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「あー、ファンサっていうのはファンサービスの略語ですよ。私の故郷は、かつての勇者さまが暮らした場所なので、わりといろんなところに勇者さまの故郷の言葉がそのまま残っているんですよね」
「そういう問題ではない。……いや、そういう問題の部分もあるが。そうか、お前のよくわからない言葉は、勇者殿の故郷の言葉なのか」
「らしいですよ。どうやっても言い替えが難しいなら、そのまんま定着させちゃえってなったみたいですね」
「豪快というか、おおらかというか」
「なんも考えてねーアホだなって言ってもいいんですよ?」
「言うか、ボケ」
「殿下、私に対してマジでキツくないですか?」
「丁寧に対応してほしかったら、丁寧に対応されるような口の利き方をするんだな」
「じゃあ別にいいです~」
「少しは考慮せんか」
「えー、無理~」
「お前は!」
王太子の眉間を指でつんとつつきながら、アンネマリーはにこりと笑った。
「それで、殿下の悩みごとは?」
「なんだ、この話は続きがあるのか?」
「そりゃそうですよ」
「……時々、腹芸が嫌になる。王族なのだから、清濁併せのまねばならないのはわかっているのに、全部ひっくり返してやりたくなる」
「じゃあ、素直に生きましょうよ。私みたいに♡」
「お前のように生きてたまるか」
「いやあ、底辺は底辺なりに楽しいんですよ。無駄に目立つと面倒くさいんで、能ある鷹は爪を隠しておけばいいんです」
「爪を隠したまま、爪があることを忘れて一生を過ごす羽目になっても知らんぞ」
「まあ、それはそれで幸せなんじゃないですかねえ」
「本当に、お前は」
「あ、また悪口ですか? もう、どうせ悪口を言うなら、皮肉で構わないんで『そんな(バカな)君が好きだよ』くらい言ってくださいよ。適宜脳内変換させますので」
「誰が言うか!」
「ちぇっ。殿下、やっぱりケチ~。他の聖女さまたちみたいに、リップサービスしてほしいいいいいいい。義理でいいからレディみたいに扱ってほしい~。よしよしして、抱っこしてほしい~」
「ええい、じたばたするな。子どもか!」
「子どもだったらよしよししてくれるんですか!」
「馬鹿が」
「あー、もういいです。超やる気なくなったので、私は今から不貞寝します。殿下もここでお昼寝しても構いませんよ。その代わり、私がここでのんびりタイムを過ごしていることは内緒でお願いします!」
勝手にぐうぐうと寝始めた聖女の横であっけにとられていた王太子だったが、おずおずと横になった。久しぶりにぐっすりと眠りについたせいで気が付いた時にはお日さまはすっかり昇ってしまっていて、ふたり同時に顔を青ざめさせることになる。
さらにその後、朝食を食べ損ねたあげく、どうしてもイラクサが食べたくなった「片付け」の聖女は、「治癒」の聖女に薬草園のイラクサを天ぷらにして食べたいと馬鹿正直言にねだりに行ったせいでこっぴどく叱られることになったのだった。
「そういう問題ではない。……いや、そういう問題の部分もあるが。そうか、お前のよくわからない言葉は、勇者殿の故郷の言葉なのか」
「らしいですよ。どうやっても言い替えが難しいなら、そのまんま定着させちゃえってなったみたいですね」
「豪快というか、おおらかというか」
「なんも考えてねーアホだなって言ってもいいんですよ?」
「言うか、ボケ」
「殿下、私に対してマジでキツくないですか?」
「丁寧に対応してほしかったら、丁寧に対応されるような口の利き方をするんだな」
「じゃあ別にいいです~」
「少しは考慮せんか」
「えー、無理~」
「お前は!」
王太子の眉間を指でつんとつつきながら、アンネマリーはにこりと笑った。
「それで、殿下の悩みごとは?」
「なんだ、この話は続きがあるのか?」
「そりゃそうですよ」
「……時々、腹芸が嫌になる。王族なのだから、清濁併せのまねばならないのはわかっているのに、全部ひっくり返してやりたくなる」
「じゃあ、素直に生きましょうよ。私みたいに♡」
「お前のように生きてたまるか」
「いやあ、底辺は底辺なりに楽しいんですよ。無駄に目立つと面倒くさいんで、能ある鷹は爪を隠しておけばいいんです」
「爪を隠したまま、爪があることを忘れて一生を過ごす羽目になっても知らんぞ」
「まあ、それはそれで幸せなんじゃないですかねえ」
「本当に、お前は」
「あ、また悪口ですか? もう、どうせ悪口を言うなら、皮肉で構わないんで『そんな(バカな)君が好きだよ』くらい言ってくださいよ。適宜脳内変換させますので」
「誰が言うか!」
「ちぇっ。殿下、やっぱりケチ~。他の聖女さまたちみたいに、リップサービスしてほしいいいいいいい。義理でいいからレディみたいに扱ってほしい~。よしよしして、抱っこしてほしい~」
「ええい、じたばたするな。子どもか!」
「子どもだったらよしよししてくれるんですか!」
「馬鹿が」
「あー、もういいです。超やる気なくなったので、私は今から不貞寝します。殿下もここでお昼寝しても構いませんよ。その代わり、私がここでのんびりタイムを過ごしていることは内緒でお願いします!」
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さらにその後、朝食を食べ損ねたあげく、どうしてもイラクサが食べたくなった「片付け」の聖女は、「治癒」の聖女に薬草園のイラクサを天ぷらにして食べたいと馬鹿正直言にねだりに行ったせいでこっぴどく叱られることになったのだった。
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