殿下、私の身体だけが目当てなんですね!

石河 翠

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 聖女アンネマリーの朝は早い。墓地の草むしりを命じられていたアンネマリーは、加護の力を使って、辺りを綺麗に整備していた。イラクサは小さな棘がたくさんあるが、「片付け」の加護を使えば、さくっと伸びすぎた分を刈り入れすることができるのだ。

「きゃー、殿下。こんなところでお会いするなんて、私たちきっと運命なんですね!」
「朝早くから墓地からきらきらしい声が聞こえると苦情があった。近所迷惑だ、止めろ」

 王太子の叱責に唇を尖らせつつ、アンネマリーはせっせと加護を発動させる。するするとイラクサが自ら身を任せるように刈り取られていく様は、美しさすらあった。作業を行っている聖女はと言えば、お腹の虫を大音量で鳴かせながらよだれを垂らしていたが。

「これ、天ぷらにしても美味しいんですよね。あー、でも、おひたしのほうが健康的かも?」
「墓地のイラクサを食べるんじゃない。異端審問で魔女判定されて、火あぶりになっても知らんぞ」
「わかってますって。かつて飢饉のときに、とある聖女さまが墓地のイラクサを食用として振舞って、えらい目にあったことがあるって聞きましたもん。美味しそうだなあ、勿体ないなあと思っているだけですよ」
「口に出すな」
「殿下の前でしか言わないからいいじゃないですかあ」
「俺の前で言うということは、俺の護衛や側近に伝わるということだが?」
「じゃあ、私の『おいしそうだなあ』発言がどこかから漏れたら、殿下の責任ってことで」
「いい加減、その減らず口を縫い留めてやろうか?」
「やーん、殿下ったら怒ったお顔もセクシーで素敵ですう。殿下のおかげで、とっても元気になりました。やはり殿下の御尊顔は、最高の栄養剤ですね!」

 作業を終了させてうきうきと小躍りするアンネマリーは、王太子の手を取ると軽やかにターンを決めてみせた。

「まったく、墓地でにこにこ楽しそうに過ごすのは、お前くらいだ」
「でもここ、鬱陶しい人間は少なくて楽なんですよ。おしゃべりなひとはかなり多いですが」
「……なんだ、その絶妙に気になる間は。いや、話さなくていい。むしろ話すな」
「もう、殿下ったら怖がりさんなんだから♡ この辺りの皆さん、結構情報通なんですよ。相談にも乗ってくれますし。殿下も何か相談してみます?」
「……箇条書きで教えてくれ」
「挿絵付きで説明したいです! あ、この下にいらっしゃる方の鎧が超カッコ良くて」
「断る!」

 王太子は聖女の隣に座り込むと、深いため息をついた。

「お前を見ていると、自分がアホみたいに思えてくる」
「ふーん、殿下、悩みごとですか?」
「お前は悩みごとがなさそうで羨ましいな」
「えー、私にだって悩みごとはありますよ」
「例えば?」
「好きぴがファンサしてくれないとか」
「お前は何を言っているのか、さっぱりわからん」

 うろんな眼差しを向ける王太子に、聖女がウインクをする。下手くそなウインクだったので、顔半分がしわくちゃだった。
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