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男の子の手によって、鳥籠の扉は開きました。けれど、フェリシアの身体はもううまく動きません。最後の羽を抜いてしまったのだから当然です。
(だいたい、お役目を投げ出していたのだから仕方がないわ)
フェリシアのことを両のてのひらで包んでくれたのでしょう。心地よい温もりとともに、身体がふわりと浮き上がりました。
「もっと早く助けに来れば良かったんだ。俺が意地を張ったばっかりに」
男の子が泣いています。
(どうして、泣くの? あなたは何にも悪くないのに)
幸せの妖精の役割を忘れて暮らしていたのです。愚かな妖精の末路としては、上出来なのではないでしょうか。ひとりぼっちで消えるのではなく、別れを惜しんでくれる相手がいるのですから。
(ああ、あたたかい)
あふれ出た涙が頬を伝い落ち、空から降る雨のようにフェリシアの身体に吸い込まれて行きました。
「全部、お前に返すよ。だからまた、あの綺麗な歌を聞かせてくれ。そして、お前と一緒に俺も旅に連れていってくれないか。これからは、俺がお前を守るから」
そのときです。くたりとしていたフェリシアの身体が光輝きはじめました。あまりのまぶしさに男の子が驚いていると、やがてゆっくりと光が和らいでいきました。そしてそこには、美しい女の子が立っていたのです。
「優しい願いをありがとう」
なんということでしょう。美しかったお屋敷はあばら家に、豊かな麦畑が続いていた場所は草も生えない荒れ地になっているではありませんか。遠くの方で、老婆と老爺が何かを抱えて泣き叫んでいるのが見えました。
「ねえ、怒ってる?」
「どうして?」
「私があなたたちに分け与えていた幸せをすべて返してもらったから」
おずおずと問いかけたフェリシアに、男の子は小さく首を横に振りました。
「もともとあの豊かさは、全部お前のおかげだ。度を過ぎた幸せをむしりとったから、罰が当たったんだ」
「差し出した私がいけなかったのに?」
「そんなことはないさ。思いやりを忘れた人間が悪いんだ。ほんの少しなら、神さまだってお目こぼししてくれていたはずなんだ。それに幸せというものは、富だけを指すものじゃないだろう?」
男の子のどこかさっぱりとした笑顔は、あの女の子によく似ています。
久しぶりに見た広い青空は、どこまでも遠く澄みわたっています。閉じ込められていた鳥籠から出てきたフェリシアは、本来のお役目を果たすために空に飛び立つのです。
旅をしているときには先の見えなさに疲れ果てていたはずなのに、今はなぜか胸が高鳴ります。
人間を知ることができたのは、女の子のおかげです。やっぱりフェリシアは女の子のことが大好きなままでした。自然とお礼の言葉が口から出ます。
「ありがとう、クリス」
「別に礼を言われるほどのことじゃないさ。でもなんで俺の名前を知っているんだ?」
クリスは、男女どちらにも使える愛称です。あの女の子と目の前の男の子が同じ名前だと知って、フェリシアは嬉しくなりました。
(あなたはちゃんと約束を守ってくれたのね)
そして、男の子に手を差し出して言いました。
「さあ、じゃあ準備はいい?」
「え?」
「何を驚いた顔をしているの。あなたも一緒に行くって言ったでしょう?」
「本当について行ってもいいのか? 神さまから預かったお役目だろう?」
フェリシアはにこりと笑って答えました。
「あなたと一緒なら、私はどこへだって行けるわ」
「でも、俺のせいでお前は」
「あなただって、私のことを許してくれたじゃない」
「それとこれとは話が違うだろう」
戸惑う男の子に、フェリシアは言いました。
「何かを始めるのに遅過ぎるということはないのよ。痛みを知ってからやり直すことだってできる。自分のことを省みることさえできるなら。私たちはそれを学んだばかりでしょう?」
「ありがとう。今度こそ、ちゃんと守ってみせるから」
フェリシアの手を男の子が取ると、ふたりはまるで春風のようにふうわりと飛び立ってしまいました。あとには、ぼろぼろになった小さな鳥籠がひとつ残されているだけです。
