフに聞いた話でよければ話せるぞ」
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