瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠

文字の大きさ
6 / 7

(6)

しおりを挟む
 男の子の手によって、鳥籠の扉は開きました。けれど、フェリシアの身体はもううまく動きません。最後の羽を抜いてしまったのだから当然です。

(だいたい、お役目を投げ出していたのだから仕方がないわ)

 フェリシアのことを両のてのひらで包んでくれたのでしょう。心地よい温もりとともに、身体がふわりと浮き上がりました。

「もっと早く助けに来れば良かったんだ。俺が意地を張ったばっかりに」

 男の子が泣いています。

(どうして、泣くの? あなたは何にも悪くないのに)

 幸せの妖精の役割を忘れて暮らしていたのです。愚かな妖精の末路としては、上出来なのではないでしょうか。ひとりぼっちで消えるのではなく、別れを惜しんでくれる相手がいるのですから。

(ああ、あたたかい)

 あふれ出た涙が頬を伝い落ち、空から降る雨のようにフェリシアの身体に吸い込まれて行きました。

「全部、お前に返すよ。だからまた、あの綺麗な歌を聞かせてくれ。そして、お前と一緒に俺も旅に連れていってくれないか。これからは、俺がお前を守るから」

 そのときです。くたりとしていたフェリシアの身体が光輝きはじめました。あまりのまぶしさに男の子が驚いていると、やがてゆっくりと光が和らいでいきました。そしてそこには、美しい女の子が立っていたのです。

「優しい願いをありがとう」

 なんということでしょう。美しかったお屋敷はあばら家に、豊かな麦畑が続いていた場所は草も生えない荒れ地になっているではありませんか。遠くの方で、老婆と老爺が何かを抱えて泣き叫んでいるのが見えました。

「ねえ、怒ってる?」
「どうして?」
「私があなたたちに分け与えていた幸せをすべて返してもらったから」

 おずおずと問いかけたフェリシアに、男の子は小さく首を横に振りました。

「もともとあの豊かさは、全部お前のおかげだ。度を過ぎた幸せをむしりとったから、罰が当たったんだ」
「差し出した私がいけなかったのに?」
「そんなことはないさ。思いやりを忘れた人間が悪いんだ。ほんの少しなら、神さまだってお目こぼししてくれていたはずなんだ。それに幸せというものは、富だけを指すものじゃないだろう?」

 男の子のどこかさっぱりとした笑顔は、あの女の子によく似ています。

 久しぶりに見た広い青空は、どこまでも遠く澄みわたっています。閉じ込められていた鳥籠から出てきたフェリシアは、本来のお役目を果たすために空に飛び立つのです。

 旅をしているときには先の見えなさに疲れ果てていたはずなのに、今はなぜか胸が高鳴ります。

 人間を知ることができたのは、女の子のおかげです。やっぱりフェリシアは女の子のことが大好きなままでした。自然とお礼の言葉が口から出ます。

「ありがとう、クリス」
「別に礼を言われるほどのことじゃないさ。でもなんで俺の名前を知っているんだ?」

 クリスは、男女どちらにも使える愛称です。あの女の子と目の前の男の子が同じ名前だと知って、フェリシアは嬉しくなりました。

(あなたはちゃんと約束を守ってくれたのね)

 そして、男の子に手を差し出して言いました。

「さあ、じゃあ準備はいい?」
「え?」
「何を驚いた顔をしているの。あなたも一緒に行くって言ったでしょう?」
「本当について行ってもいいのか? 神さまから預かったお役目だろう?」

 フェリシアはにこりと笑って答えました。

「あなたと一緒なら、私はどこへだって行けるわ」
「でも、俺のせいでお前は」
「あなただって、私のことを許してくれたじゃない」
「それとこれとは話が違うだろう」

 戸惑う男の子に、フェリシアは言いました。

「何かを始めるのに遅過ぎるということはないのよ。痛みを知ってからやり直すことだってできる。自分のことを省みることさえできるなら。私たちはそれを学んだばかりでしょう?」
「ありがとう。今度こそ、ちゃんと守ってみせるから」

 フェリシアの手を男の子が取ると、ふたりはまるで春風のようにふうわりと飛び立ってしまいました。あとには、ぼろぼろになった小さな鳥籠がひとつ残されているだけです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さな歌姫と大きな騎士さまのねがいごと

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしとある国で、戦いに疲れた騎士がいました。政争に敗れた彼は王都を離れ、辺境のとりでを守っています。そこで彼は、心優しい小さな歌姫に出会いました。 歌姫は彼の心を癒し、生きる意味を教えてくれました。彼らはお互いをかけがえのないものとしてみなすようになります。ところがある日、隣の国が攻めこんできたという知らせが届くのです。 大切な歌姫が傷つくことを恐れ、歌姫に急ぎ逃げるように告げる騎士。実は高貴な身分である彼は、ともに逃げることも叶わず、そのまま戦場へ向かいます。一方で、彼のことを諦められない歌姫は騎士の後を追いかけます。しかし、すでに騎士は敵に囲まれ、絶対絶命の危機に陥っていました。 愛するひとを傷つけさせたりはしない。騎士を救うべく、歌姫は命を賭けてある決断を下すのです。戦場に美しい花があふれたそのとき、騎士が目にしたものとは……。 恋した騎士にすべてを捧げた小さな歌姫と、彼女のことを最後まで待ちつづけた不器用な騎士の物語。 扉絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

おばあちゃんっ子 ーもうこの世界にいないあなたへー

かみつ
児童書・童話
20年以上前に死んでしまった、祖母との大切な思い出を、思い出すままに書いていきます。人はどんなに大事な想いもいつかは忘れていく生き物です。辛いこともそうです。だから、もう2度と思い出すことのないことかもしれない、何気ないことも、書いていきます。 人として、とても素晴らしい、 誰からでも愛されるそんな祖母でした。 今は亡き祖母へ もう届くことのない、わたしの想いをここに書き記します。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

緑色の友達

石河 翠
児童書・童話
むかしむかしあるところに、大きな森に囲まれた小さな村がありました。そこに住む女の子ララは、祭りの前日に不思議な男の子に出会います。ところが男の子にはある秘密があったのです……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、貴様 二太郎様に描いて頂きました。

処理中です...