殿下、私の身体だけが目当てなんですね!

石河 翠

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「おい、説明しろ」
「ああ、この格好ヤバいですよね。でもローブの下は例のあのどえらい衣装なので。ええ、似合わないことはわかっているのです。でも、あの極大魔法を発動させると強制的にしばらくこの格好なんですよ。おかげで馬車で神殿に帰ろうにも帰れなくて」

 パーティーが終わった王城の庭では、ローブをかぶった「片付け」の聖女が不満そうにむすくれていた。彼女の懐から、もふっとしたまるっこい生き物が顔をのぞかせる。先ほど王太子にいろいろとよくわからないことを説明していた例の生き物だ。

「だから奥義など使わずに、さっさとこの城ごと焼き尽くせばよかったのだ」
「だから一体なんなのだ、やたら物騒で意味深な発言をするもふもふとした生き物は!」
「あら、殿下。魔法少女にはかわいいマスコットキャラが必須なのですよ」
「マスコットキャラが何かは知らんが、かわいいと形容されるものは、『焼き尽くす』などという物騒な言葉は口にせんだろうが」
「えー、最高神さま、なんかめっちゃ厳しいこと言われてますよ。どうします?」
「ふむ、困ったものだ」
「おい、そのもふもふの中身が最高神だと!」
「あ、いっけない。こういうのは我が家の家訓いわくネタバレになるから、言っちゃだめでしたね。最高神さま、あとから殿下の記憶を『片付け』ておいてください」
「待て待て待て。だから、ちゃんといろいろ説明しろ」

 そこで「片付け」の聖女が語って聞かせたのは、壮大なようでどうにもへっぽこなこの世界の神さまのお話だった。

 世界的にバランスよく加護を与えればよいものを、「なんとなくここが好き」という理由でこの王国ばかりにバラまいてしまう。そのせいで、たびたび大陸中を巻き込む争いが発生しているのだとか。

 ときには加護を悪用して大陸中を手中におさめようとする王族が出てくることもあり、闇落ち聖女やら世界征服願望王族を潰すために動いているのが、異世界の勇者の末裔たちなのだという。

「どうして異世界の勇者が、そんな大層な役割を担うことになったのだ?」
「さあ? 勇者さまの故郷では、『闇落ちする魔法少女』とやらがわりとよく見られたそうで、その辺りが理由かもしれませんね。なにせ加護は、イメージの力が強いほど強固になるそうなので」
「だからなんなのだ、その魔法少女というのは?」
「こういうふりふりの格好をしたいたいけな聖女のことを言うそうですよ。このヤバい格好になっても大切なひとを助けたいと思えるなら、力をふるうことができるみたいです」
「まさか、勇者の末裔は聖人もそれを着るのか?」
「男性の場合も希望すれば着られるみたいです。父は、聖衣(クロス)というものを希望したそうですが」
「やはり何もわからぬ」

 盛大に困惑する王太子の顔を、くすくすと満足げにアンネマリーは見つめた。
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