(だいたい、お役目を投げ出していたのだから仕方がないわ)
フェリシアのことを両のてのひらで包んでくれたのでしょう。心地よい温もりとともに、身体がふわりと浮き上がりました。
「もっと早く助けに来れば良かったんだ。俺が意地を張ったばっかりに」
男の子が泣いています。
(どうして、泣くの? あなたは何にも悪くないのに)
幸せの妖精の役割を忘れて暮らしていたのです。愚かな妖精の末路としては、上出来なのではないでしょうか。ひとりぼっちで消えるのではなく、別れを惜しんでくれる相手がいるのですから。
(ああ、あたたかい)
あふれ出た涙が頬を伝い落ち、空から降る雨のようにフェリシアの身体に吸い込まれて行きました。
「全部、お前に返すよ。だからまた、あの綺麗な歌を聞かせてくれ。そして、お前と一緒に俺も旅に連れていってくれないか。これからは、俺がお前を守るから」
そのときです。くたりとしていたフェリシアの身体が光輝きはじめました。あまりのまぶしさに男の子が驚いていると、やがてゆっくりと光が和らいでいきました。そしてそこには、美しい女の子が立っていたのです。
「優しい願いをありがとう」
なんということでしょう。美しかったお屋敷はあばら家に、豊かな麦畑が続いていた場所は草も生えない荒れ地になっているではありませんか。遠くの方で、老婆と老爺が何かを抱えて泣き叫んでいるのが見えました。
「ねえ、怒ってる?」
「どうして?」
「私があなたたちに分け与えていた幸せをすべて返してもらったから」
おずおずと問いかけたフェリシアに、男の子は小さく首を横に振りました。
「もともとあの豊かさは、全部お前のおかげだ。度を過ぎた幸せをむしりとったから、罰が当たったんだ」
「差し出した私がいけなかったのに?」
「そんなことはないさ。思いやりを忘れた人間が悪いんだ。ほんの少しなら、神さまだってお目こぼししてくれていたはずなんだ。それに幸せというものは、富だけを指すものじゃないだろう?」
男の子のどこかさっぱりとした笑顔は、あの女の子によく似ています。
久しぶりに見た広い青空は、どこまでも遠く澄みわたっています。閉じ込められていた鳥籠から出てきたフェリシアは、本来のお役目を果たすために空に飛び立つのです。
旅をしているときには先の見えなさに疲れ果てていたはずなのに、今はなぜか胸が高鳴ります。
人間を知ることができたのは、女の子のおかげです。やっぱりフェリシアは女の子のことが大好きなままでした。自然とお礼の言葉が口から出ます。
「ありがとう、クリス」
「別に礼を言われるほどのことじゃないさ。でもなんで俺の名前を知っているんだ?」
クリスは、男女どちらにも使える愛称です。あの女の子と目の前の男の子が同じ名前だと知って、フェリシアは嬉しくなりました。
(あなたはちゃんと約束を守ってくれたのね)
そして、男の子に手を差し出して言いました。
「さあ、じゃあ準備はいい?」
「え?」
「何を驚いた顔をしているの。あなたも一緒に行くって言ったでしょう?」
「本当について行ってもいいのか? 神さまから預かったお役目だろう?」
フェリシアはにこりと笑って答えました。
「あなたと一緒なら、私はどこへだって行けるわ」
「でも、俺のせいでお前は」
「あなただって、私のことを許してくれたじゃない」
「それとこれとは話が違うだろう」
戸惑う男の子に、フェリシアは言いました。
「何かを始めるのに遅過ぎるということはないのよ。痛みを知ってからやり直すことだってできる。自分のことを省みることさえできるなら。私たちはそれを学んだばかりでしょう?」
「ありがとう。今度こそ、ちゃんと守ってみせるから」
フェリシアの手を男の子が取ると、ふたりはまるで春風のようにふうわりと飛び立ってしまいました。あとには、ぼろぼろになった小さな鳥籠がひとつ残されているだけです。
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